第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-2] ポスター:運動器疾患 2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-2-5] フォルクマン拘縮患者がボタン操作自立に至るまでの課題指向型アプローチの取り組み

佐藤 真紀, 村田 景一, 矢島 弘嗣 (市立奈良病院 リハビリテーション室)

【はじめに】
前腕両骨骨折に対して観血的固定術を施行し,フォルクマン拘縮を合併した症例に筋前進術と腱移行術(長橈側手根伸筋→長母指屈筋腱(FPL))が施行された.術後に従来の機能訓練に加えて課題思考型アプローチ(TOA)を併用した結果,上衣のボタン操作が自立に至ったため以下に報告する. 尚,発表に際し,本症例には同意を得ている.
【症例紹介】
19歳女性,大学生.体操の練習中に平均台から落下し,救急病院受診.転移のある左橈尺骨骨幹部骨折と診断され,シーネ固定を施行された.帰宅後,同日夜間に疼痛増強し他病院に救急受診.鎮静下にて徒手整復を施行されるも,整復困難であり,再度シーネ固定をされた.受傷2日目に当院にて両骨プレート固定術施行.術後,前腕に水疱が出現した.術後1日目からOT開始.前腕から手指にかけて熱感・浮腫著明. 鷲手様となっていた.手指の表在・深部感覚脱失.疼痛強く前腕から手指までROMは自他動ともに制限著明.術後12日目の退院時には感覚障害・鷲手様はともに改善がみられたが,手指屈筋腱の短縮による指伸展不良が認められた.症例は学業を優先したため他院で夜間の外来リハビリに通院することとなった.術後3ヶ月の時点でフォルクマン拘縮(津下分類2度:中等症)と診断され, 術後4ヶ月に屈筋腱付着部切離・筋前進術,尺骨神経前方移行術,腱移行術(長橈側手根伸筋→FPL)を施行した.
【経過】
術後5日目よりOT開始.前腕から手指の自他動運動,前腕回外位手関節背屈20°手指伸展位保持での固定肢位管理と拘縮予防を行った.術後3週で自宅退院し,その後外来リハビリにて継続.術後15週目の評価として,TAM(母指116°示指220°中指248°環指242°小指250°).握力(右21.6kg,左10.1kg).3指つまみ(右/左)3.4㎏/1.9㎏.母指-示指指腹つまみ7㎏/3.1㎏.母指-示指指尖つまみ2.9㎏/1.7kg.手のしびれは消失.腱移行術後のFPL機能転換訓練においては手関節背屈位・中間位・掌屈位にて獲得.独居・大学生活は自立していたが,ボタン操作に困難を示した. ボタンもしくはボタン横の布を指腹つまみして,ボタン穴に入れていた.そのため「スムーズなボタン操作の獲得」を目標とし,自主訓練にてTOAを取り入れた.shapingでは洗濯ばさみを用いて指尖つまみを促し,task practiceでは机上で男性用のYシャツボタン操作練習を実施した.外来リハビリ時に適宜フィードバックと段階付けを行った.
【最終結果】術後5ヶ月の評価としてTAM(母指136°示指246°中指252°環指250°小指250°),握力左11.3kg.MMT(FPL4-,示指FDP4),3指つまみ(左)2.6 kg,母指-示指指腹つまみ3.4 kg,母指-示指指尖つまみ1.7㎏,STEF(右97点,左96点).代償動作なくスムーズなボタン操作を獲得し,受傷前の状態同様まで回復した.
【考察と展望】
フォルクマン拘縮の筋前進術後は深指屈筋(FDP)の筋力低下がみられる(津下健哉,2011).本症例では示指FDPの筋力低下と腱移行術後のFPLの筋力低下により,ボタン操作に困難を示した.TOAにて,症例が重視する目標を明確にし,具体的なADLの練習を段階的に反復実施した結果,指尖つまみ力は向上しなかったものの,ボタンの指尖つまみを獲得し,スムーズなボタン操作を実現する事ができた.この成果はTOAを通じて,直接的な手のフォームや力の調整,協調性,作業速度調整などを効率的に学習したことに起因すると考えられ,TOAを併用することの有効性を示している.今後も患者個々のニーズに合わせ,日常生活の課題に焦点を当てたTOAを取り組んでいき患者の機能回復に貢献したい.