第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-2] ポスター:運動器疾患 2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-2-9] 空圧式デジタル握力計の開発(第二報)

予備加圧自動化の検証

藤岡 晃1, 松岡 玲衣1, 岸本 俊夫2, 岡 久雄3, 濱田 全紀1 (1.岡山大学病院 総合リハビリテーション部, 2.岡山大学 研究推進機構 医療系本部, 3.岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域)

【はじめに】
従来,手指変形が強い関節リウマチ患者(以下,RA)等の握力測定には,水銀式握力計(以下,水銀計)が使用されてきた.しかし,水俣条約により水銀計の販売が終了され,再販予定もない.そこで我々は,空圧式デジタル握力計製品仕様版(以下,空圧計)を開発し,水銀計との計測比較を報告した(第57回本学会).水銀式握力計は,計測前にゴム球で握力カフを加圧し20mmHgになるまで予備圧をかける動作(以下,計測準備)が必要となる.この動作は通常計測者が行うが,本器のデジタル化に伴い予備加圧が自動化されたので,両者の計測準備にかかる時間と計測者の負担感等に違いがあるかを検討した.実験協力者(以下,被検者)には書面と口頭で説明し同意を得た.
【方法】
1.空圧計の計測準備 検者が予備圧スイッチを押すと,空圧ポンプにより予め27mmHg程度までカフが加圧され,その後小型開放弁にて20mmHgとなるよう排気され,準備完了となる.
2.対象 当院で水銀計の使用経験のある作業療法士と理学療法士,計17名.平均経験年数12.5±6.9年.
3.実験手順 普段臨床で使用している机を使用し,被検者の手の届く範囲に水銀計,空圧計双方を準備.検者のスタートの合図と同時に,被検者は指定された機器を順に計測準備完了状態にする.検者はそれに要した時間を計測,計測順はランダムとする.検討は,計測準備に要した各時間の平均をt検定にて比較する.加えて実験終了後に被検者に対し,7段階のリッカート尺度(4が同等,数字が小さいほど不良)による設問にて,水銀計に比して空圧計に対する各平均値を算出する.内容は,①患者を待たせるなどの心理的負担感 ②計測準備にかかわる身体的負担感 ③患者に目を配るなどの安全面の負担感 ④患者との会話時間である.統計ソフトはSPSS,v25を用いた.
【結果】
計測準備に要した平均時間は水銀計では25.8秒,空圧計では22.1秒であり,t検定の結果,P=0.047で空圧計の方が有意に早かった(p<0.05).リッカート尺度では,①患者を待たせるなどの心理的負担感は5.2 ②計測準備にかかわる身体的負担感は6.3 ③患者に目を配るなどの安全面の負担感は6.1 ④患者との会話時間は5.3であった.また,全ての項目において3以下の回答は無かった.
【考察】
水銀計と空圧計の計測準備の比較において,水銀計の方が時間を要した背景に,予備圧を20mmHgに合わせるためにカフへの加圧と排圧をゴム球にて複数回繰り返す動作が考えられる.また,この動作中に計測者は,測定器に目と手を集中させることが求められる.リッカート尺度による水銀計に比する空圧計の結果は,計測準備にかかわる身体的負担感が6.3,患者を待たせるなどの心理的負担感は5.2であった.この結果から空圧計を使用する事は,計測者にとって心身の負担の軽減につながることが推測される.またリッカート尺度にて,患者に目を配るなどの安全面の負担感が6.1,患者との会話時間は5.3であったことより,医療安全や患者サービスの向上にも資するものと推測される.以上の内容より,空圧計のスイッチを押すだけで計測準備が整う機構は,計測者のみならず,患者にとっても有益な機能であることが考えられた.尚,本研究は,令和4年度スタートアップ・エコシステム形成支援,所属施設の令和4年度ベンチャー起業支援事業の支援を受けて実施した.