[PD-3-3] 腱鞘断裂に対して腱鞘再建術後に早期リハビリテーションを行った1例
緒言
今回,A2腱鞘断裂に対して橈骨手根屈筋の半裁腱を用いた腱鞘再建術後のリハビリテーションを経験したため臨床成績を報告する.
症例
25歳,男性,職業は警察官であり,診断名は左環指A2腱鞘断裂である.受傷機転は,逮捕術の競技練習に警棒を把持した左手を強打し,直後より手指屈曲にて左環指基節部の疼痛,握力低下を生じた.その後,症状が持続したため受傷2週にて当院受診となった.初診時のMRI画像検査では,屈筋腱の連続性は確認出来たが,横断像にて隣接指と比較すると屈筋腱の浮き上がりを認めたため腱鞘断裂と考え,受傷4週にて手術となった.患側環指の術前total active motion(以下TAM)は225度であり,健側環指のTAMは264度であり,握力は41.3kg(健側比80.1%)であり,疼痛は自動屈曲時,環指基節部掌側に認めておりvisual analog scale(以下VAS)にて46/100であった.Quick DASHは13.6点であり,jobは43.7点であった.
リハビリテーション
翌日より,背側ブロッキングスプリントを作製し訓練時以外は装着とした.また同日より,関節可動域訓練を開始した.日常生活では患側手の使用を避けるように指導した.術後3週より,腱の浮き上がりを抑制するためリングスプリントを作製し常時装着とし背側ブロッキングスプリントは夜間のみとした.同時期より,手関節は伸展位としてMP関節を含む手指の自動運動を開始した.術後6週より,背側ブロッキングスプリントは除去し,リングスプリント装着下に患側手の軽作業を許可した.術後12週より,リングスプリント装着下での重作業および逮捕術を許可したが,力強い握りを行う際は,環指の基節骨全周に渡るようテーピングを巻くように指導を行った.同時期にリハビリテーションは終了し経過観察とした.
結果
術後12週にて,TAMは262度.握力は48.2kg(健側比89.9%)であり,疼痛はVASにて0/100となり,患側手は日常生活で制限なく使用が可能となった.なお,超音波エコーでは腱の浮き上がりは認めなかった.
考察
再建腱鞘は採取した遊離腱にて再建されたため腱内血行は期待できず腱外血行により修復されると考え,腱移植術と同様に3週間固定法に準じるべきと考えられる.しかし,一定期間の安静固定は組織の癒着や関節拘縮が危惧される.そこで,腱の浮き上がりによる再建腱鞘の断裂や癒合不全を生じないよう再建腱鞘への負荷を考慮して段階的に訓練を行った.術後,安静時は良肢位を考慮した背側ブロッキングスプリントを使用するとともに,関節可動域訓練では他動運動にて関節周囲の軟部組織の柔軟性を引き出したのちに自動運動を行った.術後3週以降は,リングスプリントを装着したが,リングスプリント装着下での自動運動を行うことにより再建腱鞘に対する負荷を軽減させながら,十分な腱滑走を促し再建部周囲の腱癒着を予防できたと考える. 術後12週以降は,逮捕術など重作業を許可したが警棒を把持する手指の肢位は,MP関節の屈曲を伴う.さらにMP関節屈曲位での強い握りは,腱の浮き上がりを惹起させることから,リングスプリントやテーピングの使用を奨励した.
結果より,術前に認めた腱の浮き上がりや疼痛は改善された.早期からのリハビリテーションが良好な結果をもたらすとは断言できないが,再建腱鞘の断裂や癒着などの有害事象がなかったことから,今回の方法も術後リハビリテーションの選択枝の一つと成り得ると考える.
今回,A2腱鞘断裂に対して橈骨手根屈筋の半裁腱を用いた腱鞘再建術後のリハビリテーションを経験したため臨床成績を報告する.
症例
25歳,男性,職業は警察官であり,診断名は左環指A2腱鞘断裂である.受傷機転は,逮捕術の競技練習に警棒を把持した左手を強打し,直後より手指屈曲にて左環指基節部の疼痛,握力低下を生じた.その後,症状が持続したため受傷2週にて当院受診となった.初診時のMRI画像検査では,屈筋腱の連続性は確認出来たが,横断像にて隣接指と比較すると屈筋腱の浮き上がりを認めたため腱鞘断裂と考え,受傷4週にて手術となった.患側環指の術前total active motion(以下TAM)は225度であり,健側環指のTAMは264度であり,握力は41.3kg(健側比80.1%)であり,疼痛は自動屈曲時,環指基節部掌側に認めておりvisual analog scale(以下VAS)にて46/100であった.Quick DASHは13.6点であり,jobは43.7点であった.
リハビリテーション
翌日より,背側ブロッキングスプリントを作製し訓練時以外は装着とした.また同日より,関節可動域訓練を開始した.日常生活では患側手の使用を避けるように指導した.術後3週より,腱の浮き上がりを抑制するためリングスプリントを作製し常時装着とし背側ブロッキングスプリントは夜間のみとした.同時期より,手関節は伸展位としてMP関節を含む手指の自動運動を開始した.術後6週より,背側ブロッキングスプリントは除去し,リングスプリント装着下に患側手の軽作業を許可した.術後12週より,リングスプリント装着下での重作業および逮捕術を許可したが,力強い握りを行う際は,環指の基節骨全周に渡るようテーピングを巻くように指導を行った.同時期にリハビリテーションは終了し経過観察とした.
結果
術後12週にて,TAMは262度.握力は48.2kg(健側比89.9%)であり,疼痛はVASにて0/100となり,患側手は日常生活で制限なく使用が可能となった.なお,超音波エコーでは腱の浮き上がりは認めなかった.
考察
再建腱鞘は採取した遊離腱にて再建されたため腱内血行は期待できず腱外血行により修復されると考え,腱移植術と同様に3週間固定法に準じるべきと考えられる.しかし,一定期間の安静固定は組織の癒着や関節拘縮が危惧される.そこで,腱の浮き上がりによる再建腱鞘の断裂や癒合不全を生じないよう再建腱鞘への負荷を考慮して段階的に訓練を行った.術後,安静時は良肢位を考慮した背側ブロッキングスプリントを使用するとともに,関節可動域訓練では他動運動にて関節周囲の軟部組織の柔軟性を引き出したのちに自動運動を行った.術後3週以降は,リングスプリントを装着したが,リングスプリント装着下での自動運動を行うことにより再建腱鞘に対する負荷を軽減させながら,十分な腱滑走を促し再建部周囲の腱癒着を予防できたと考える. 術後12週以降は,逮捕術など重作業を許可したが警棒を把持する手指の肢位は,MP関節の屈曲を伴う.さらにMP関節屈曲位での強い握りは,腱の浮き上がりを惹起させることから,リングスプリントやテーピングの使用を奨励した.
結果より,術前に認めた腱の浮き上がりや疼痛は改善された.早期からのリハビリテーションが良好な結果をもたらすとは断言できないが,再建腱鞘の断裂や癒着などの有害事象がなかったことから,今回の方法も術後リハビリテーションの選択枝の一つと成り得ると考える.