第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-3] ポスター:運動器疾患 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-3-4] 骨粗鬆症予防に向けたアンケート調査と主観的歩行速度低下の活用の可能性

牧野 優徳 (社会福祉法人恩賜財団済生会支部 福岡県済生会大牟田病院 リハビリテーション科)

【序論】骨粗鬆症患者は1,280万人に上ると報告されているが,治療されているのは約200万人と推察されている.治療率・治療継続率が悪いことが問題視され,骨折は移動能力や生活機能,生活の質を低下させるだけでなく,死亡率を上昇させることも明らかとなっている(萩野 浩/ 2003).当院では令和4年より骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS) 委員会が発足した.令和4年度の大腿骨近位部骨折術後の患者は32名いたが,受傷前に骨粗鬆症治療が行われていたのは12.5%であった.また,骨粗鬆症治療には転倒予防の取り組みも重要であるが,サルコペニア等の検査は臨床の場面では時間を要し,より簡易的な注意喚起の方法が求められる.今後の活動において患者教育に必要とされる情報を収集するために主観的な歩行速度低下に着目して本研究を行うに至った.
【目的】骨粗鬆症・骨折予防のための取り組みを具体化するための調査を行い,骨粗鬆症・骨折リスク患者へのOLS活動の一助とする.また,主観的歩行速度に着目した解析を行うことで転倒予防や注意喚起に活用する.
【方法】対象者は当院外来患者で調査に自主的に参加の意思を示した女性35名.アンケートに適切に回答できていない者は除外し,最終的に24名が解析対象として残った.体組成計・握力・骨折リスク評価: Fracture risk assessment tool (FRAX) ・骨粗鬆症に関するアンケート調査・主観的歩行速度の低下の有無を調査.骨粗鬆症の治療を受けている群(12名)と未治療群(12名)でグループ化し,名義変数はχ2検定,連続変数はマン・ホイットニーのU検定にて2群間の差を解析した.更に,自覚的歩行速度低下の有無によって特徴の比較を行った.解析には統計解析ソフトJMP Pro 16.0を使用し,有意水準は5%未満とした.
【結果】調査では,骨粗鬆症治療グループ12名・未診断のグループ12名の女性が最終的に解析対象として残った.FRAXは両群とも主要骨粗鬆症性骨折確率15%を超えていた.未治療群の全員が骨粗鬆症リスクを感じており,半数以上が検査を受けたいと回答したが,未受診の理由として「きっかけがない」が多かった.研修会参加希望については未治療群が有意に多かった(P<0.05).また,骨粗鬆症・骨折の情報不足が見受けられ,歩行速度低下を自覚する群は有意に下肢筋力・握力が低いことが判明した(P<0.05).
【倫理的配慮・説明と同意】福岡県済生会大牟田病院の倫理委員会の承諾を受けたうえで,ヘルシンキ宣言に基づいて全対象者には本研究の同意を得たのちに検証を行った.
【考察・結論】
未治療群においてもFRAXによって骨折リスクが示唆された.75歳以上の90%以上が主要骨粗鬆症性骨折確立15%を超える(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版)と報告されており,年齢の影響が大きいと考えられた.また,全員が骨粗鬆症になると回答し,研修会参加の回答も多く,啓蒙活動が求められていることがわかった.治療群においても骨粗鬆症・骨折の情報不足が確認できたことから,未治療者同様に教育の必要性があった.歩行速度に着目すると,低下自覚群は下肢筋量・握力が有意に低い値を示し,フレイル・サルコペニアのリスクが高いと考えられた.
両群ともに歩行速度の低下を自覚し,骨折リスクが高く研修会参加を希望する者も多かった.骨粗鬆症・骨折予防にはきっかけ作りが重要であることもわかった.歩行速度低下を自覚する群では要介護の要因となりやすいフレイル・サルコペニアの要素も認められ,OLSチームでもアンケート結果を基に活動の取り組みを行っていく必要性が示唆された.