第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-3] ポスター:運動器疾患 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-3-6] 板状筋ストレッチと肩関節屈曲可動域拡大の関係性について.

健側へのアプローチと反対側の肩関節への影響を考える.

水野 智規, 小幡 昂平 (社会医療法人 康陽会 中嶋病院)

【序論】
 肩関節疾患患者の中には受傷後,または術後に安静期間が必要な場合がある.その安静期間により関節拘縮を呈することは臨床場面で散見される.今回は安静期間でも介入しやすい健側の板状筋に着目し,健側の板状筋への徒手介入が反対側の肩関節屈曲可動域拡大に関係するか明らかにする.本研究では前段階の研究とし,健常成人を対象に行う.
【対象】
 当院リハビリテーション部在籍スタッフで本研究の参加に書面で説明し同意を得られた男女56名.この56名は肩関節に既往歴は無い.
【方法】
 板状筋への介入を行う者を検査者とする.介入前の可動域を測定する者を測定者1,介入後の可動域を測定する者を測定者2とする.関節可動域は日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の指定する表示法とする.測定方法は被験者がプラットホーム上端座位で行う.測定者間の誤差を減らすために移動軸のランドマークを肩峰と上腕骨外側上顆に設定し,検査者がシールを貼る.自動運動にて最大限肩関節を屈曲する.初めに被験者の両肩関節の屈曲可動域をランドマークを頼りに測定者1が測定する.測定結果は測定者1と測定者2は別の記録用紙を用いて記載し,介入前の可動域は被験者と検査者,測定者2には伝えないようにする.介入前の測定で可動域の狭い肩を患側とし,左右の可動域が同じであれば被験者の主観で挙げにくい肩を患側とした.検査者が板状筋へダイレクトストレッチにて30秒間アプローチした後に,再度肩関節屈曲可動域を測定者2が測定する.
 介入前後の可動域の値の差をシャピロウィルク検定にかけ正規性の有無を確かめ,対応のあるt検定またはウィルコクソンの符号順位検定にかける.検定における有意水準は5%未満とし,統計処理はSPSSを使用する.
【結果】
 シャピロウィルク検定の結果,可動域結果に正規性が無かったためウィルコクソンの符号順位検定にて行った.患側の肩関節屈曲角度は介入前が160±20度で,介入後が162.5±22.5度となり優位差が認められた(p<0.01).平均値は介入前が163.8°で,介入後は169.8°と介入前と比べ介入後の角度の拡大が確認された.
【考察】
今回の結果から反対側の板状筋ストレッチにより患側の肩関節屈曲可動域が拡大することが示唆された.T.Myersによると, Spiral Lineという筋膜連結があるとされ, 板状筋と反対側の菱形筋が筋膜連結している.また, Deep Back Arm Lineという筋膜連結があるともされ,菱形筋から腱板筋,上腕三頭筋へと連結している. (Thomas W.Myers, 2014)肩関節屈曲可動域が拡大した要因として,1つ目に健側板状筋のストレッチにより患側の菱形筋が弛緩されたことによる肩甲胸郭関節上方回旋の拡大が考えられる.2つ目に菱形筋から棘下筋や小円筋の腱板筋,上腕三頭筋が弛緩されたことによる肩甲上腕関節の屈曲可動域拡大が考えられる.
本研究では肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節の個別の角度は計測しておらず,可動域拡大の要因を特定することが叶わなかった.しかし,研究結果より健側板状筋へのアプローチが反対側の肩関節屈曲可動域拡大につながるという結果が出たため,今後は臨床場面でのアプローチで検討していきたい.
本研究の限界点に,検査者間信頼性を検定的に分析できていな事が挙げられる.