[PD-3-8] Girdlestone術後に意欲低下を認めたが歩行を再獲得した高齢者の一例
チームによる動作時の共有と賞賛の重要性
【緒言】Girdlestone(以下,GS)術後に歩行を再獲得した報告は30~60代で散見されるが,高齢者では少ない.今回,GS術後に股関節機能の著しい低下により意欲低下を認めたが,チームによる介入で意欲の改善と歩行の再獲得に至った高齢者の一例を経験したため報告する.なお,本報告に際して説明し同意を得ている.
【症例】70代,女性,右利き,診断名は右人工股関節再置換術後感染・敗血症・右肩関節拘縮であった.病前は杖歩行で日常生活動作(以下,ADL)は自立していた.入院日(X)にデブリードマン,X+1週より理学療法(以下,PT),X+3週にGS手術が行われ,X+5週に作業療法(以下,OT)が開始となった.医師(以下,Dr)から下肢の荷重制限はなく,肩関節は関節可動域(以下,ROM)とADL練習の指示があった.
【評価】X+5週の肩自動ROM(°)は,屈曲70・外転40・1st外旋-30であった.Drから肩関節拘縮の原因は不明とあった.両手すりの把持は疼痛なく可能であった.起居は全介助で,起立と立位は「右足を着けようとすると股関節がグラッとする感じがして怖い」「爪先でしか右足は着けられない」とあり,2人介助であった.徒手筋力テスト(以下,MMT:右/左)は,腸腰筋1/3・大殿筋1/3・大腿筋膜張筋1/4・大腿四頭筋2-/4・内転筋群2-/5であった.Drからは「再々置換術は感染が懸念されるため,保存加療を推奨する」と説明があり,本人は同意していた.本人は「手術を行わなければ歩けずに,何もできなくなるなら死んだ方が良いのかな?」とあった.意欲はVitality Index(以下,VI)で5点であった.長期的に見通せない不安を,Dr・家族・療法士・看護師へ訴えていた.
【方法】基本動作練習は,右下肢の短縮を補うために補高4cmで設定し,PTと共に平行棒内で下肢の接地と荷重練習を行った.X+7週に歩行器歩行の練習を開始した時に,本人のスマートフォンで練習場面を撮影し,Dr・家族・看護師が動作時の様子を共有できるようにした.また,基本動作やADLの介助量軽減に応じて,チームで賞賛した.肩関節はROM練習と,病棟のADLで使うように指導した.Drはリハビリテーションの見学を行った.
【結果】下肢接地時の恐怖心は段階的に緩和し,X+7週以降は訴えなくなった.基本動作練習時の下肢の荷重量は恐怖心の緩和に応じて漸増し,介助量は漸減した.病棟での移動は,X+9週は車椅子,X+11週は歩行器歩行監視,X+13週は歩行器歩行自立になった.VIは7→8→10点(X+7→9→13週)になった.X+7週には「また金属を入れずに歩ける希望が持てた,皆さんに動ける姿を褒めて貰えて嬉しい」とあった.X+13週の肩自動ROM(°)は,屈曲140・外転120・1st外旋40になり,MMT(右/左)は,腸腰筋2-/4・大殿筋1/4・大腿筋膜張筋2-/4・大腿四頭筋3/5・内転筋群3/5になった.X+16週に自宅退院した.
【考察】本症例は高齢であったが病前のADL・残存機能・過去の報告から,歩行の再獲得は予測された.しかし,長期的に見通せない不安や下肢接地時の恐怖心により,意欲低下を認めていた.そのため基本動作練習は,残存機能が活かせる環境設定と,意欲的に行える工夫が重要であった.一般的に意欲低下には賞賛が重要(木菱由美子ら,2004)とされるが,本症例は動画を用いて動作時の状況をチームで共有し,賞賛の一助にした事が重要と考えられた.また,チームによる賞賛は,個別で行われる賞賛よりも意欲を維持し得る可能性が考えられた.
【症例】70代,女性,右利き,診断名は右人工股関節再置換術後感染・敗血症・右肩関節拘縮であった.病前は杖歩行で日常生活動作(以下,ADL)は自立していた.入院日(X)にデブリードマン,X+1週より理学療法(以下,PT),X+3週にGS手術が行われ,X+5週に作業療法(以下,OT)が開始となった.医師(以下,Dr)から下肢の荷重制限はなく,肩関節は関節可動域(以下,ROM)とADL練習の指示があった.
【評価】X+5週の肩自動ROM(°)は,屈曲70・外転40・1st外旋-30であった.Drから肩関節拘縮の原因は不明とあった.両手すりの把持は疼痛なく可能であった.起居は全介助で,起立と立位は「右足を着けようとすると股関節がグラッとする感じがして怖い」「爪先でしか右足は着けられない」とあり,2人介助であった.徒手筋力テスト(以下,MMT:右/左)は,腸腰筋1/3・大殿筋1/3・大腿筋膜張筋1/4・大腿四頭筋2-/4・内転筋群2-/5であった.Drからは「再々置換術は感染が懸念されるため,保存加療を推奨する」と説明があり,本人は同意していた.本人は「手術を行わなければ歩けずに,何もできなくなるなら死んだ方が良いのかな?」とあった.意欲はVitality Index(以下,VI)で5点であった.長期的に見通せない不安を,Dr・家族・療法士・看護師へ訴えていた.
【方法】基本動作練習は,右下肢の短縮を補うために補高4cmで設定し,PTと共に平行棒内で下肢の接地と荷重練習を行った.X+7週に歩行器歩行の練習を開始した時に,本人のスマートフォンで練習場面を撮影し,Dr・家族・看護師が動作時の様子を共有できるようにした.また,基本動作やADLの介助量軽減に応じて,チームで賞賛した.肩関節はROM練習と,病棟のADLで使うように指導した.Drはリハビリテーションの見学を行った.
【結果】下肢接地時の恐怖心は段階的に緩和し,X+7週以降は訴えなくなった.基本動作練習時の下肢の荷重量は恐怖心の緩和に応じて漸増し,介助量は漸減した.病棟での移動は,X+9週は車椅子,X+11週は歩行器歩行監視,X+13週は歩行器歩行自立になった.VIは7→8→10点(X+7→9→13週)になった.X+7週には「また金属を入れずに歩ける希望が持てた,皆さんに動ける姿を褒めて貰えて嬉しい」とあった.X+13週の肩自動ROM(°)は,屈曲140・外転120・1st外旋40になり,MMT(右/左)は,腸腰筋2-/4・大殿筋1/4・大腿筋膜張筋2-/4・大腿四頭筋3/5・内転筋群3/5になった.X+16週に自宅退院した.
【考察】本症例は高齢であったが病前のADL・残存機能・過去の報告から,歩行の再獲得は予測された.しかし,長期的に見通せない不安や下肢接地時の恐怖心により,意欲低下を認めていた.そのため基本動作練習は,残存機能が活かせる環境設定と,意欲的に行える工夫が重要であった.一般的に意欲低下には賞賛が重要(木菱由美子ら,2004)とされるが,本症例は動画を用いて動作時の状況をチームで共有し,賞賛の一助にした事が重要と考えられた.また,チームによる賞賛は,個別で行われる賞賛よりも意欲を維持し得る可能性が考えられた.