第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-3] ポスター:運動器疾患 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-3-9] 早期運動療法が有用であった重度肘関節脱臼骨折の1例

濱本 志穂1, 吉廻 邦彦1, 落合 和也1, 蜂須賀 裕己2 (1.特定医療法人あかね会土谷総合病院 リハビリテーション室, 2.特定医療法人あかね会土谷総合病院 整形外科)

【諸言】Terrible triad損傷(以下TTI)とは,肘関節後方脱臼に橈骨頭骨折と尺骨鈎状突起骨折を合併した不安定型損傷であり,術後成績は不良である.今回,上記に加え肘頭骨折を合併した重度肘関節脱臼骨折に対し,早期運動療法が有効であった1例を経験したため報告する.なお,症例には書面にて同意を得た.
【症例】40代女性,右利き,給食調理員.階段から転落し,左肘頭骨折を伴うTTI受傷.橈骨頭骨折Mason-Morrey分類TypeⅢ,尺骨鈎状突起骨折Regan-Morrey分類TypeⅡ-B,肘頭骨折Mayo分類TypeⅢ,外側側副靭帯部分断裂,内側側副靭帯完全断裂であった.受傷後3日,当院受診し,緊急創外固定術施行した.受傷後10日で観血的整復固定・靭帯修復術を施行した.術後1年で抜釘術施行し,その1か月後終診とした.
【ハンドセラピィ】術直後より消炎鎮痛管理として,肘関節周囲のアイシング,消炎鎮痛剤の内服を行った.術後は上腕シャーレ固定とし,術翌日より固定外の拘縮予防を実施した.術後1週より三角巾固定とし,肘関節・前腕関節可動域訓練開始した.同時期に,軽作業から徐々に手の使用を許可とした.初日の関節可動域(以下ROM)は肘関節伸展-45°屈曲80°,前腕回外30°回内50°であった.術後2週より自重による肘関節のストレッチを開始した.その際に,内外反ストレスがかからないように動作指導を行った.術後3週で三角巾除去して退院し,以降は外来通院に切り替えた.ROMは順調に改善しつつあり,日常生活での手の使用頻度も増加した.術後2ヶ月頃には電話や首元のボタンを留めるなど肘関節屈曲角度を要する動作も可能となった.術後9週より職場復帰した.仕事内容には軽作業から重作業まで含まれているため軽作業から段階的に復帰するよう指導した.術後3ヶ月で禁忌動作解除とし,仕事に完全復帰した.
【結果】最終評価時,肘関節伸展-15°屈曲145°,前腕回外78°回内72°,握力右15.0kg/12.0kg,日本整形外科学会-日本肘関節学会肘機能スコア90点,Disabilities of the arm,shoulder and handはDisability/symptom:10点,Work:6.25点,Patient-Rated Elbow Evaluation日本語版5.6点であった.また,肘関節に不安定性は見られなかった.
【考察】TTIは肘関節の重度損傷であり,肘関節拘縮や不安定性が残存しやすく,治療に難渋する.また,橈骨頭粉砕例では治療はさらに困難となる.本症例は橈骨頭粉砕に加え,肘頭骨折を合併しているため,良好な機能成績は得難い状態であった.不安定性の強い骨折で確実な修復が困難であるため,通常は長期固定を要する.また,外傷例であることから,化骨性筋炎発生によるROM制限や疼痛発生のリスクがあった.本症例は,手術による十分な骨性・靭帯性支持を得ることができたため消炎鎮痛管理を徹底しつつ,早期運動療法を行った.結果として,日常生活動作の早期獲得,早期復職が可能となり良好な成績につながったと考える.