[PD-4-1] 疼痛が強い肘関節内骨折術後患者に対してMirror Therapyを導入した治療実践
【はじめに】肘関節内骨折では関節面の整復と強固な固定を行い,早期に可動域練習を行うことが重要とされている.しかし,創傷治癒過程から瘢痕増殖期の抗張力が増加するため,多少の拘縮は避けられず難渋することが多い.近年,患部の固定や運動に対する恐怖や破局的思考による回避行動で患肢の不使用が長引くと感覚入力や運動出力が減少し,対応する脳内の体部位再現の狭小化が生じることが明らかになっている.肘関節の外傷における硬直に対して段階的な運動イメージの有効性(Tansu 2022)や,整形外科疾患でのCRPS症例に対するMirror Therapy(以下MT)の実践が散見される.今回,疼痛の反芻思考が強い肘関節内骨折術後患者に対してMTを導入した結果,良好な成績に繋がったため報告する.なお発表に際し,患者より同意を得た.
【症例紹介】70歳後半の女性.右利き.独居.受傷前ADLは概ね自立だが,既往の肘頭骨折により右肘関節自動屈曲120°,伸展–15°の制限があった.現病歴はX日に転倒し右肘関節内骨折を受傷.AO /OTA分類は13C1.前医受診し経過観察となったが,再度転倒し転位がみられ当院にてX+14日にORIF(VA-LCP double plate)を施行した.術後は2週間のギプス固定となった.
【術後セラピィと経過】術翌日よりOT開始.非固定部の可動域練習から実施した.環小指のしびれや感覚鈍麻など尺骨神経障害がみられた.術後2週でギプス除去.肘ROMは屈曲90°,伸展−60°,疼痛はNRS7程度であった.愛護的な肘の可動域練習や自動介助運動,振動刺激による脱感作やリラクゼーションなど開始した.徐々に肘以遠の疼痛が強くなり「動かすのが怖い」と発言が聞かれた.痺れを伴った疼痛がみられ,鎮痛薬使用時でNRS6程度であった.術後5週で肘ROMは屈曲105°(110°),伸展−35°(−30°),PCSは28点(反芻項目,問1:4点,問8:4点,問9:2点,問11:4点),Quick DASHは機能/症状77.3点,仕事87.5点,PREE–Jはスコア79点,痛み33点,特定の動作101点,通常の動作37点,身体所有感や運動主体感の軽度低下がみられた.疼痛を反芻してしまう傾向や自動運動に対する不安感もみられたため,通常練習に加えてMTを導入.端座位で健側肢を鏡に映し,鏡を見ながら肘関節の屈曲,伸展を行った.その際に患肢は疼痛が生じない範囲で自動運動を実施した.MT施行により「痛みは少しあるけど動いている感じがする」との発言がみられた.患肢の生活内使用も徐々にみられ,洗顔や洗髪動作は可能となったが.肘屈曲制限によりイヤリングやシャツの第一ボタンの着脱は困難であった.
【結果】術後10週時,肘ROMは屈曲120°(125°),伸展−20°(−15°),PCSは10点(反芻項目,問1:1点,問8:3点,問9:1点,問11:1点),Quick DASHは機能/症状31.8点,仕事18.8点,PREE–Jはスコア31.3点,痛み20点,特定の動作27点,通常の動作7点,身体所有感や運動主体感は改善した.
【考察】今回,2週間のギプス固定により疼痛閾値が低下し,疼痛を反芻してしまう症例に対して術後5週でMTを導入した.結果,早期に受傷前程度の肘可動域の改善やADLでの患肢使用を認めた.Langerらは術後14日間の固定を要した上肢骨折患者は一次運動領域及び体性感覚領域の皮質の厚みと皮質脊髄路におけるFA値が減少したと述べている.本症例は2週間のギプス固定により患肢の不動化によって,中枢神経系の影響で肘運動時に疼痛が修飾され,より強い疼痛を惹起したと考えられる.また固定除去後は運動に対する不安が強くなりやすいが,MTを利用した健側の運動イメージにより,運動や視覚,感覚の不一致を改善させ,より後療法を円滑に進めることができたと考えられる.
【症例紹介】70歳後半の女性.右利き.独居.受傷前ADLは概ね自立だが,既往の肘頭骨折により右肘関節自動屈曲120°,伸展–15°の制限があった.現病歴はX日に転倒し右肘関節内骨折を受傷.AO /OTA分類は13C1.前医受診し経過観察となったが,再度転倒し転位がみられ当院にてX+14日にORIF(VA-LCP double plate)を施行した.術後は2週間のギプス固定となった.
【術後セラピィと経過】術翌日よりOT開始.非固定部の可動域練習から実施した.環小指のしびれや感覚鈍麻など尺骨神経障害がみられた.術後2週でギプス除去.肘ROMは屈曲90°,伸展−60°,疼痛はNRS7程度であった.愛護的な肘の可動域練習や自動介助運動,振動刺激による脱感作やリラクゼーションなど開始した.徐々に肘以遠の疼痛が強くなり「動かすのが怖い」と発言が聞かれた.痺れを伴った疼痛がみられ,鎮痛薬使用時でNRS6程度であった.術後5週で肘ROMは屈曲105°(110°),伸展−35°(−30°),PCSは28点(反芻項目,問1:4点,問8:4点,問9:2点,問11:4点),Quick DASHは機能/症状77.3点,仕事87.5点,PREE–Jはスコア79点,痛み33点,特定の動作101点,通常の動作37点,身体所有感や運動主体感の軽度低下がみられた.疼痛を反芻してしまう傾向や自動運動に対する不安感もみられたため,通常練習に加えてMTを導入.端座位で健側肢を鏡に映し,鏡を見ながら肘関節の屈曲,伸展を行った.その際に患肢は疼痛が生じない範囲で自動運動を実施した.MT施行により「痛みは少しあるけど動いている感じがする」との発言がみられた.患肢の生活内使用も徐々にみられ,洗顔や洗髪動作は可能となったが.肘屈曲制限によりイヤリングやシャツの第一ボタンの着脱は困難であった.
【結果】術後10週時,肘ROMは屈曲120°(125°),伸展−20°(−15°),PCSは10点(反芻項目,問1:1点,問8:3点,問9:1点,問11:1点),Quick DASHは機能/症状31.8点,仕事18.8点,PREE–Jはスコア31.3点,痛み20点,特定の動作27点,通常の動作7点,身体所有感や運動主体感は改善した.
【考察】今回,2週間のギプス固定により疼痛閾値が低下し,疼痛を反芻してしまう症例に対して術後5週でMTを導入した.結果,早期に受傷前程度の肘可動域の改善やADLでの患肢使用を認めた.Langerらは術後14日間の固定を要した上肢骨折患者は一次運動領域及び体性感覚領域の皮質の厚みと皮質脊髄路におけるFA値が減少したと述べている.本症例は2週間のギプス固定により患肢の不動化によって,中枢神経系の影響で肘運動時に疼痛が修飾され,より強い疼痛を惹起したと考えられる.また固定除去後は運動に対する不安が強くなりやすいが,MTを利用した健側の運動イメージにより,運動や視覚,感覚の不一致を改善させ,より後療法を円滑に進めることができたと考えられる.