第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-4] ポスター:運動器疾患 4 

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-4-10] 上腕完全切断再接着術後の作業療法により職場復帰を果たした一症例

東 謙一1, 國友 淳子1, 加藤 なつき1, 大林 茂2 (1.埼玉医科大学総合医療センター リハビリテーション部, 2.埼玉医科大学総合医療センター リハビリテーション科)

序論:近年,医療技術の向上等により,上腕切断に対し再接着術が選択されることが増加している.しかし,上腕切断症例に対する作業療法報告としては,義手を使用した報告が散見されるが,再接着例に対する報告は少ない.Yaffeら(2009)は,上腕切断再接着術を施行した7例において,ADLに利用可能なまで上肢機能が回復したのは4例,復職可能に至ったのは2例と報告している.
目的:上腕完全切断再接着術後の作業療法により職場復帰を果たした症例を経験したので報告する.
対象:45歳男性.仕事中にプレス機に右上腕を巻き込まれて受傷.上腕遠位1/3で完全切断となった.
経過及び介入方法:受傷後2時間で上腕動脈を再灌流.橈骨神経は引き抜き損傷であったが,同日に上腕骨の骨短縮,上腕動脈,上腕静脈,尺側皮静脈,正中神経,尺骨神経,橈骨神経,上腕筋,上腕二頭筋を縫合.第2病日に上腕三頭筋縫合術,前腕コンパートメント症候群に対し筋膜切開術を施行.第4病日に上腕二頭筋に対し有茎広背筋術を施行.上腕骨接合部が偽関節となり,第227病日に内固定術,第311病日にイリザロフ創外固定術を施行.第497病日に創外固定抜去及び肘関節受動術を施行.第860病日に母指対立再建術を施行.第958病日に長母指伸筋,総指伸筋に対し短橈側手根伸筋,尺側手根屈筋を用いた腱移行術を施行.作業療法は第8病日より開始.第1343病日に職場復帰,第1408日に作業療法終了となったが,経過中,多段階手術が施行されており,適宜主治医と相談し介入内容を調整した.まずは切断肢の血行に留意しながら安静時スプリントの作成や残存関節の拘縮予防,患肢管理指導より開始した.肩関節自動運動は受傷後5週より,肘関節の他動運動は受傷後3週,自動運動は受傷後6週より段階的に開始した.手指屈筋の収縮が認められるようになった後は電気刺激療法を併用した筋力練習,スパイダースプリントを使用した物品把持練習を追加.手掌面でSemmes Weinstein monofilament test(SWT)の紫の知覚が可能となった後は知覚再教育練習を追加.対立再建術や腱移行術施行後は,腱損傷を基礎としたプロトコルに則り早期運動療法を実施するとともに,対立装具や伸展ダイナミック装具を作成した.尚,本報告は当院の倫理規定に準じて対象者より同意を得ている.
結果:自動ROMは肘関節屈曲95°,伸展−30°.前腕回内60°,回外20°.手関節掌屈30°,背屈40°.手指の%TAMは母指25%,示指29%,中指25%,環指40%,小指58%.MMTは上腕二頭筋 5,上腕三頭筋 5,手根伸筋 4,手根屈筋 4,浅指屈筋 4,深指屈筋 4,長母指屈筋 4,虫様筋 1,小指外転筋 1.母指伸展は3,示指から小指のMP関節伸展は1であった.握力は4.2kg,側腹摘みにおけるピンチ力は1.9kg.感覚は,触覚はSWTにて手関節以遠は概ね青の知覚が可能.痛覚,30cps及び256cps振動覚の知覚が可能.2点識別覚は識別困難であった.STEFは18点.B.I.は100点.HAND 20は55点.仕事に関しては,担当する機械の種類は変更となったものの,受傷前と同じ部署で機械操作や2kg程度の物品を移動する作業が右上肢を補助手として可能となった.
考察:受傷前と扱う機械は変更となったものの,受傷後3年10ヶ月間の介入の結果,同じ部署への復職が可能となった.良好な結果となった要因としては,1)セラピストと医師との密なコミュニケーションにより複数回手術後の状態に応じた介入方法を調整できたこと,2)可動域練習や筋力練習と並行して,スプリントを活用しつつ動作練習を実施できたことが考えられる.