第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-4] ポスター:運動器疾患 4 

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-4-2] 価値を置く調理の獲得に至った右人工膝関節再置換術後の一事例

相互交流的リーズニングを用いた事例との協業

赤池 真菜, 髙橋 啓 (東京都リハビリテーション病院 リハビリテーション部 作業療法科)

【はじめに】右人工膝関節再置換術後のクライエント(以下,CL)を担当した.CLに対し,相互交流的リーズニングを意識しながら協業を図り,価値を置く調理の獲得に至ったため報告する.
【事例紹介】80代女性.既往歴には,脳梗塞,両変形性膝関節症,両人工骨頭置換術後があった.今回,右人工膝関節全置換術(以下,TKA)と大腿四頭筋にV-Y形成術の施行,ならびに術後のリハビリテーションを目的にX年Y月Z日に当院へ入院した. Z+12日TKA・大腿四頭筋にV-Y形成術を施行された.暮らしぶりは,2階建て一軒家に独居.術前の日常生活は自立されていた.買い物のみ近隣の方の協力を得ながら生活されていた.介護保険は要支援2を受給し訪問リハビリを週3回利用していた.性格は明るくユーモアのある方で近隣の方と玄関前でよく井戸端会議を開かれていた.
【倫理的配慮】本報告に際し,CLに対し口頭・書面にて説明し同意を得た.
【作業療法評価】握力8㎏/20.5㎏,MMSE25点,ROM肩関節屈曲90°/150°,外転65°/150°,股関節屈曲85°/90°,外転15°/15°,外旋30°/20°,膝関節屈曲25°/70°, 伸展-10°/10°,MMT肩関節屈曲3/4,外転2/4,股関節屈曲3/4,伸展2/3,外転2/4,膝屈曲3/4,伸展3/4, STEF63点/84点.FIM運動73/認知35, ,移動:棟内杖歩行自立だが歩行時の膝関節痛強く(NRS5)院内車椅子移動であった.調理に対するCOPM遂行度2/10,満足度1/10へ向上した.
【作業療法方針および目標設定】身体機能低下により歩行や家事動作に消極的となってしまったCLに対し, 両手を使用した家事動作の獲得を設定し,まずは身体機能の向上を図りつつ,独居再開に向け本人が価値の置く調理の再獲得が出来るよう現状の振り返りや出来ている所を肯定するなど自信が持てるように介入した.
【経過】Z+57日:膝装具着用で伝い歩き・杖歩行が徐々に安定して可能となった.洗濯や掃除は,疼痛,ふらつきなく可能であった.目標としていた調理の実施を提案するも「調理はやらないよ.」との消極的な反応であった.そのため,現状の歩行能力やADLや掃除・洗濯が行えている点について肯定的にフィードバックを行った.X+68日:会話の中で近所の方によく料理を振る舞っていたというエピソードが聞かれた.そこで,CLとの年齢差を逆手に取り,孫的存在として「○さんの作った料理が食べてみたいです」などの投げかけを意識した.また,CLと負担の少ないメニューを一緒に考えたり,代行でお世話になったスタッフへのお裾分けなどを考えたりしているうちに「肉じゃがなら簡単よ.」と調理に対して前向きな反応となった.調理では,火の管理や包丁の操作問題なく,20分程度の立位作業が可能であり,出来栄えに満足していた.他スタッフにも振る舞い,称賛を受け嬉しそうにされる様子が見られた.
【最終評価】握力22㎏/22㎏,MMSE29点,ROM肩関節屈曲120°/150°,外転95°/150°,股関節屈曲95°/95°,外転15°/15°,外旋40°/30°,膝関節屈曲80°/75°, 伸展0°/10°,MMT肩関節屈曲4/4,外転4/4,股関節屈曲4/4,伸展3/3,外転2/4,膝屈曲4/4,伸展3/4, STEF90/95,FIM:運動81/認知33, ,移動:院内T字杖歩行自立し,装具無しでの屋内伝い歩き・独歩での家事動作も疼痛なく(NRS0)実施可能となった.調理に対するCOPM遂行度5/10,満足度5/10へ向上した.
【考察】内堀らは,作業療法士と対象者が十分に対話を重ね,現状を共有し同意や肯定,協業を繰り返すことが【ともに歩んでいく関係性の構築】に至る,と報告している.CLが消極的であった調理に対し現状や生活背景を振り返り,対話を重ね孫のような存在という治療的自己活用など相互交流を図ったことで,他者に料理を振る舞う行動に繋がり,訓練意欲向上や調理再獲得に繋がったと考える.