[PD-4-7] 長母指伸筋腱断裂後,超音波診断装置を用い改善を得た症例
手の遠位横アーチに着目し,箸操作や書字の改善を認めた経験
【はじめに】超音波診断装置(以下:エコー)を利用した手のリハビリテーションは肩や膝などと比較し少ない.今回右長母指伸筋(以下:EPL)腱断裂後に自動伸展可動域制限を認め,エコーを用いて評価を実施し周囲結合組織との癒着を認めた.この障害に対して滑走練習を行った結果,関節可動域改善が得られたが,箸操作や書字が拙劣な状態であった.そこで巧緻性に関与する手の遠位横アーチ(以下:アーチ)に着目して評価・練習を実施し改善を認めたため以下に報告する.
今回の発表に対して当院の倫理審査員会の指針に沿って患者の同意を得ている.
【症例紹介】60歳代女性,右利きで職業はスーパーのレジ打ちを行っていた.右橈骨遠位端骨折術後,右E P L腱断裂を受傷し4日後に示指伸筋腱をEPL腱へ移行して,interlacing sutureで3回編み込み縫合を施行し,2週間後作業療法開始した.
【初期評価】術後2週目の関節可動域は,他動手関節掌屈20°,背屈30°,母指屈曲IP16°MP32°,母指自動伸展IP-30°,MP-24°の制限あり.ADLは,左手で遂行可能も,DASH:62.5点,Hand20:70点であった.
【経過】2週間シーネ固定で,リハビリテーション時は脱着して母指の自動伸展運動や減張位での他動屈曲を実施し,術後3週に固定除去した.術後6週より,伸張位での他動屈曲運動を実施した.術後7週目に,手関節や母指の他動関節可動域は改善傾向も,母指自動伸展運動が不十分で,箸操作や書字が困難であった.動的腱固定効果が陽性で,病態把握を目的にエコーで評価を行った.コミカミノルタSONIMAGE HS1を用い,EPL腱縫合部に長軸方向に抽出し,EPL腱と周囲結合組織の滑走性を評価した結果,癒着により滑走性低下を認めたため,腱滑走運動を強化した.術後10週後母指の自動伸展運動は改善し,エコー評価では,周囲結合組織との癒着は認めず,良好に滑走していた.しかし,総指伸筋の代償的な使用により,第4・5中手骨のCM関節屈曲の可動性低下で,アーチに制限を認め,対立運動が制限され,箸操作や書字が拙劣であった.総指伸筋の活動を抑制し,対立運動を促通した結果,アーチの制限を認めず,対立動作が可能となり,箸操作や書字が改善した.
【最終評価】術後13週目の関節可動域は他動手関節掌屈70°,背屈70°,母指屈曲IP70°,MP50°,伸展IP0°,MP6°,母指%TAM 100%と改善し,握力は右30.8kg左31.7㎏指腹つまみ右4.2kg左5.2kg側腹つまみ右6.2kg左7kgだった.ADLは右手で箸操作や書字を行い,安静度上の制限が解除され問題なく仕事復帰し,DASH:15.5点,Hand20:15点である.
【考察】本症例の母指の伸展制限については,動的腱固定効果が陽性であることやエコー所見でも,EPL腱と周囲結合組織との癒着があった.腱滑走練習を行った結果,エコーの再評価で癒着は認めず良好な関節可動域が得られた.エコーについて平山は評価や治療の補助ツールとして活用でき,制限因子の特定などが可能であると述べ,エコー評価で腱滑走の状態を可視化でき,制限因子に対し効率的な治療ができたと考える.また,アーチについて第4中手骨のCM関節は約10°,第5中手骨のCM関節は約20~25°屈曲しアーチの一部を担っているが,本症例は制限を認めていた.白石らは,アーチを制限した手では,正常手やアーチを保持した手に比べ,作業遂行能力が優位に低下すると述べており ,アーチの可動性が得られたことで巧緻性改善に繋がった.本症例より,エコーでの的確な評価・練習を実施することが,関節可動域改善に繋がり,加えて巧緻動作に対して,アーチに着目し練習を実施することで巧緻性改善の一助となる.
今回の発表に対して当院の倫理審査員会の指針に沿って患者の同意を得ている.
【症例紹介】60歳代女性,右利きで職業はスーパーのレジ打ちを行っていた.右橈骨遠位端骨折術後,右E P L腱断裂を受傷し4日後に示指伸筋腱をEPL腱へ移行して,interlacing sutureで3回編み込み縫合を施行し,2週間後作業療法開始した.
【初期評価】術後2週目の関節可動域は,他動手関節掌屈20°,背屈30°,母指屈曲IP16°MP32°,母指自動伸展IP-30°,MP-24°の制限あり.ADLは,左手で遂行可能も,DASH:62.5点,Hand20:70点であった.
【経過】2週間シーネ固定で,リハビリテーション時は脱着して母指の自動伸展運動や減張位での他動屈曲を実施し,術後3週に固定除去した.術後6週より,伸張位での他動屈曲運動を実施した.術後7週目に,手関節や母指の他動関節可動域は改善傾向も,母指自動伸展運動が不十分で,箸操作や書字が困難であった.動的腱固定効果が陽性で,病態把握を目的にエコーで評価を行った.コミカミノルタSONIMAGE HS1を用い,EPL腱縫合部に長軸方向に抽出し,EPL腱と周囲結合組織の滑走性を評価した結果,癒着により滑走性低下を認めたため,腱滑走運動を強化した.術後10週後母指の自動伸展運動は改善し,エコー評価では,周囲結合組織との癒着は認めず,良好に滑走していた.しかし,総指伸筋の代償的な使用により,第4・5中手骨のCM関節屈曲の可動性低下で,アーチに制限を認め,対立運動が制限され,箸操作や書字が拙劣であった.総指伸筋の活動を抑制し,対立運動を促通した結果,アーチの制限を認めず,対立動作が可能となり,箸操作や書字が改善した.
【最終評価】術後13週目の関節可動域は他動手関節掌屈70°,背屈70°,母指屈曲IP70°,MP50°,伸展IP0°,MP6°,母指%TAM 100%と改善し,握力は右30.8kg左31.7㎏指腹つまみ右4.2kg左5.2kg側腹つまみ右6.2kg左7kgだった.ADLは右手で箸操作や書字を行い,安静度上の制限が解除され問題なく仕事復帰し,DASH:15.5点,Hand20:15点である.
【考察】本症例の母指の伸展制限については,動的腱固定効果が陽性であることやエコー所見でも,EPL腱と周囲結合組織との癒着があった.腱滑走練習を行った結果,エコーの再評価で癒着は認めず良好な関節可動域が得られた.エコーについて平山は評価や治療の補助ツールとして活用でき,制限因子の特定などが可能であると述べ,エコー評価で腱滑走の状態を可視化でき,制限因子に対し効率的な治療ができたと考える.また,アーチについて第4中手骨のCM関節は約10°,第5中手骨のCM関節は約20~25°屈曲しアーチの一部を担っているが,本症例は制限を認めていた.白石らは,アーチを制限した手では,正常手やアーチを保持した手に比べ,作業遂行能力が優位に低下すると述べており ,アーチの可動性が得られたことで巧緻性改善に繋がった.本症例より,エコーでの的確な評価・練習を実施することが,関節可動域改善に繋がり,加えて巧緻動作に対して,アーチに着目し練習を実施することで巧緻性改善の一助となる.