[PD-5-3] 「作業に関する自己評価・短縮版」に基づく介入によりQOLが変化した事例
【はじめに】 Occupational Self Assessment-Short Form(以下,OSA-SF)は,クライエント中心の目標設定と治療計画を支援し,作業有能性と価値の認識を評価する「作業に関する自己評価」の短縮版である.近年,このOSA-SFの測定特性を検討する研究は報告されているが,事例報告は希少とされる.本報告の目的は,頸髄損傷後,手指の筋力と巧緻性の低下から理容師としての復職が困難となり,生活の質(以下,QOL)の低下が懸念された高齢男性(以下,A氏)に対して,OSA-SFを用いたMOHOによる介入を提供し,日常生活動作(以下,ADL)と健康関連QOLへの影響を検討することである.本報告によりOSA-SFの有用性を明らかにすることが意義である.A氏と家族には口頭と紙面による説明で本報告の同意を得た.
【方法】 対象:A氏は80歳代前半の男性である.X日に頸髄損傷を受傷し,急性期病院へ入院後,X +15日に当院回復期リハビリテーション病棟に転院した.本人は理容師への復帰を希望したが,家族は理容業務ができなくても店舗で馴染みのお客さんと交流できることを希望した.入院当初から,前立腺がんに対する放射線治療による直腸出血の既往により,再出血に対して恐怖心が強く,10分以上の離床が困難であった.また,不安が強く,できないことに悲観的になることが多かった.現状を病前と比較する傾向が強く,自己効力感は低下していた.
測定と介入方法:機能的自立度評価法(以下,FIM)とMOS 12-Item Short Form Health Survey(以下,SF-12)を1ヶ月に1回,OSA-SFを2ヶ月に1回測定した.これらの結果から,自宅退院に必要なADLとA氏の価値に基づく介入を提供した.
【経過と結果】 初期評価(X+26日)のFIMは44点(運動項目17点,認知項目27点)であり,運動項目全般は全介助が必要であった.SF-12(国民標準値)は身体機能11.7,日常生活機能(身体)11.8,体の痛み24.4,全体的健康感36.3,活力59.6,社会生活機能26.6,日常生活機能(精神)18.9,心の健康31.0であった.OSA-SFで改善したい項目の順位は,①「身体に気を付ける」,②「基本的に必要なこと(食事・服薬)を行う」,③「自分が重要だと思うことに基づいて決めている」,④「自分の目標に向かってはげむ」であった.この結果をもとにA氏はADLの改善を希望されたため,ADL訓練とともに復職につながる手指筋力訓練や手指巧緻動作訓練を行なった.訓練内でハサミを利用した訓練を提供したが,初期評価時は開く・閉じる等の操作は手指筋力の低下と巧緻性の低下により実施困難であった.徐々に手指筋力が向上したことによりX+63日にハサミで紙を切ることが可能となった.しかし,代償動作を伴う作業の影響からA氏から疲労感が聞かれた.その後もハサミを使用した訓練を継続し,OSA-SFで判明した本人の価値に基づく介入も行なった.最終評価(X+185日)のFIMは98点(運動項目70点,認知項目28点)であり,キャスター付きピックアップ歩行器での歩行,更衣,ポータブルトイレを併用しての排泄が修正自立レベルとなった.SF-12は身体機能22.7,日常生活機能(身体)23.0,体の痛み35.5,全体的健康感25.5,活力41.6,社会生活機能36.8,日常生活機能(精神)13.5,心の健康31.0であった.
【考察】 最終評価のFIMは,初期評価時と比較して54点増加した.SF-12は初期評価より得点が減少した項目もあったが,増加した項目は4項目と多かった.以上からOSA-SFを用いた介入により,A氏の価値を柔軟に捉えることができた.その結果,A氏のADLとQOLの改善および自宅退院に繋がった.OSA-SFは簡便に対象者の状態を捉え,治療計画に有効活用できることが明らかとなった.
【方法】 対象:A氏は80歳代前半の男性である.X日に頸髄損傷を受傷し,急性期病院へ入院後,X +15日に当院回復期リハビリテーション病棟に転院した.本人は理容師への復帰を希望したが,家族は理容業務ができなくても店舗で馴染みのお客さんと交流できることを希望した.入院当初から,前立腺がんに対する放射線治療による直腸出血の既往により,再出血に対して恐怖心が強く,10分以上の離床が困難であった.また,不安が強く,できないことに悲観的になることが多かった.現状を病前と比較する傾向が強く,自己効力感は低下していた.
測定と介入方法:機能的自立度評価法(以下,FIM)とMOS 12-Item Short Form Health Survey(以下,SF-12)を1ヶ月に1回,OSA-SFを2ヶ月に1回測定した.これらの結果から,自宅退院に必要なADLとA氏の価値に基づく介入を提供した.
【経過と結果】 初期評価(X+26日)のFIMは44点(運動項目17点,認知項目27点)であり,運動項目全般は全介助が必要であった.SF-12(国民標準値)は身体機能11.7,日常生活機能(身体)11.8,体の痛み24.4,全体的健康感36.3,活力59.6,社会生活機能26.6,日常生活機能(精神)18.9,心の健康31.0であった.OSA-SFで改善したい項目の順位は,①「身体に気を付ける」,②「基本的に必要なこと(食事・服薬)を行う」,③「自分が重要だと思うことに基づいて決めている」,④「自分の目標に向かってはげむ」であった.この結果をもとにA氏はADLの改善を希望されたため,ADL訓練とともに復職につながる手指筋力訓練や手指巧緻動作訓練を行なった.訓練内でハサミを利用した訓練を提供したが,初期評価時は開く・閉じる等の操作は手指筋力の低下と巧緻性の低下により実施困難であった.徐々に手指筋力が向上したことによりX+63日にハサミで紙を切ることが可能となった.しかし,代償動作を伴う作業の影響からA氏から疲労感が聞かれた.その後もハサミを使用した訓練を継続し,OSA-SFで判明した本人の価値に基づく介入も行なった.最終評価(X+185日)のFIMは98点(運動項目70点,認知項目28点)であり,キャスター付きピックアップ歩行器での歩行,更衣,ポータブルトイレを併用しての排泄が修正自立レベルとなった.SF-12は身体機能22.7,日常生活機能(身体)23.0,体の痛み35.5,全体的健康感25.5,活力41.6,社会生活機能36.8,日常生活機能(精神)13.5,心の健康31.0であった.
【考察】 最終評価のFIMは,初期評価時と比較して54点増加した.SF-12は初期評価より得点が減少した項目もあったが,増加した項目は4項目と多かった.以上からOSA-SFを用いた介入により,A氏の価値を柔軟に捉えることができた.その結果,A氏のADLとQOLの改善および自宅退院に繋がった.OSA-SFは簡便に対象者の状態を捉え,治療計画に有効活用できることが明らかとなった.