第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-5] ポスター:運動器疾患 5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-5-4] 不全頚髄損傷者における重症度別ADL改善経過の分析と自立達成順序の検討

吉田 瑞妃, 小野 かおり, 高見 美貴 (秋田県立リハビリテーション・精神医療センター 機能訓練部)

【目的】
不全頚髄損傷者に対するリハビリテーション(以下,リハ)では,完全麻痺者に比べるとその障害像や回復経過が多様で予後予測が難しく目標設定に難渋する場合が多い.先行研究では,移動能力や上肢機能の改善に関する報告はあるが,ADLの改善経過についての報告は少ない.そこで今回,目標設定や介入の指標とするため,当院に入院しリハを実施した不全頚髄損傷者のADLについて改善経過と自立達成度を後方視的に分析したので報告する.なお,本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【対象と方法】
対象は2016年4月から2022年12月までに初回入院し,受傷後7ヵ月以内の不全頚髄損傷患者30名で男性26名,女性4名,平均年齢は69±8歳,平均罹病期間は82±44日であった.嚥下障害や精神症状を有する症例は除外した.評価は,重症度の指標として改良フレンケル分類を,運動機能は体幹・下肢運動年齢テスト(以下,MOA)と上肢機能検査(以下,MFT)を,認知機能はHDS-Rを用い,すべて入院時に実施した.ADLはFIM運動項目で評価し,入院時と以後1ヵ月ごとに3ヵ月まで評価した.
分析は,はじめに対象者を改良フレンケル分類に基づいて群分けし,各群の年齢,罹病期間を一元配置分散分析で比較した.また,MOA,MFT,HDS-R,FIM運動項目合計得点(以下,FIM総点)をKruskal-Wallisの検定で比較し,危険率はすべて5%未満とした.次に,群別に入院時,2ヶ月目,3ヶ月目のFIM下位項目の自立者割合を求めて各時期のADL項目の自立達成順序を検討した.自立者割合(%)は各下位項目の6点以上を自立とし,当該項目の自立者人数÷各群の人数×100で算出した.
【結果と考察】
対象者の改良フレンケル分類は,Bが4名,C1が11名,C2が9名,Dが6名で4群に分けられた.各群の年齢と罹病期間に差はなかった.MOA,MFT,FIM総点はいずれも有意差が認められ(P<0.05),HDS-Rに差はなかった.MOA,MFT,FIM総点では隣り合う重症度間の群間差はC1とC2群間のみで認められ(P<0.01),いずれもC2群が高得点であった.B,C1,C2,D群の順に各評価項目の中央値(25%-75%タイル値)を示すと,MOA(ヶ月)は4(4-4),7(4-7),21(15-29),31(23-66),MFT(点)右/左が0(0-0)/0(0-10),28(0-47)/13(0-28),72(60-80)/75(63-85),86(80-96)/91(77-95),FIM総点(点)は14(13-17),13(13-16),45(24-53),66(49-80)であった.
次に,群別のFIM下位項目の自立者割合はBとC1群では全項目とも入院時から3ヶ月目まで25%以下であった.C2群では,入院時は全項目が44%以下で,2ヶ月目は車椅子移動が67%,食事,トイレ動作,ベッド移乗,トイレ移乗が56%となり,3ヶ月目には食事が89%,整容,車椅子移動,トイレ動作が78%,ベッド移乗とトイレ移乗が67%, 更衣が56%となった.D群では入院時は食事,車椅子移動が83%,整容67%,トイレ動作,ベッド移乗,トイレ移乗,更衣が50%で,2ヶ月目には食事,整容,更衣,トイレ動作,ベッド移乗,トイレ移乗が100%で,3ヶ月目にはさらに歩行が100%,浴槽移乗,清拭が83%となり,残す階段のみ50%に留まった.
以上の結果からBとC1のADL改善経過は類似しており,改良フレンケル分類に基づいてリハ目標や介入内容,順序を設定する際には,これら2群は同様に扱うことができると思われた.また,C1とC2,D間においては運動機能,ADL能力に明らかな差があり,ADL改善経過も異なるため,今回の結果を指標に各重症度で目標を設定することが必要と考えた.