第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-5] ポスター:運動器疾患 5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-5-5] 入院中に糖尿病網膜症による重度視覚障害を合併した下腿切断症例に対する作業療法

単身独居での自宅退院に向けた多職種連携支援

恒吉 佑香, 小澤 弘幸 (国家公務員共済組合連合会九段坂病院 リハビリテーション科)

【はじめに】入院中に糖尿病に起因する重度視覚障害を合併した左下腿切断の症例を担当した.複雑な社会背景のため単身独居での自宅退院が求められたため,病院内外の多職種による退院支援を行い,自宅退院が可能となったのでその実践を報告する.発表の同意は本人より得ている.
【症例紹介】症例は30代男性.仕事中に受傷した左足打撲の放置を契機に,2ヶ月後に左足部の汚臭と黒色化が進行したため受診し,翌日に左下腿切断となった.術後50日に当院回復期リハビリ病棟へ転院となり,作業療法(OT)と理学療法(PT)が開始となった.病前は死別した両親が残した自宅で独居生活をしており,清掃会社で昼夜問わず働いていた.両親他界後に金銭管理ができず消費者金融で借金をしていたが,別居していた兄に肩代わりしてもらい,兄とは疎遠な関係が続いていた.最終学歴は専門学校卒だが,幼少期より学業についていけないことや対人関係のトラブルから知的障害が疑われていた.
 入院時評価では,上下肢MMTは4〜5,ROMは左膝関節屈曲145°/125°だった.視覚障害や著名な感覚障害はなかったが,右肩関節痛と断端部の疼痛,幻肢痛があった.FIMは運動46点,認知33点であり,尿閉に対する自己導尿には介助が必要だった.複雑な内容の理解は乏しく,生活全般に介助依存の傾向だった.入院時方針は,義足での自立歩行を獲得して自宅退院だったため,OTでは断端管理と自己導尿の手技獲得,義足を装着してのADLとIADLの自立を目指して訓練を開始した.
【経過】術後84日に仮義足を作成したが,術後113日に糖尿病網膜症を発症したため,床状訓練以外と義足作成は一旦中止となり,ADL介助量は増加した.複雑な社会背景のため転院治療先が見つからず当院で加療していたが,症状は進行して左目は失明,右目は視力0.2となった.視覚障害の合併や経済的な理由により施設入所は不可能だったため,自宅退院の方針は継続となった.
安静解除後の術後147日に本義足を作成して歩行訓練を進めつつ,視覚障害を考慮した義足着脱や自己導尿の手技獲得,ベッド周辺の環境調整とADL練習を開始した.看護師(NS)やPTと協業しながら動作練習を進め,病棟生活での断端管理や義足着脱,自己導尿は可能となった.しかし,退院後生活に対する不安が強く生活イメージができなかったため,医師や社会福祉士,NS,OT,PTで視覚障害を考慮した生活動作の方法と自宅環境について議論し,術後162日に家屋調査と退院前カンファレンスを実施した.訪問NSや計画相談員,生活相談員など地域支援スタッフも同席して協議し,本症例と支援者で共有できる義足や自己導尿の管理方法と緊急連絡先が分かるパンフレットを作成することになった.これにより,本症例が院内生活で習得した方法を見返すことができ,緊急連絡先も至近距離であれば視認できる文字にしたことで不安感が軽減した.
退院時の術後172日,退院時FIMは運動66点となり,屋内移動は下肢疼痛が増悪したため状態に応じてずり這いやT字杖も併用することになったが,訪問看護やヘルパーサービスを利用した単身独居を再開できた.退院後も作成したパンフレットを活用でき,トラブルなく自己管理ができていた.
【結語】左下腿切断のための入院中に尿閉と重度視覚障害を合併したが,院内外スタッフでの多職種連携による退院支援を行なった.対象者の社会背景や精神心理面を考慮しつつ,多職種で退院支援の方法を協議したことで効果的なアプローチが実施できたことから,院内外での多職種連携は重要である.