[PD-5-8] 作業的役割の再獲得に向けたスプリント療法と認知行動療法を用いた一事例
【はじめに】今回交通外傷に伴う右前腕不全断裂を受傷後,自身の身体状況に落胆している事例に対してスプリント療法と認知行動療法(以下CBT)を行なった.事例の求めるフォークリフト(以下フォーク)の操作再開に向け,事例とオーダーメイドスプリントの形状を検討し,現職復帰が現実的となったため以下に報告する.尚,発表に関して事例から書面にて同意を得ている.
【対象・経過】対象:50歳代男性.Hope:フォーク操作を含めた現職復帰.職歴:工場勤務でフォーク運転歴は40年.経過:交通事故にて急性期病院へ搬送され右前腕不全断裂及びデグロービング損傷と診断され同日手術.2度の皮膚移植と作業療法(以下OT)を経て受傷後14週から当院外来OTが開始となる.関節可動域(以下ROM):肩関節屈曲100°,外転65°,肘関節屈曲115°,伸展−25°,手関節屈曲25°,伸展−15°,手指軽度屈曲拘縮.感覚:表在感覚重度鈍麻,深部感覚脱失.Manual Muscle Test(以下MMT):肩関節屈曲外転3,肘関節屈曲伸展3,手関節屈曲伸展2,手指0.Functional Independence Measure(以下FIM)126点.安静時cock-up splintと治療時dynamic splintを装着.医師から今後手指が動かないと説明され,「右手を使いたい」と喪失感を感じていた.
<初期>母指内転拘縮予防に長対立スプリントを作製したが,生活内で患側上肢は使用せず,「運転もろくにできない」と活動制限に対し悲観的であった.そこでCBTの基本スキルであるソクラテス式問答法を用いることで事例が自問し,自らが主体的に行動を選択できるよう面接を実施した.スマートフォンのタッチペン操作について要望が聞かれ,角度や位置を自身で考えOTにてタッチペンホルダーを補填した.徐々に患側上肢で操作する機会が増加した.
<中期>初回術後31週に自動車運転の許可が下り,自身で外出できるようになったことで悲観的な発言が減少していたが,偽関節に伴う再手術を施術することとなり「またゼロからか」と再度落胆する様子が観察された.術後は面接の中で介入初期の画像や動画を共有し,現状との差について「ゼロからではない」認識が保てるよう意識して関わった.
<後期>再手術後34週に復職許可があり,実際にフォークレバー操作を模擬的に実施したが手指機能制限により困難であった.しかし事例から「こういう装具ならできそう」とオーダーメイドスプリントの意見が聞かれたため,前腕部にレバーヘッドをはめ込める外付けポケットを補填した長対立スプリントを作成した.実場面にて再度レバー操作を確認し,スプリントの耐久性をモニタリングしつつ,現在就業条件についての相談を会社と行う段階に至った.
【結果】 ROM:肩関節屈曲150°,外転165°,肘関節屈曲135°,伸展0°,前腕回内45°,回外55°,手関節屈曲35°,伸展15°,手指軽度屈曲拘縮.感覚:損傷部位より遠位全体:表在感覚軽度鈍麻,深部感覚軽度鈍麻.MMT:肩関節屈曲5,外転4.肘関節屈曲伸展4.手関節屈曲伸展3.手指2.FIM:126点.「フォークの運転はできる」「できることを会社に理解してもらいたい」と前向きな発言が聞かれた.
【考察】事例は自身の作業的役割を喪失したことで悲観的な発言が多かった.CBTは現実に目を向け,できるだけ多くの情報を収集し,現実に沿った考え方ができるようにすることが重要である(大野裕,2021).今回,認知的技法を用い自身の認知行動の特徴に気づいてもらうよう介入した.それにより,繰り返す手術にて不安状態にある事例が,損傷手の状態とフォーク操作を客観的に分析でき,具体的解決策を考えるきっかけとなった可能性がある.
【対象・経過】対象:50歳代男性.Hope:フォーク操作を含めた現職復帰.職歴:工場勤務でフォーク運転歴は40年.経過:交通事故にて急性期病院へ搬送され右前腕不全断裂及びデグロービング損傷と診断され同日手術.2度の皮膚移植と作業療法(以下OT)を経て受傷後14週から当院外来OTが開始となる.関節可動域(以下ROM):肩関節屈曲100°,外転65°,肘関節屈曲115°,伸展−25°,手関節屈曲25°,伸展−15°,手指軽度屈曲拘縮.感覚:表在感覚重度鈍麻,深部感覚脱失.Manual Muscle Test(以下MMT):肩関節屈曲外転3,肘関節屈曲伸展3,手関節屈曲伸展2,手指0.Functional Independence Measure(以下FIM)126点.安静時cock-up splintと治療時dynamic splintを装着.医師から今後手指が動かないと説明され,「右手を使いたい」と喪失感を感じていた.
<初期>母指内転拘縮予防に長対立スプリントを作製したが,生活内で患側上肢は使用せず,「運転もろくにできない」と活動制限に対し悲観的であった.そこでCBTの基本スキルであるソクラテス式問答法を用いることで事例が自問し,自らが主体的に行動を選択できるよう面接を実施した.スマートフォンのタッチペン操作について要望が聞かれ,角度や位置を自身で考えOTにてタッチペンホルダーを補填した.徐々に患側上肢で操作する機会が増加した.
<中期>初回術後31週に自動車運転の許可が下り,自身で外出できるようになったことで悲観的な発言が減少していたが,偽関節に伴う再手術を施術することとなり「またゼロからか」と再度落胆する様子が観察された.術後は面接の中で介入初期の画像や動画を共有し,現状との差について「ゼロからではない」認識が保てるよう意識して関わった.
<後期>再手術後34週に復職許可があり,実際にフォークレバー操作を模擬的に実施したが手指機能制限により困難であった.しかし事例から「こういう装具ならできそう」とオーダーメイドスプリントの意見が聞かれたため,前腕部にレバーヘッドをはめ込める外付けポケットを補填した長対立スプリントを作成した.実場面にて再度レバー操作を確認し,スプリントの耐久性をモニタリングしつつ,現在就業条件についての相談を会社と行う段階に至った.
【結果】 ROM:肩関節屈曲150°,外転165°,肘関節屈曲135°,伸展0°,前腕回内45°,回外55°,手関節屈曲35°,伸展15°,手指軽度屈曲拘縮.感覚:損傷部位より遠位全体:表在感覚軽度鈍麻,深部感覚軽度鈍麻.MMT:肩関節屈曲5,外転4.肘関節屈曲伸展4.手関節屈曲伸展3.手指2.FIM:126点.「フォークの運転はできる」「できることを会社に理解してもらいたい」と前向きな発言が聞かれた.
【考察】事例は自身の作業的役割を喪失したことで悲観的な発言が多かった.CBTは現実に目を向け,できるだけ多くの情報を収集し,現実に沿った考え方ができるようにすることが重要である(大野裕,2021).今回,認知的技法を用い自身の認知行動の特徴に気づいてもらうよう介入した.それにより,繰り返す手術にて不安状態にある事例が,損傷手の状態とフォーク操作を客観的に分析でき,具体的解決策を考えるきっかけとなった可能性がある.