第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-6] ポスター:運動器疾患 6

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-6-2] 大腿骨近位部骨折術後患者に対するVirtual Reality治療が有用であった3例

萩野 勝也1, 伊藤 兼1, 岩崎 沙季1, 藤岡 昌之2, 森 憲司2 (1.岩砂病院・岩砂マタニティ リハビリテーション部, 2.岩砂病院・岩砂マタニティ リハビリテーション科)

【序論】
近年,最新のリハビリ治療の1つとしてVirtual Reality(以下,VR)技術が注目され,荷重やバランス訓練を低リスクで且つ効率的に行えるようになっている.VR技術を用いた報告には,脳卒中片麻痺や注意障害に対する論文は散見されるが,大腿骨近位部骨折の介入報告は少ないのが現状である.今回,3名の大腿骨近位部骨折術後患者に対して,VR(mediVRカグラ)治療を用いたリハビリを実施し,身体機能およびFIMの早期改善を認めたため報告する.本発表に際して,対象者の同意は得られている.
【目的】
VR治療を用いた大腿骨近位部骨折術後患者の前後評価および入院経過を報告し,VR治療の有効性や作業療法における可能性を推察する.
【方法】
対象は,当院にリハビリ目的で転院された3名(全女性:平均年齢81±3.4歳)の大腿骨近位部骨折術後患者である.認知機能は良好であり,VR開始前は,いずれも歩行補助具を用いた監視下歩行レベルであった.VR治療開始は,術後平均33.9±10.9日であった.方法は,VR治療(没入型ヘッドマウントディスプレイを用いた3次元VR空間での椅子座位左右リーチングタスク)を週2~3回,1回20分,計5~7回施行した.VR治療期間(平均21±2.5日)前後に,10m歩行速度,Timed Up&Go Test(以下,TUG),Berg Balance Scale(以下,BBS),FIM運動項目を評価および比較検討した.
【結果】
以下の数値は,3症例の平均値を記す.VR治療最終評価時において,3例全てで快適10m歩行速度(13.2±9.2秒短縮),努力10m歩行速度(8.9±7.0秒短縮),TUG(9.8±5.1秒短縮),BBS(7.3±4.1点向上),FIM運動項目(利得14.6±2.6点)で改善を認めた.退院時には全員歩行およびADL自立が達成できた.退院時データは,在院日数43.3±14.0日,入退院時FIM利得27.6±9.8点,実績指数59.0±15.1,1日平均リハビリ単位数3.8±0.1単位との結果であった.
【考察】
市川らは,大腿骨頸部骨折術後のVR治療は,運動による創部痛の増悪なく,姿勢バランス機能を改善させ,安定した立位・歩行訓練の一助になると述べている.今回3例全てで身体機能評価の著しい改善を認め,効果的な荷重・バランス訓練になったと考えられる.また当院過去3年間のVR治療非実施の大腿骨近位部骨折術後患者47名平均データ(在院日数59.7±23.3日,FIM利得23.6±11.7点,実績指数49.8±56.0,1日平均リハビリ単位数5.0±1.4単位)と比較すると,今回のVR治療実施例は,短期間の入院と少ないリハビリ単位数で,高い実績指数が得られたことが分かり,効率的および効果的な成果があったと考えられる.運動器疾患リハビリの根幹であるバランス・歩行能力が大きく改善することで,円滑なADL介入が可能となり,結果的に入院期間短縮および早期ADL自立が実現できたと示唆される.
【展望】
大腿骨近位部骨折におけるOTの役割は,身辺処理や社会的適応力などの障害を改善し,活動的に過ごせるように,治療・援助することといわれている.VRを併用したリハビリは,身体機能を早期に高めることができ,入院中~後期には充実した社会復帰支援が可能になるなど,今後の作業療法展開の拡大に寄与すると考えられる.