[PD-6-3] 馴染みのある作業がうつ病を呈す左大腿骨転子部骨折患者の離床時間やADLの拡大,生き甲斐の獲得に繋がった一例
【はじめに】
既往にうつ病を抱え,自殺未遂の経験があり,希死念慮や意欲低下とともに臥床傾向であり,離床時間獲得が困難であった. 上田らは高齢者の全身的な廃用症候群を防ぐには,1日4時間以上の座位時間確保を必要としている.また,佐々木らは編み物により,セロトニンの分泌が高まることや,反復動作がリラックス状態に導くと報告している.そこで,馴染みのある編み物に焦点を当て,離床時間の拡大とともに,日常生活行為(以下ADL),生き甲斐の獲得を目標とし介入した. 馴染みのある作業が生き甲斐となり,離床時間獲得とともに,ADL動作向上にも繋がったため以下に報告する.尚,報告に際し,患者様本人に同意を得た.
【症例紹介】
症例は,要介護4,特別養護老人ホーム入所中に転倒し左大腿骨転子部骨折を呈した90歳女性である.病前ADL全般は一部介助,屋内杖歩行見守り,屋外車椅子介助で生活.重度難聴のため電子パッドにて意思疎通支援を行っていた.編み物が趣味であり,40歳代頃から趣味が高じ編み物教室の講師をしていた.
【作業療法評価】
入院時のバーサルインデックス(以下BI)は60点.起居・移乗動作は中等度介助.移動は車椅子介助,トイレ動作は,片手支持での立位保持が困難であり,下衣操作は介助.また,労作時にはBorg scale15と易疲労性が顕著であり,離床時間は1時間であった.精神機能は,ミニメンタルステート検査(以下MMSE)19点,老年期うつ病評価尺度(以下GDS)15点.これらから,本症例の問題点は,希死念慮が強い,臥床傾向,意欲低下であった.一方で,利点は病識がある,ADLに協力動作がある,得意な作業(編み物)があることであった.
【作業療法介入】
目標設定期間を4段階に分け,ADL,離床時間の2つに焦点を当て症例の過負荷とならないよう注意した.運動・ADLプログラムは,基本的動作・車椅子操作・トイレ動作(下衣操作)を実施.1週間ごとに動画や電子パッドを使用し視覚的に正のフィードバックを行った. 認知・精神プログラムでは園芸や外気浴,また,ニンテンドーDSを再開した. ニンテンドーDSではどうぶつの森を実施し,魚釣りや虫取りなどで,他患者同士との会話が弾むきっかけにも繋がった.離床時の作業は,出来栄えを気にする作業は避け, 作業の熟練度に合わせてより高度な作品へ段階付けでき,得意な作業である編み物を作業活動に選択.作品は,病棟スタッフや他患者に贈り,リハビリ室内の椅子や壁に飾り付けを実施した.
【結果・考察】
BIは90点へ改善.ADLは起居・移乗動作ともに自立.移動・トイレ動作は,日中車椅子自立,夜間は睡眠薬を使用しているため見守りとなった.精神機能面はMMSEでは2点,GDSは11点と4点改善. 離床時間は3~5時間ほど拡大した. 受傷による喪失体験により自尊心の低下・臥床傾向になり他者との交流場面が減少し,閉鎖的な環境に繋がっていた.症例の特技である編み物を実施することで第三者から認められ,社会的な交流や役割が拡大し,患者の孤立感や無価値観を減らし,社会的な支えや帰属感を強化することに繋がった.また,1週間ごとの視覚的なフィードバックにより,快体験や成功体験を得ることで,自己肯定感や生き甲斐を取り戻すことができ,自己効力や主体性を高めることにも繋がった. 本症例においては,馴染みのある作業の再開と,こころの変化に寄り添った段階的な体験機会の提供や社会交流機会の提供が精神機能面を賦活し,結果として身体機能,ADL能力の向上に繋げることが出来た.
既往にうつ病を抱え,自殺未遂の経験があり,希死念慮や意欲低下とともに臥床傾向であり,離床時間獲得が困難であった. 上田らは高齢者の全身的な廃用症候群を防ぐには,1日4時間以上の座位時間確保を必要としている.また,佐々木らは編み物により,セロトニンの分泌が高まることや,反復動作がリラックス状態に導くと報告している.そこで,馴染みのある編み物に焦点を当て,離床時間の拡大とともに,日常生活行為(以下ADL),生き甲斐の獲得を目標とし介入した. 馴染みのある作業が生き甲斐となり,離床時間獲得とともに,ADL動作向上にも繋がったため以下に報告する.尚,報告に際し,患者様本人に同意を得た.
【症例紹介】
症例は,要介護4,特別養護老人ホーム入所中に転倒し左大腿骨転子部骨折を呈した90歳女性である.病前ADL全般は一部介助,屋内杖歩行見守り,屋外車椅子介助で生活.重度難聴のため電子パッドにて意思疎通支援を行っていた.編み物が趣味であり,40歳代頃から趣味が高じ編み物教室の講師をしていた.
【作業療法評価】
入院時のバーサルインデックス(以下BI)は60点.起居・移乗動作は中等度介助.移動は車椅子介助,トイレ動作は,片手支持での立位保持が困難であり,下衣操作は介助.また,労作時にはBorg scale15と易疲労性が顕著であり,離床時間は1時間であった.精神機能は,ミニメンタルステート検査(以下MMSE)19点,老年期うつ病評価尺度(以下GDS)15点.これらから,本症例の問題点は,希死念慮が強い,臥床傾向,意欲低下であった.一方で,利点は病識がある,ADLに協力動作がある,得意な作業(編み物)があることであった.
【作業療法介入】
目標設定期間を4段階に分け,ADL,離床時間の2つに焦点を当て症例の過負荷とならないよう注意した.運動・ADLプログラムは,基本的動作・車椅子操作・トイレ動作(下衣操作)を実施.1週間ごとに動画や電子パッドを使用し視覚的に正のフィードバックを行った. 認知・精神プログラムでは園芸や外気浴,また,ニンテンドーDSを再開した. ニンテンドーDSではどうぶつの森を実施し,魚釣りや虫取りなどで,他患者同士との会話が弾むきっかけにも繋がった.離床時の作業は,出来栄えを気にする作業は避け, 作業の熟練度に合わせてより高度な作品へ段階付けでき,得意な作業である編み物を作業活動に選択.作品は,病棟スタッフや他患者に贈り,リハビリ室内の椅子や壁に飾り付けを実施した.
【結果・考察】
BIは90点へ改善.ADLは起居・移乗動作ともに自立.移動・トイレ動作は,日中車椅子自立,夜間は睡眠薬を使用しているため見守りとなった.精神機能面はMMSEでは2点,GDSは11点と4点改善. 離床時間は3~5時間ほど拡大した. 受傷による喪失体験により自尊心の低下・臥床傾向になり他者との交流場面が減少し,閉鎖的な環境に繋がっていた.症例の特技である編み物を実施することで第三者から認められ,社会的な交流や役割が拡大し,患者の孤立感や無価値観を減らし,社会的な支えや帰属感を強化することに繋がった.また,1週間ごとの視覚的なフィードバックにより,快体験や成功体験を得ることで,自己肯定感や生き甲斐を取り戻すことができ,自己効力や主体性を高めることにも繋がった. 本症例においては,馴染みのある作業の再開と,こころの変化に寄り添った段階的な体験機会の提供や社会交流機会の提供が精神機能面を賦活し,結果として身体機能,ADL能力の向上に繋げることが出来た.