[PD-7-10] 指神経断裂に対する神経再生誘導術(人工神経移植)後のハンドセラピィの経験
【はじめに】末梢神経損傷において端端縫合で修復できないほどの神経欠損が生じた場合,人工神経を用いて欠損部を架橋することで自家神経を犠牲にすることなく神経再建が可能となっており,人工神経は自家神経移植に代わる治療の選択肢の一つとして近年注目されている.これまでに,指神経欠損例に対して人工神経移植を行うことで知覚機能の改善が得られたという報告がいくつかある(八木ら,2023).しかし,これらは医師による機能評価のアウトカムが中心の報告であり,術後の作業療法における目標とする作業活動の獲得や達成度の変化を示した実践の報告はほとんどない.今回,指神経断裂に対して人工神経(以下,リナーブ)による神経再生誘導術を施行した事例に対してハンドセラピィを実施した.その結果,目標とする作業の再獲得と実行度・満足度の改善を認めたので報告する.なお,発表に際して対象者には書面にて同意を得ており,当院倫理委員会の承認も得ている.
【事例紹介】10歳代女性,利き手は右.病前ADLは自立しており,職業は飲食店での調理であった.現病歴は,仕事中に包丁で左母指基部を切創し,母指の痺れと疼痛が続くため,受傷後9日目にリナーブを用いた神経再生誘導術を施行した.術中所見では左母指橈側指神経は完全断裂しており,遠位と近位の神経断端を新鮮化した後,10㎜の神経欠損をリナーブで架橋再建した.
【初期評価】入院作業療法では術前評価を実施した.Semmes-Weinstein monofilament test(以下,SW-t):母指IP以遠4.08(紫),s2PD(静的2点識別覚):7㎜,左母指全体に痺れあり(VAS68mm),関節可動域(自動,屈曲/伸展):左母指MP22/-4度,IP52/-14度であった.
【介入経過】術後3週間のギプス固定となり,術翌日に自宅退院となった.退院後は外来作業療法(1回40分)に移行した.術後23日目にADOCー2を使用して設定した合意目標(実行度/満足度)は,①調理が両手でできる(1/1),②洗濯物を両手で干せる(2/2),③職場に復帰できる(1/1)となった.まずは機能訓練から開始し,ギプス固定下での手指運動を,ギプス除去後(術後4週)は母指のIP・MP関節の愛護的な自動運動と橈側・掌側外転を開始し,術後6週からは母指の他動運動を追加した.術後8週では左手で食材を押さえることが可能となり,術後10週では母指の筋力訓練も追加した.作業活動は,痺れの状態に応じて目標とする作業を中心に実施し,最終的には洗濯物を両手で干せるようになり,職場復帰後,両手での調理動作も行えるまでに至った.
【結果】SW-t:母指IP以遠3.22(青),s2PD(静的2点識別覚):7㎜,左母指全体のしびれは軽減(VAS27mm),関節可動域(自動,屈曲/伸展):左母指MP40/0度,IP80/10度.ADOCー2:①調理が両手でできる(10/9),②洗濯物を両手で干せる(10/10),③職場に復帰できる(10/10)などと,目標にした作業の達成が認められた.
【考察】人工神経は30㎜以下の小径の知覚神経欠損に対して良好な治療成績が報告(淘江ら,2022)されており,年齢と受傷から手術までの待機期間,神経欠損長が神経回復に影響するとされている.本事例は若齢であり,受傷後9日目の早期に手術を施行,神経欠損が10mmであり,これらがSW-tやしびれの改善につながったと考えられる.それに加えて,作業療法において,作業活動と段階的な機能訓練を自主練習も含めて実施したことが,目標とする作業活動の再獲得に繋がったものと考える.
【事例紹介】10歳代女性,利き手は右.病前ADLは自立しており,職業は飲食店での調理であった.現病歴は,仕事中に包丁で左母指基部を切創し,母指の痺れと疼痛が続くため,受傷後9日目にリナーブを用いた神経再生誘導術を施行した.術中所見では左母指橈側指神経は完全断裂しており,遠位と近位の神経断端を新鮮化した後,10㎜の神経欠損をリナーブで架橋再建した.
【初期評価】入院作業療法では術前評価を実施した.Semmes-Weinstein monofilament test(以下,SW-t):母指IP以遠4.08(紫),s2PD(静的2点識別覚):7㎜,左母指全体に痺れあり(VAS68mm),関節可動域(自動,屈曲/伸展):左母指MP22/-4度,IP52/-14度であった.
【介入経過】術後3週間のギプス固定となり,術翌日に自宅退院となった.退院後は外来作業療法(1回40分)に移行した.術後23日目にADOCー2を使用して設定した合意目標(実行度/満足度)は,①調理が両手でできる(1/1),②洗濯物を両手で干せる(2/2),③職場に復帰できる(1/1)となった.まずは機能訓練から開始し,ギプス固定下での手指運動を,ギプス除去後(術後4週)は母指のIP・MP関節の愛護的な自動運動と橈側・掌側外転を開始し,術後6週からは母指の他動運動を追加した.術後8週では左手で食材を押さえることが可能となり,術後10週では母指の筋力訓練も追加した.作業活動は,痺れの状態に応じて目標とする作業を中心に実施し,最終的には洗濯物を両手で干せるようになり,職場復帰後,両手での調理動作も行えるまでに至った.
【結果】SW-t:母指IP以遠3.22(青),s2PD(静的2点識別覚):7㎜,左母指全体のしびれは軽減(VAS27mm),関節可動域(自動,屈曲/伸展):左母指MP40/0度,IP80/10度.ADOCー2:①調理が両手でできる(10/9),②洗濯物を両手で干せる(10/10),③職場に復帰できる(10/10)などと,目標にした作業の達成が認められた.
【考察】人工神経は30㎜以下の小径の知覚神経欠損に対して良好な治療成績が報告(淘江ら,2022)されており,年齢と受傷から手術までの待機期間,神経欠損長が神経回復に影響するとされている.本事例は若齢であり,受傷後9日目の早期に手術を施行,神経欠損が10mmであり,これらがSW-tやしびれの改善につながったと考えられる.それに加えて,作業療法において,作業活動と段階的な機能訓練を自主練習も含めて実施したことが,目標とする作業活動の再獲得に繋がったものと考える.