[PD-7-9] 肘関節脱臼骨折術後13年経過してから増悪した正中神経麻痺に対する神経剥離術前後のハンドセラピィ
【緒言】正中神経の絞扼は,肘関節脱臼および上腕骨内側上顆骨折の稀な合併症である(O'Brien AC,2021).今回我々は,肘関節脱臼骨折術後10年以上経過したのちに遅発性に正中神経障害が増悪した稀な症例に対して,神経剥離術前後のハンドセラピィを経験したので報告する.
【症例紹介】27歳女性.診断名:左高位正中神経麻痺,現病歴:14歳時部活動中,鉄棒から転落し左上腕骨内側上顆骨折を伴う肘関節脱臼を受傷し,観血的整復固定術(以下ORIF)を施行された.術直後から左高位正中神経麻痺を発症したが.特に積極的な治療は行わなかった.術後24か月の最終診察時,正中神経領域の痺れが残存していたものの,握力は健側の5割程度で,つまみ・ピンチ動作では工夫は必要だったが,学校生活に支障なく,体操競技も可能であった.その後,医療職(作業療法士)に就き通常業務を行っていたが,ORIF術後13年9か月後に正中神経領域の筋力低下,しびれが増強,祈梼手変形を認めたため当院受診した.既往歴:左肘関節脱臼骨折以外は特記事項なし.
【術前評価】ORIF術後14年経過時,左祈祷手変形,左母指球筋萎縮,示指・中指の冷感著明.同部の知覚低下と安静時痛認めた.徒手筋力検査(MMT)は,円回内筋(PT)2,浅指屈筋(FDS)示指1,中指2,深指屈筋(FDP)示指1,中指2,短母指屈筋(FPB)1,長母指屈筋(FPL)1,短母指外転筋(APB)0であった.Tinel signを上腕骨内側上顆10㎜近位前方に認め,Semmes Weinstein monofilament test(SWT)は,母指~中指MP関節部遠位脱失,健側比握力17%,健側比ピンチ力14%であった.DASH scoreは,Disability/symptom 48.3,Sports/music 87.5,Work 81.3であった.麻痺が進行したため手術を施行した.
【手術所見】正中神経は上腕骨滑車部近傍の骨膜と接し,癒着・絞扼が著明であった,神経の連続性は保たれているものの,癒着が強い箇所で神経が細くなりその近位に神経腫形成していた.神経の絞扼を解除し,癒着剥離して手術終了した.
【術後経過と術後1年再評価】術後3日でシーネ除去し自動運動(以下ROM)を開始ハンドセラピィは月1回の頻度で,ROMの維持・定期的な評価・知覚脱失部分の管理・回復が認められたのち知覚再教育訓練を実施した.サムスパイカスプリト,軟性用短対立スプリントを作製し仕事上での使用を指導した.術後1年の再評価ではKapandji index9,MMTはPT2,FDS示指3中指4,FDP示指3中指4,FPB3,FPL3,APB2,健側比握力22%,健側比ピンチ力33%と改善した.感覚評価はTinel signが,遠位手掌皮線まで延長し,SWTは母指IP関節および示指と中指PIP関節の遠位部は知覚脱失だが,異常知覚が出現している.DASH score Disability/symptom29.2,Spots/music50, Work50と術前よりすべての項目で改善した.
【考察】肘関節脱臼骨折術後13年9か月経過してから増悪した正中神経麻痺症例に対する神経剥離術前後のハンドセラピィを経験した.術後経過と術後1年の再評価では,筋力・知覚回復を認めたが,異常知覚が出現し,左手の使用頻度の低下を認めた.今後は異常知覚に対して脱感作を含めた知覚再教育訓練による左手の使用頻度の改善が必要であると考えられる.
【症例紹介】27歳女性.診断名:左高位正中神経麻痺,現病歴:14歳時部活動中,鉄棒から転落し左上腕骨内側上顆骨折を伴う肘関節脱臼を受傷し,観血的整復固定術(以下ORIF)を施行された.術直後から左高位正中神経麻痺を発症したが.特に積極的な治療は行わなかった.術後24か月の最終診察時,正中神経領域の痺れが残存していたものの,握力は健側の5割程度で,つまみ・ピンチ動作では工夫は必要だったが,学校生活に支障なく,体操競技も可能であった.その後,医療職(作業療法士)に就き通常業務を行っていたが,ORIF術後13年9か月後に正中神経領域の筋力低下,しびれが増強,祈梼手変形を認めたため当院受診した.既往歴:左肘関節脱臼骨折以外は特記事項なし.
【術前評価】ORIF術後14年経過時,左祈祷手変形,左母指球筋萎縮,示指・中指の冷感著明.同部の知覚低下と安静時痛認めた.徒手筋力検査(MMT)は,円回内筋(PT)2,浅指屈筋(FDS)示指1,中指2,深指屈筋(FDP)示指1,中指2,短母指屈筋(FPB)1,長母指屈筋(FPL)1,短母指外転筋(APB)0であった.Tinel signを上腕骨内側上顆10㎜近位前方に認め,Semmes Weinstein monofilament test(SWT)は,母指~中指MP関節部遠位脱失,健側比握力17%,健側比ピンチ力14%であった.DASH scoreは,Disability/symptom 48.3,Sports/music 87.5,Work 81.3であった.麻痺が進行したため手術を施行した.
【手術所見】正中神経は上腕骨滑車部近傍の骨膜と接し,癒着・絞扼が著明であった,神経の連続性は保たれているものの,癒着が強い箇所で神経が細くなりその近位に神経腫形成していた.神経の絞扼を解除し,癒着剥離して手術終了した.
【術後経過と術後1年再評価】術後3日でシーネ除去し自動運動(以下ROM)を開始ハンドセラピィは月1回の頻度で,ROMの維持・定期的な評価・知覚脱失部分の管理・回復が認められたのち知覚再教育訓練を実施した.サムスパイカスプリト,軟性用短対立スプリントを作製し仕事上での使用を指導した.術後1年の再評価ではKapandji index9,MMTはPT2,FDS示指3中指4,FDP示指3中指4,FPB3,FPL3,APB2,健側比握力22%,健側比ピンチ力33%と改善した.感覚評価はTinel signが,遠位手掌皮線まで延長し,SWTは母指IP関節および示指と中指PIP関節の遠位部は知覚脱失だが,異常知覚が出現している.DASH score Disability/symptom29.2,Spots/music50, Work50と術前よりすべての項目で改善した.
【考察】肘関節脱臼骨折術後13年9か月経過してから増悪した正中神経麻痺症例に対する神経剥離術前後のハンドセラピィを経験した.術後経過と術後1年の再評価では,筋力・知覚回復を認めたが,異常知覚が出現し,左手の使用頻度の低下を認めた.今後は異常知覚に対して脱感作を含めた知覚再教育訓練による左手の使用頻度の改善が必要であると考えられる.