[PD-8-1] 情動的,認知的側面のアプローチが功を奏した,帯状疱疹後神経痛の一症例
【はじめに】帯状疱疹後神経痛(以下PHN)は急性帯状疱疹痛の軽快した後に移行する神経障害性疼痛で,難治性の病態を呈する.PHNではCRPSを来す可能性があり(水野ら,2001),それにより作業療法の効果を妨げることがある.そのためCRPSの予防には注意しなければならない.今回,上肢運動麻痺を合併したPHNの症例に対し,疼痛増悪を認めたにも拘わらず,慢性疼痛における情動的,認知的側面の評価と作業療法(以下OT)を実践し,CRPSを合併することなく疼痛と上肢機能の改善を認めた症例を経験したので報告する.
【症例】50歳代の女性.既往に脊髄損傷による右半身麻痺あり.X年Y月に帯状疱疹を罹患し,左肩外側と左手に皮疹が生じた.その後,皮疹は改善したが左上肢の筋力低下とPHNを認めた.X年Y+8月に当院受診となった. Hopeは「左手でパソコンができるようになりたい」であった.
【OT評価】左肩外側と左手に疼痛を認め,NRSは左肩外側10/10,左手5/10であった.MMTは左肩〜手指にかけて2レベル,他動ROMは肩屈曲,外転とも90°以上困難であった.中枢性感作の評価としてCSI-9は26/36であった.疼痛の情動的側面における評価としてPCSは43/52,TSKは58/68,HADSは33/42であった.
【治療】左肩外側の疼痛が強く,通常のROM訓練や筋力強化訓練が困難であった.そのため下降性疼痛抑制系の賦活を目的にTENSと疼痛教育を実施した.左肩外側に対して,5Hz,250μsecでの低周波TENSと130Hz,130μsecでの高周波TENSを組み合わせて運動療法と併用した.疼痛教育では慢性疼痛の機序をわかりやすく伝えた上で,運動が大切であることと,疼痛軽減を目指すのでなく,パソコン操作ができるようになるという目標を持つことが疼痛の軽減につながることを説明した.
【経過】OT開始から1年後,肩外側の疼痛はNRS5と改善し,ROM制限は改善され,筋力もMMT4レベルに向上した.しかし,左手にはアロディニアを認め,NRSは9/10と初期評価より増悪していた. また左手の協調運動障害を認め,パソコン操作のCOPMは遂行度1,満足度1であった.疼痛の認知的側面における評価としてThe Bath CRPS body perception disturbance scale(以下BPDS)は25/57と左手の身体知覚異常を認めた.また左手の表在感覚や複合感覚の低下も認め,左手の二点識別覚は9mmであった.そのため左手に対し運動イメージ訓練(動画による運動錯覚)及び, 知覚再教育訓練(触覚定位や物品識別)を開始した.
【最終評価】OT開始から1年5ヶ月後, MMTは左肩〜手指にかけて4レベルと麻痺は軽度残存した.疼痛はNRSが左肩外側3/10,左手4/10まで改善を認めた. CSI-9は20/36,PCSは24/52,TSKは32/68,HADSは14/42であった.左手の2点識別覚は4mmとなり,BPDSは16/57まで改善を認めた.手指の協調運動障害も改善しパソコン操作のCOPMは遂行度4,満足度4となった.
【考察】CRPSの機序として疼痛回避に伴う学習性不使用が要因の一つとされている.本症例では左肩外側の疼痛が軽減したにも拘らず左手の運動麻痺による不使用が生じており,CRPSに影響を及ぼす可能性が懸念された.帯状疱疹後の運動麻痺の回復は1〜2年を要すると報告されており(Mercht,1996),本症例においても運動麻痺が重度で末梢神経の回復に長期間を要した.そのため疼痛だけでなく麻痺による不使用も伴って左手の求心性感覚入力や運動企図の減少が続いた結果,一次体性感覚野や運動野の左手の体部位再現の狭小化と頭頂葉の機能不全を生じ,アロディニアや協調運動障害が生じたと考えられる.PHNに重度の運動麻痺を合併する症例はCRPSも合併するリスクがあり,運動麻痺を呈する時期から一次体性感覚野や運動野を賦活させる必要のあることが示唆された.
【症例】50歳代の女性.既往に脊髄損傷による右半身麻痺あり.X年Y月に帯状疱疹を罹患し,左肩外側と左手に皮疹が生じた.その後,皮疹は改善したが左上肢の筋力低下とPHNを認めた.X年Y+8月に当院受診となった. Hopeは「左手でパソコンができるようになりたい」であった.
【OT評価】左肩外側と左手に疼痛を認め,NRSは左肩外側10/10,左手5/10であった.MMTは左肩〜手指にかけて2レベル,他動ROMは肩屈曲,外転とも90°以上困難であった.中枢性感作の評価としてCSI-9は26/36であった.疼痛の情動的側面における評価としてPCSは43/52,TSKは58/68,HADSは33/42であった.
【治療】左肩外側の疼痛が強く,通常のROM訓練や筋力強化訓練が困難であった.そのため下降性疼痛抑制系の賦活を目的にTENSと疼痛教育を実施した.左肩外側に対して,5Hz,250μsecでの低周波TENSと130Hz,130μsecでの高周波TENSを組み合わせて運動療法と併用した.疼痛教育では慢性疼痛の機序をわかりやすく伝えた上で,運動が大切であることと,疼痛軽減を目指すのでなく,パソコン操作ができるようになるという目標を持つことが疼痛の軽減につながることを説明した.
【経過】OT開始から1年後,肩外側の疼痛はNRS5と改善し,ROM制限は改善され,筋力もMMT4レベルに向上した.しかし,左手にはアロディニアを認め,NRSは9/10と初期評価より増悪していた. また左手の協調運動障害を認め,パソコン操作のCOPMは遂行度1,満足度1であった.疼痛の認知的側面における評価としてThe Bath CRPS body perception disturbance scale(以下BPDS)は25/57と左手の身体知覚異常を認めた.また左手の表在感覚や複合感覚の低下も認め,左手の二点識別覚は9mmであった.そのため左手に対し運動イメージ訓練(動画による運動錯覚)及び, 知覚再教育訓練(触覚定位や物品識別)を開始した.
【最終評価】OT開始から1年5ヶ月後, MMTは左肩〜手指にかけて4レベルと麻痺は軽度残存した.疼痛はNRSが左肩外側3/10,左手4/10まで改善を認めた. CSI-9は20/36,PCSは24/52,TSKは32/68,HADSは14/42であった.左手の2点識別覚は4mmとなり,BPDSは16/57まで改善を認めた.手指の協調運動障害も改善しパソコン操作のCOPMは遂行度4,満足度4となった.
【考察】CRPSの機序として疼痛回避に伴う学習性不使用が要因の一つとされている.本症例では左肩外側の疼痛が軽減したにも拘らず左手の運動麻痺による不使用が生じており,CRPSに影響を及ぼす可能性が懸念された.帯状疱疹後の運動麻痺の回復は1〜2年を要すると報告されており(Mercht,1996),本症例においても運動麻痺が重度で末梢神経の回復に長期間を要した.そのため疼痛だけでなく麻痺による不使用も伴って左手の求心性感覚入力や運動企図の減少が続いた結果,一次体性感覚野や運動野の左手の体部位再現の狭小化と頭頂葉の機能不全を生じ,アロディニアや協調運動障害が生じたと考えられる.PHNに重度の運動麻痺を合併する症例はCRPSも合併するリスクがあり,運動麻痺を呈する時期から一次体性感覚野や運動野を賦活させる必要のあることが示唆された.