[PD-8-10] 橈骨遠位端骨折患者における術後早期の中枢神経感作関連症状と術後の上肢機能との関連について
【序論】中枢神経感作(Central Sensitization:以下CS)は,中枢神経系が過剰に興奮した神経生理学的な状態を示している.CSが関与する包括的な疾患概念として中枢性感作症候群(Central Sensitivity Syndrome:以下CSS)が提唱されており,CSSの重症度を定量化するスクリーニングツールとしてCentral Sensitization Inventory(以下CSI)が開発され,その短縮版であるCSI-9と共に臨床的有用性が多数報告されている.頚椎症や変形性膝関節症などの筋骨格系疾患の患者において,術後早期のCSI scoreが,術後の機能改善や痛みの多面的な側面と関連していることが知られている.しかし,橈骨遠位端骨折患者を対象とした術後早期のCSI scoreとその後の上肢機能の改善などとの関連は不明である.そこで,本研究の目的は,橈骨遠位端骨折患者における術後早期のCSI scoreと術後3ヶ月での上肢機能や痛みおよび痛みに付随した心理社会的な要因との関連性について明らかにすることである.
【方法】研究デザインは縦断的観察研究である.対象は2021年5月から2023年11月に,当院にて橈骨遠位端骨折と診断され,掌側ロッキングプレートを用いて観血的骨接合術を施行された患者50名とした.除外基準は,患側手に神経症状を認める,認知機能の低下を認めるなど評価の実施が困難な者とした.評価項目は,CSI-9,HAND-20,Purdue Pegboard Test(以下PPT),患側の手関節掌屈および背屈の可動域,患側の握力とピンチ力,痛みの程度として安静時と動作時のVisual Analog Scale(以下VAS),Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)とした.評価は術後10日目と3ヶ月時点に実施し,握力とピンチ力の評価は3ヶ月時点のみとした.統計解析では,まず各データにおいてShapiro-Wilk検定を実施し,正規性の確認を行い,その後,術後10日目時点のCSI-9の結果に対して,術後3ヶ月時点の各評価との相関および各評価の術後10日目と3ヶ月後の変化量との相関を求めた.正規性が認められたデータに関してはPearsonの積率相関係数を,正規性が確認できなかったデータに関しては,Spearmanの順位相関係数を求めた.有意水準は5%未満とし,研究にあたっては当院倫理委員会の承認を得て開始した.
【結果】取り込み基準を満たした対象者は35名(平均年齢67±9.36歳)であり,術後10日目のCSI-9は平均11±5.37点であった.10日目のCSI-9と術後3ヶ月時点での相関分析の結果,HAND20(r=0.36,p=0.030),手関節の掌屈可動域(r=-0.37,p=0.027),安静時のVAS(r=0.40,p=0.016),PCS(ρ=0.56,p<0.001)において有意な相関関係を認めた.また,CSI-9と各評価の術後10日目と3ヶ月後の変化量は,全ての評価において有意な相観関係は認められなかった.
【考察】橈骨遠位端骨折患者において,術後早期のCSI scoreは,術後3ヶ月時の上肢機能および痛みや痛みに破局的な思考と関連していることを認めた.一方で,各評価の変化量とは関連を認めなかった.従って,術後早期のCSI scoreが高い患者は,その後の経過においても一部の上肢機能が低く,痛みや破局的思考が強い可能性はあるが,それらの改善に影響を及ぼす因子については,今後更なる調査が必要である.
【方法】研究デザインは縦断的観察研究である.対象は2021年5月から2023年11月に,当院にて橈骨遠位端骨折と診断され,掌側ロッキングプレートを用いて観血的骨接合術を施行された患者50名とした.除外基準は,患側手に神経症状を認める,認知機能の低下を認めるなど評価の実施が困難な者とした.評価項目は,CSI-9,HAND-20,Purdue Pegboard Test(以下PPT),患側の手関節掌屈および背屈の可動域,患側の握力とピンチ力,痛みの程度として安静時と動作時のVisual Analog Scale(以下VAS),Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)とした.評価は術後10日目と3ヶ月時点に実施し,握力とピンチ力の評価は3ヶ月時点のみとした.統計解析では,まず各データにおいてShapiro-Wilk検定を実施し,正規性の確認を行い,その後,術後10日目時点のCSI-9の結果に対して,術後3ヶ月時点の各評価との相関および各評価の術後10日目と3ヶ月後の変化量との相関を求めた.正規性が認められたデータに関してはPearsonの積率相関係数を,正規性が確認できなかったデータに関しては,Spearmanの順位相関係数を求めた.有意水準は5%未満とし,研究にあたっては当院倫理委員会の承認を得て開始した.
【結果】取り込み基準を満たした対象者は35名(平均年齢67±9.36歳)であり,術後10日目のCSI-9は平均11±5.37点であった.10日目のCSI-9と術後3ヶ月時点での相関分析の結果,HAND20(r=0.36,p=0.030),手関節の掌屈可動域(r=-0.37,p=0.027),安静時のVAS(r=0.40,p=0.016),PCS(ρ=0.56,p<0.001)において有意な相関関係を認めた.また,CSI-9と各評価の術後10日目と3ヶ月後の変化量は,全ての評価において有意な相観関係は認められなかった.
【考察】橈骨遠位端骨折患者において,術後早期のCSI scoreは,術後3ヶ月時の上肢機能および痛みや痛みに破局的な思考と関連していることを認めた.一方で,各評価の変化量とは関連を認めなかった.従って,術後早期のCSI scoreが高い患者は,その後の経過においても一部の上肢機能が低く,痛みや破局的思考が強い可能性はあるが,それらの改善に影響を及ぼす因子については,今後更なる調査が必要である.