第58回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-8] ポスター:運動器疾患 8

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PD-8-2] 目標設定と他職種連携により家庭復帰に至ったリウマチ性多発筋痛症の一症例

横田 真一 (医療法人社団石鎚会 京都田辺中央病院)

【はじめに】リウマチ性多発筋痛症により,入院前からADLとIADLに介助が必要であった症例を担当した.今回,左側の続発性変形性股関節症術後の家庭復帰に向け,適切な目標設定と他職種連携により,早期退院につながったので報告する.発表に際し症例に文書にて説明し,同意を得た.
【症例紹介】60歳代女性,術前ADLは更衣,整容に時間を要し,一部に介助を要していた.IADLは洗濯や料理に時間を要し,不便さを感じていた.移動は屋内独歩,買い物は車椅子を使用していた.家族構成は症例,夫,両親の四人暮らし,家事は症例が行っていた.
【作業療法評価】初回評価時に「入院前から右肩の動く範囲が狭く,身の回りのことや家事に支障があった.夫は仕事があり,両親と同居のため,退院後どのように過ごせば良いかわからない.」と混乱した発言があった.主治医の方針は3週間での自宅退院であり,明確な目標を定め密な他職種連携が必要と考えた.意味のある作業を確認するため,Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下ADOC)を使用した.ADOC:更衣,整容,手をつかう,物を運ぶ,移動全般は全て(満足度1/実行度1).観察評価は疼痛による右肩関節と左股関節の関節可動域制限により,整容や更衣,歩行に介助や見守りが必要であった.家事は,洗濯は右手で洗濯ばさみの操作が困難で上方リーチが行いにくい,料理は包丁・箸操作とも力が入りにくく,狭いリーチ範囲しか行えなかった.ROMは右肩関節屈曲40°・外転30°,左股関節屈曲100°・伸展5°,MMTは右肩関節屈曲2・外転2,左股関節屈曲3・外転2であった.疼痛は右肩関節に運動時痛,左大腿部安静時・運動時・荷重時痛があった.評価内容をPTと共有し,OTは病棟内セルフケア自立,家事動作修正自立,PTは歩行や階段昇降自立に向け治療をすすめた.
【経過】日々の治療目標や機能障害の改善度合いなど,進捗具合を毎回PTと確認した.また順調な改善から安心感を得てもらうために,症例にも進捗状況の説明を適宜行った.加えて,自宅退院に向け病棟内歩行練習と,左下肢と右上肢に対する自主練習を指導した.
【結果】ADOC:更衣,整容,手をつかう,物を運ぶ,移動全般は全て(5/5).整容は右肩関節の関節可動域拡大と疼痛軽減に伴い,髪を結ぶことが可能となった.更衣は左手のみでの脱衣が可能,着衣は動作を工夫し可能となった.荷物を持っての独歩も可能となった.家事についても右肩関節の関節可動域拡大と疼痛軽減により,洗濯は右手で洗濯ばさみの操作や物干しに干すことが可能となった.料理は包丁・箸操作とも可能となり,リーチ範囲も拡大した.ROMは右肩関節屈曲60°・外転40°,左股関節屈曲110°・伸展5°,MMTは右肩関節屈曲3・外転3,左股関節屈曲4・外転3に改善した.疼痛は左大腿部荷重時痛のみ残存した.症例より「最初は混乱していたが,目標を決めることで退院に必要なことが明確になり,気持ちが楽になった.自主練習も取り掛かりやすく,入院前から困っていることも解決できてよかった.」との発言があった.治療開始から13日で自宅退院となった.
【考察】周術期における不安の改善には,具体的な計画立案や目標設定を症例や他職種で共有することで,回復意欲を喚起できると言われている.ADOCを使用したことで,目標となるADLやIADLが可視化され,職種ごとの課題指向的な治療介入が可能となった.その結果,家庭復帰に必要な動作獲得に至り,早期退院につながったと考えた.