第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

運動器疾患

[PD-8] ポスター:運動器疾患 8

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PD-8-5] 橈骨遠位端骨折術後の主観的炎症症状における客観的評価および機能との関連

高岩 亜紀子1, 渡邊 愛記2, 中村 みのり1, 鈴木 満恵1, 山田 紀彦3 (1.公立学校共済組合 関東中央病院 リハビリテーション室, 2.神奈川県立保健福祉大学 作業療法学専攻, 3.公立学校共済組合 関東中央病院 整形外科)

【緒言】橈骨遠位端骨折術後患者において,主観的な炎症症状は経過とともに減少傾向を示すが,術後12週においても存在する症例が存在する.主観的な炎症症状の遷延はQuick DASHの値と有意な関連があり,手の使用範囲や負荷量に影響を与えている(髙岩ら,2024).しかし,橈骨遠位端骨折術後患者において主観的な炎症症状が遷延する要因,および主観的・客観的な炎症症状との関連については明らかになっていない.本研究の目的は,主観的な炎症症状が遷延した橈骨遠位端骨折術後患者における客観的な炎症症状と機能面との関連を後方視的に調査することである. 本研究は当院倫理審査委員会にて承認(承認番号R4-1)を得て実施した.【方法】対象は2022年5月から2024年10月までに当院整形外科を受診し,観血的整復内固定術を施行した橈骨遠位端骨折患者のうち,本研究に同意が得られ,術後12週まで全ての評価が行えた成人患者とした.内訳は男性5名,女性13名,平均年齢は65.2歳,受傷側は利き手側10名,非利き手側8名,尺骨茎状突起骨折を合併した者は9名だった.評価は,術直後,術後1,2,3,4,6,8,12週のタイミングで行った.評価項目は主観的な炎症症状の評価として熱感,腫脹,発赤,安静時痛,夜間痛の5項目についてのVASを,客観的な炎症症状の評価として①手関節背側部の皮膚表面温度を皮膚赤外線体温計(タニタ非接触体温計BT-54X,301AFBZX00069000)を用いて測定し健側との差,②手関節部とMP関節部の周径を測定し健側との差,③手関節掌屈・背屈の可動域を測定し合計,④左右握力を測定し健側比を算出した.加えて,患者立脚型評価として術後12週時点でのQuick DASH,体内での炎症指標としてカルテより術前・術後のCRP値を調査した.統計学的分析は目的変数を皮膚表面温度差・周径差・可動域・握力健側比・Quick DASH値,説明変数を術後12週時点での主観的な炎症症状の有無として,単回帰分析を行った(p<0.05).加えて術後12週において主観的な炎症症状が消失した群を消失群,残存した群を残存群として,CRP値をMann-Whitney-U検定を用いて,尺骨茎状突起骨折の有無をフィッシャーの正確検定を用いて比較検討した(p<0.05).【結果】経過とともに5項目のVAS値および皮膚表面温度・周径差は低下,可動域・握力健側比は増加していた.術後12週時点で主観的な炎症症状が残存した者は7名であった.術後3週時点での皮膚表面温度差(p=0.047),Quick DASH(p=0.028)において主観的な炎症症状の有無と有意な関連を認めた.皮膚表面温度差,周径差,可動域,握力健側比における各時点の評価33項目においては,有意な関連は認めなかった.消失群・残存群間で術前・術後CRP値,尺骨茎状突起骨折の有無でも有意差は認めなかった.【考察】主観的な炎症症状が遷延している患者は,客観的な炎症評価や機能評価では良好な改善を認め,血液データ上で炎症所見を認めなくても,Quick DASHは高値を示し,生活場面での手の使用状況に影響を与えていることが示された.また術後3週時点での皮膚表面温度差では有意な関連を認めたことから,生理学的な炎症症状が残存群において遷延していた可能性も考えられた.以上から,橈骨遠位端骨折術後患者の炎症症状評価には客観的評価のみではなく,主観的評価も用いることが有用と考えられた.