[PD-9-3] 橈骨遠位端骨折術後患者に対しADOC-DRFを用いた作業療法の経験
機能評価表の試作
【緒言】橈骨遠位端骨折(以下,DRF)患者に対し,手の使用行動に焦点を当てた意思決定支援ソフト(以下,ADOC-H)を用いた作業療法を行うことで,日常生活で手の使用を促し,不安感が軽減されると報告されている(Kukizaki,2023).近年では,ADOC-HのイラストをDRF術後の運動負荷量に準じて並び替えたADOC-DRFが開発され,DRF術後患者への臨床有用性が期待されている(大草,2024).今回,DRF術後の事例に対しADOC-DRFを用いた作業療法を行い,段階的に日常生活での患手の使用を再開し,目標である復職を果たした1例を経験したため報告する.なお,事例には発表に際し紙面にて同意を得ている.
【事例紹介】60歳代女性.右利き.現病歴は,X日に犬の散歩中に転倒し受傷.右DRF(AO分類B3)を認め,X+5日に掌側ロッキングプレートにて固定.受傷前は家事全般を担当し職業は習字の先生であった.
【初期評価】術翌日の初期評価では,関節可動域(以下,ROM)は手関節掌屈30度,背屈20度,前腕回内45度,回外30度,運動時痛NRS6/10,DASH Disability/Sympotom67.2,Work62.5であった.事例から「右手を使うのが不安」や「習字ができない」など患手の使用や復職に対する不安を訴えていた.
【経過】第1期(術翌日〜術後2週):術翌日に手指のROM訓練から開始し,訓練以外は,手関節安静装具(以下,装具)を装着とした.この時点では,「習字を再開したい」という長期目標が先行しており,短期目標は漠然としていた.第2期(術後2週〜6週):患手の使用を再開することを目的にADOC-DRFを導入し,日常生活での患手の使用状況を確認し,優先度の高い項目を選択した.その中で「箸・スプーン」が選択され,「患手で箸を使用し食事が可能となる」という短期目標を設定し,機能訓練に加えて箸操作訓練を行った.装具は,日中は2週・夜間6週にて除去とした.第3期(術後6〜8週):箸操作は徐々に改善したが,手関節掌屈35度・前腕回外40度によるROM制限にて不十分であった.術後6週にADOC-DRFにて新たに「テーブル拭き」が選択され,「患手で軽い拭き掃除が可能となる」という短期目標を追加し,機能訓練と実動作訓練を併用した.この時点では習字動作は手関節や前腕のROM制限により不十分であった.また,術後7週で握力強化訓練や他動ROM訓練を開始した.第4期(術後8週以降):術後8週で,ADOC-DRFに記載されている術後1〜6週までの作業は全て再開し,目標であった復職を果たした.しかし,手関節の背屈制限にて小筆での習字動作は困難であり,手関節背屈訓練を励行した.術後9週で,ADOC-DRFの術後6週以降の項目の「雑巾絞り」「手をついた立ち上がり」が選択され,荷重訓練,習字動作を含めた各実動作訓練を行った.
【結果】術後12週での最終評価では,ROMは手関節掌屈50度,背屈60度,前腕回内80度,回外80度,運動時痛NRS1/10,握力は健側比で83%,DASH Disability/Sympotom6.3,Work0であった.長期目標であった習字動作を再獲得し,復職を果たしたため,作業療法終了とした.
【考察】Ohnoら(2020)は,ADOC-Hは段階的なアプローチを通して,患手の最適な使用を促す一助となることを報告している.ADOC-DRFを用いた作業療法では,術後時期に応じたイラストが挙げられており,症例に応じた日常生活での段階的な患手の使用を提案し促すことができると考える.またEdwinら(2002)は,挑戦的な目標がより高いレベルの動機づけとパフォーマンスを生み出すことを述べている.今回の事例は,術後時期に応じた段階的な目標設定をすることで,長期目標であった習字動作の獲得に対するモチベーションを高め,最終的に復職を果たし,高い満足度を獲得したと考える.
【事例紹介】60歳代女性.右利き.現病歴は,X日に犬の散歩中に転倒し受傷.右DRF(AO分類B3)を認め,X+5日に掌側ロッキングプレートにて固定.受傷前は家事全般を担当し職業は習字の先生であった.
【初期評価】術翌日の初期評価では,関節可動域(以下,ROM)は手関節掌屈30度,背屈20度,前腕回内45度,回外30度,運動時痛NRS6/10,DASH Disability/Sympotom67.2,Work62.5であった.事例から「右手を使うのが不安」や「習字ができない」など患手の使用や復職に対する不安を訴えていた.
【経過】第1期(術翌日〜術後2週):術翌日に手指のROM訓練から開始し,訓練以外は,手関節安静装具(以下,装具)を装着とした.この時点では,「習字を再開したい」という長期目標が先行しており,短期目標は漠然としていた.第2期(術後2週〜6週):患手の使用を再開することを目的にADOC-DRFを導入し,日常生活での患手の使用状況を確認し,優先度の高い項目を選択した.その中で「箸・スプーン」が選択され,「患手で箸を使用し食事が可能となる」という短期目標を設定し,機能訓練に加えて箸操作訓練を行った.装具は,日中は2週・夜間6週にて除去とした.第3期(術後6〜8週):箸操作は徐々に改善したが,手関節掌屈35度・前腕回外40度によるROM制限にて不十分であった.術後6週にADOC-DRFにて新たに「テーブル拭き」が選択され,「患手で軽い拭き掃除が可能となる」という短期目標を追加し,機能訓練と実動作訓練を併用した.この時点では習字動作は手関節や前腕のROM制限により不十分であった.また,術後7週で握力強化訓練や他動ROM訓練を開始した.第4期(術後8週以降):術後8週で,ADOC-DRFに記載されている術後1〜6週までの作業は全て再開し,目標であった復職を果たした.しかし,手関節の背屈制限にて小筆での習字動作は困難であり,手関節背屈訓練を励行した.術後9週で,ADOC-DRFの術後6週以降の項目の「雑巾絞り」「手をついた立ち上がり」が選択され,荷重訓練,習字動作を含めた各実動作訓練を行った.
【結果】術後12週での最終評価では,ROMは手関節掌屈50度,背屈60度,前腕回内80度,回外80度,運動時痛NRS1/10,握力は健側比で83%,DASH Disability/Sympotom6.3,Work0であった.長期目標であった習字動作を再獲得し,復職を果たしたため,作業療法終了とした.
【考察】Ohnoら(2020)は,ADOC-Hは段階的なアプローチを通して,患手の最適な使用を促す一助となることを報告している.ADOC-DRFを用いた作業療法では,術後時期に応じたイラストが挙げられており,症例に応じた日常生活での段階的な患手の使用を提案し促すことができると考える.またEdwinら(2002)は,挑戦的な目標がより高いレベルの動機づけとパフォーマンスを生み出すことを述べている.今回の事例は,術後時期に応じた段階的な目標設定をすることで,長期目標であった習字動作の獲得に対するモチベーションを高め,最終的に復職を果たし,高い満足度を獲得したと考える.