[PD-9-8] C5麻痺が遷延し筋力回復に難渋した頸椎手術後の一症例
【はじめに】頸椎手術後の合併症としてC5領域の麻痺が生じることが報告されている.発症率は約5.3-6.3%前後と言われており,概ね半年以内に自然回復すると言われている.その一方で,筋力がMMT2以下に低下した症例では,麻痺が長期にわたり残存するとの報告がある.しかし,C5麻痺が遷延した症例の作業療法報告は少なく,C5麻痺に対する有効なリハビリテーションは確立されていない.今回,術後C5麻痺を発症し,回復に2年以上経過した症例を担当した.長期的な麻痺の回復過程や,訓練経過について報告する.尚,本報告に際して本人に同意を得た.
【症例紹介】60代男性.半年前から左手指のしびれと筋力低下を主訴に来院,頸椎椎間板ヘルニアによる頸椎症性神経根症と診断され,手術目的に当院入院となった.術前OT評価は,左肩から手指のしびれを認め,握力(以下検査表記は右/左)43.8kg/33.5kg,上肢MMT5/4と左に若干の筋力低下を認めたが,STEF97点/96点で左右とも明らかな可動域制限や表在・深部感覚障害はなくADL・IADLは独歩にて自立していた.手術はC5-7頸椎前方除圧固定術,椎体間骨移植術を施行した.術後2日目のOT開始時はしびれや麻痺は無かったが,術後9日目に左肩から手指までのしびれと左C5麻痺が出現し,術後16日目にはMMT三角筋2,棘上筋2,上腕二頭筋1まで麻痺が進行した.
【訓練経過】術後3週間は入院でOTを実施し,退院後は外来で週1-2回の頻度で継続した.二次的な拘縮予防に加え,初期から三角筋や上腕二頭筋だけでなく,肩の安定性機構である回旋筋腱板の筋力改善を目的に訓練を実施した.訓練は痛みや代償動作を考慮し,臥位から開始した.臥位での徒手的な筋力訓練や両手介助下で反復運動,片手運動,重錘やセラバンドを持っての負荷運動,座位や立位での筋力訓練と段階づけて進めた.肘自動屈曲運動は術後1ヶ月で上腕筋による屈曲運動を認め,術後4ヶ月から上腕二頭筋の収縮が拡大し,術後7ヶ月で上腕二頭筋MMT3,術後14ヶ月でMMT4へ改善した.肩自動屈曲運動は,臥位では術後3ヶ月に他動的に屈曲90°させた位置を片手で保持できるようになり,術後9ヶ月に自動屈曲90°可能となり,負荷訓練へと段階づけられた.しかし座位では術後12ヶ月でも回旋筋腱板や三角筋の筋力低下により,自動屈曲初期から僧帽筋や大胸筋が有意に働くことで肩甲帯挙上や肩甲骨内転の代償動作が出現し,肩甲骨の上方回旋を妨げており,肩自動屈曲70°以上は困難であった.そこで4つの回旋筋腱板それぞれに対する座位での筋力訓練の強化と,プーリーを使用した肩屈曲肢位介助下での自動運動を取り入れ,肩甲骨上方回旋を伴う正しい運動を再学習させた.術後17ヶ月で三角筋・棘上筋MMT3,術後23ヶ月でMMT4,術後26ヶ月で肩自動屈曲120°外転100°まで改善した.
【考察】肘は上腕筋,上腕二頭筋の順に順調に回復を示したが,肩の回復は非常に難渋した.初期から回旋筋腱板に着目し訓練を進めたが,抗重力位となる座位では,肩甲骨上方回旋運動が阻害され,肩甲帯挙上の代償動作が定着したことが要因と思われた.先行研究では早期から上肢自重を軽減させた状態での自動運動が肩甲上腕リズムの獲得に有効であったとの報告があり,より早期からプーリーを用いた肩甲骨上方回旋に着目した筋力訓練が必要であった可能性がある.一方で,予後不良とされる重症例においても回復が望めることが分かり,長期的な視野を持った拘縮予防や代償動作に注意した筋力訓練の継続が重要である.
【症例紹介】60代男性.半年前から左手指のしびれと筋力低下を主訴に来院,頸椎椎間板ヘルニアによる頸椎症性神経根症と診断され,手術目的に当院入院となった.術前OT評価は,左肩から手指のしびれを認め,握力(以下検査表記は右/左)43.8kg/33.5kg,上肢MMT5/4と左に若干の筋力低下を認めたが,STEF97点/96点で左右とも明らかな可動域制限や表在・深部感覚障害はなくADL・IADLは独歩にて自立していた.手術はC5-7頸椎前方除圧固定術,椎体間骨移植術を施行した.術後2日目のOT開始時はしびれや麻痺は無かったが,術後9日目に左肩から手指までのしびれと左C5麻痺が出現し,術後16日目にはMMT三角筋2,棘上筋2,上腕二頭筋1まで麻痺が進行した.
【訓練経過】術後3週間は入院でOTを実施し,退院後は外来で週1-2回の頻度で継続した.二次的な拘縮予防に加え,初期から三角筋や上腕二頭筋だけでなく,肩の安定性機構である回旋筋腱板の筋力改善を目的に訓練を実施した.訓練は痛みや代償動作を考慮し,臥位から開始した.臥位での徒手的な筋力訓練や両手介助下で反復運動,片手運動,重錘やセラバンドを持っての負荷運動,座位や立位での筋力訓練と段階づけて進めた.肘自動屈曲運動は術後1ヶ月で上腕筋による屈曲運動を認め,術後4ヶ月から上腕二頭筋の収縮が拡大し,術後7ヶ月で上腕二頭筋MMT3,術後14ヶ月でMMT4へ改善した.肩自動屈曲運動は,臥位では術後3ヶ月に他動的に屈曲90°させた位置を片手で保持できるようになり,術後9ヶ月に自動屈曲90°可能となり,負荷訓練へと段階づけられた.しかし座位では術後12ヶ月でも回旋筋腱板や三角筋の筋力低下により,自動屈曲初期から僧帽筋や大胸筋が有意に働くことで肩甲帯挙上や肩甲骨内転の代償動作が出現し,肩甲骨の上方回旋を妨げており,肩自動屈曲70°以上は困難であった.そこで4つの回旋筋腱板それぞれに対する座位での筋力訓練の強化と,プーリーを使用した肩屈曲肢位介助下での自動運動を取り入れ,肩甲骨上方回旋を伴う正しい運動を再学習させた.術後17ヶ月で三角筋・棘上筋MMT3,術後23ヶ月でMMT4,術後26ヶ月で肩自動屈曲120°外転100°まで改善した.
【考察】肘は上腕筋,上腕二頭筋の順に順調に回復を示したが,肩の回復は非常に難渋した.初期から回旋筋腱板に着目し訓練を進めたが,抗重力位となる座位では,肩甲骨上方回旋運動が阻害され,肩甲帯挙上の代償動作が定着したことが要因と思われた.先行研究では早期から上肢自重を軽減させた状態での自動運動が肩甲上腕リズムの獲得に有効であったとの報告があり,より早期からプーリーを用いた肩甲骨上方回旋に着目した筋力訓練が必要であった可能性がある.一方で,予後不良とされる重症例においても回復が望めることが分かり,長期的な視野を持った拘縮予防や代償動作に注意した筋力訓練の継続が重要である.