第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-9-9] 両手のしびれ感と感覚障害を呈した頚椎症性脊髄症患者に対するしびれ同調経皮的電気神経刺激の効果:シングルケース実験デザイン

南川 勇二1,4, 西 祐樹2,3, 生野 公貴1, 森岡 周3,4 (1.西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部, 2.長崎大学 生命医科学域(保健学域), 3.畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター, 4.畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室)

【はじめに】頚椎症性脊髄症の主たる症状として,しびれ感や感覚障害が挙げられる.これらの神経症状が手指に生じると,把持制御の障害や上肢活動量が低下し,ADLやQOLの低下を招く.近年,経皮的電気神経刺激(TENS)をしびれ感に同調させることで,しびれ感や感覚障害の即時的な改善が報告されているが(Nishi et al.2022),運動機能への影響は不明である.今回,両手指に強いしびれ感を呈する頚椎症性脊髄症術後1症例に対して,しびれ同調TENSの効果をシングルケース実験デザインに基づいて運動機能への効果も含めて検証した.
【症例紹介および方法】症例は頚椎症性脊髄症の診断によりC2椎弓形成術,C4椎弓切除術が施行され,術後20日後に当院回復期病棟へ入院となった80歳代の女性である.認知機能はMini-Mental State Examinationで27点であった.入院時の手指のしびれ感はNumerical Rating Scale(NRS)にて,右7,左8と両手部に強いしびれ感を認め,Semmes Weinstein Monofilament Test(SWT)では右が5.88,左は6.65と,重度の感覚障害を認めた.症例から「力加減が分からない」と訴えがあり,食事中に紙パックの牛乳が過剰把握により噴出する場面を認めた.そこで,両手指を対象にしびれ同調TENSを実施した.シングルケースデザインはfollow-upを含むABデザインで,各期7日間と設定した.A期(ベースライン期)およびfollow-up期は作業療法のみ,B期(介入期)ではしびれ同調TENSおよび作業療法を毎日60分/回実施した.上肢機能評価には簡易上肢機能検査(STEF),把持制御には把持力計(テック技販社製:268g)を30秒保持する課題を実施し,把持力を評価した.加えて,実生活の上肢活動は加速度計(AX6:Axivity社製)を両手首に24時間装着し,上肢活動量の左右非対称性を定量的に評価した.それぞれの評価は各期1回ずつ評価された.しびれ感に対する効果はNRSにて毎日評価し,TAU-Uを用いて効果を検証した.本報告はヘルシンキ宣言を遵守し,症例に口頭および書面にて説明し,書面にて同意を得ている.
【経過と結果】しびれ感は左右ともにA期と比べてB期で有意な改善を認め(p=0.01,Tau-U=-1.00),B期の初回介入時のNRSは,右側が7→1,左側が8→4としびれ感の即自的な改善を認めた.右手は介入直後から「すっきりした」と内省が聴取された.B期2日目以降のNRSは,実施前より右側4,左側5と翌日への持続効果を認め,A期と比べてfollow-up期では右側(p=0.01,Tau-U=-1.00),左側(p=0.01,Tau-U=-1.00)と介入後で有意にしびれ感が改善した. SWTは,B期にて右側が4.31,左側は5.46へ改善した.STEFはA期→B期→follow-up期で右55→76→74点,左が48→74→71点と改善し,手指の巧緻運動が要求される課題で改善を認めた.また,30秒保持課題では,A期で認めた過剰な把握力はB期,follow-up期で両側とも改善し,日常生活で過剰把握による影響がみられる場面は減少した.一方,上肢活動量の左右非対称性は,各期で明らかな変化を認めなかった.
【考察】本症例はしびれ同調TENSにより両側のしびれ感の即時的な改善,および持ち越し効果を認めた.また,上肢機能に加え,把持制御も改善し,日常生活での過剰把握場面がなくなった.これは,しびれ感により増悪していた感覚障害が改善し,手指の感覚フィードバック調節が向上したため過剰な把持力が軽減したと推察される.しかし,日常生活で上肢活動は改善せず,実生活における麻痺側使用を促す介入を併用する必要性が考えられた.以上より,しびれ同調TENSにより知覚が改善されることで,感覚運動制御を変化させ,上肢機能改善に繋がる可能性があると考えられる.