[PE-1-1] 本人の思いを尊重したコミュニケーション支援の一例
怒りの感情を抑えられないALS患者への支援を通して
【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)は進行性の疾患のため,継続したコミュニケーション支援が必要となる.今回,ALSによる急速な身体機能の低下に加え易怒性を呈した症例を経験した.本症例は現状の機能維持を望み,先を見通した支援が難しくコミュニケーション支援に難渋した.しかし,残存機能を生かして環境調整を行ったことで本人にとって最も受け入れやすいコミュニケーションの方法を確立できたので以下に報告する.本症例報告に際し当院倫理委員会の承認と症例の同意を得ている.
【事例紹介】60歳代男性.建築会社経営.右利き.X−2年頃から右手足の痺れを感じるようになった.その後四肢筋力低下が進行しX年7月他院でALSと診断.X年9月に当院へ胃瘻造設目的で入院し作業療法を開始した.介入当初は発声と右手の筆談でコミュニケーションが可能であった.胃瘻造設後せん妄状態が続き易怒性を認めるようになった.その後,自宅退院したがX年12月呼吸苦を訴え再入院となった.
【経過・介入】
第一期:文字盤使用期 痰を自己喀出することが難しくなり排痰補助装置の導入を開始した.右上肢筋力低下のため筆談困難となり文字盤を作成した.使用当初,左手で直接指さしをしていたが疲労感が強くなり指さし棒を使用するようになった.
第二期:意思伝達装置練習期 X+1年3月,非侵襲的陽圧換気療法(以下,NPPV)を開始した.左上肢の筋力低下に伴い指さし棒を文字の上にとどめておくことが難しくなり,穴あきの文字盤(フィンガーボード)に変更した.また,NPPVの鼻マスクが視界を遮り文字盤の見づらさを訴え「天井に文字盤を映してくれ」と要望があった.そこで,意思伝達装置(レッツチャット・伝の心)の練習を開始した.しかし,スキャンの時間を待つことが難しく,怒りでスイッチを連打し文章の入力は困難であった.本人は「こんな機械を使ってまで生きながらえたくない」と怒りながら文字盤を使用していた.
第三期:レーザーポインター使用期 X+1年5月,呼吸苦,股関節の屈曲制限が進み,ギャッジアップ座位姿勢が難しくなり文字盤の使用が困難になった.しかし,その場ですぐに直接自分の言いたいことを伝えたい思いが強く,意思伝達装置の使用には消極的なままであった.そこで臥位で文字盤を見ることができ,指さし棒以外の方法で直接入力できるよう環境調整を行った.指さし棒の代わりにレーザーポインターを使用し,文字盤を白黒反転しレーザーポインターの光が見えやすくした.さらに文字盤はA3サイズに拡大し,本人の安楽な右側臥位で見やすい壁側に貼り付けることで,臥位で文字盤を見ることができ,指さし棒以外の方法で直接指すことが可能となった.なお,レーザーポインターの使用に際しては,当院の医療安全管理委員会での承認を得た.
【考察】本症例への支援を通して指さし棒で文字盤を指すことが難しくてもレーザーポインターを使用すれば光で文字盤を直接指すことができることを経験した.
ALSのコミュニケーション支援では,残存する身体機能を生かしてスイッチでの意思伝達装置や,文字盤のスキャン方式を採用することが多い.本症例は,スキャン方式を待つことが困難であったため,直接一文字ずつ選択する入力方式が適していたと考える.また,過度な苛立ちや怒りを伴う様々な要望に対して,従来のコミュニケーション支援にとらわれず本人が機器を使用しやすいように工夫を続けた.その結果,文字盤の提示方法や指さしの方法を新たに検討して提案することができたことが今回のよりよいコミュニケーション支援につながったと考える.
【事例紹介】60歳代男性.建築会社経営.右利き.X−2年頃から右手足の痺れを感じるようになった.その後四肢筋力低下が進行しX年7月他院でALSと診断.X年9月に当院へ胃瘻造設目的で入院し作業療法を開始した.介入当初は発声と右手の筆談でコミュニケーションが可能であった.胃瘻造設後せん妄状態が続き易怒性を認めるようになった.その後,自宅退院したがX年12月呼吸苦を訴え再入院となった.
【経過・介入】
第一期:文字盤使用期 痰を自己喀出することが難しくなり排痰補助装置の導入を開始した.右上肢筋力低下のため筆談困難となり文字盤を作成した.使用当初,左手で直接指さしをしていたが疲労感が強くなり指さし棒を使用するようになった.
第二期:意思伝達装置練習期 X+1年3月,非侵襲的陽圧換気療法(以下,NPPV)を開始した.左上肢の筋力低下に伴い指さし棒を文字の上にとどめておくことが難しくなり,穴あきの文字盤(フィンガーボード)に変更した.また,NPPVの鼻マスクが視界を遮り文字盤の見づらさを訴え「天井に文字盤を映してくれ」と要望があった.そこで,意思伝達装置(レッツチャット・伝の心)の練習を開始した.しかし,スキャンの時間を待つことが難しく,怒りでスイッチを連打し文章の入力は困難であった.本人は「こんな機械を使ってまで生きながらえたくない」と怒りながら文字盤を使用していた.
第三期:レーザーポインター使用期 X+1年5月,呼吸苦,股関節の屈曲制限が進み,ギャッジアップ座位姿勢が難しくなり文字盤の使用が困難になった.しかし,その場ですぐに直接自分の言いたいことを伝えたい思いが強く,意思伝達装置の使用には消極的なままであった.そこで臥位で文字盤を見ることができ,指さし棒以外の方法で直接入力できるよう環境調整を行った.指さし棒の代わりにレーザーポインターを使用し,文字盤を白黒反転しレーザーポインターの光が見えやすくした.さらに文字盤はA3サイズに拡大し,本人の安楽な右側臥位で見やすい壁側に貼り付けることで,臥位で文字盤を見ることができ,指さし棒以外の方法で直接指すことが可能となった.なお,レーザーポインターの使用に際しては,当院の医療安全管理委員会での承認を得た.
【考察】本症例への支援を通して指さし棒で文字盤を指すことが難しくてもレーザーポインターを使用すれば光で文字盤を直接指すことができることを経験した.
ALSのコミュニケーション支援では,残存する身体機能を生かしてスイッチでの意思伝達装置や,文字盤のスキャン方式を採用することが多い.本症例は,スキャン方式を待つことが困難であったため,直接一文字ずつ選択する入力方式が適していたと考える.また,過度な苛立ちや怒りを伴う様々な要望に対して,従来のコミュニケーション支援にとらわれず本人が機器を使用しやすいように工夫を続けた.その結果,文字盤の提示方法や指さしの方法を新たに検討して提案することができたことが今回のよりよいコミュニケーション支援につながったと考える.