第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-2] ポスター:神経難病 2 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PE-2-2] 強い疼痛を訴えるALS患者に対するコミュニケーション支援

訪問作業療法における一経験

高木 満帆1,2, 大村 衡史1, 朴木 紗希子1,2, 谷口 春佳2, 河合 直人1,2 (1.医療法人社団 愛康会 小松ソフィア病院, 2.訪問看護ステーションはなはな)

【はじめに】ALSは重度の運動障害を呈する神経変性疾患であり,コミュニケーション障害や疼痛,不安など症状は多岐に渡る.今回,これらの症状により家族関係の困難さを認め,自律性や尊厳が損なわれた症例に対し,症状に応じた拡大•代替コミュニケーションシステム(AAC)を用い,一定の効果を得た為報告する.本報告に際して症例,家族より同意を得た.
【症例紹介】50代女性,母(80代,主介護者),夫,娘と同居中.ALSと診断されてから5ヶ月が経過した時点より週1回訪問OTを開始.ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R)40/48点.握力右6kg,左10Kg.ADL概ね自立.7ヶ月後ALSFRS-R:27/48点.「身の置き所のない」倦怠感や疼痛を訴え泣き叫ぶため,母親が終日対応していた.家族との会話は減少し,娘は症例の部屋に入ることを避けていた.
【経過】発症から約1年後にコミュニケーションが困難となりAACを導入した1年間の経過を2phaseで示す.ニーズはカナダ作業遂行測定(COPM),疼痛はNumerical Rating Scale(NRS),コミュニケーション機器(CA機器)の満足度はQUEST2.0ver(QUEST)を用いた.
<PhaseⅠ:導入前期(6ヶ月)>
ALSFRS-R:18/48点.文字盤や合図などのローテクエイドを利用したコミュニケーション訓練や呼びベル用のスイッチコントロールを選定したが,母は疼痛の対応や介護に追われ習得に至らなかった.CA機器への慣れを目的にレッツチャットを導入し,積極的に症例の思いを聞き取りチームや家族と共有した.左手にベルクロとスペックスイッチを固定し操作は良好だったが,家族による調整が困難でありカックアップスプリントを導入し調整可能となった.COPM:①苦痛の緩和,②ケアに対する要望ができる,③会話ができる,④家族の役に立つ(遂行度/満足度:①2/2,②5/5,③3/3,④1/1).母は症例の思いを理解し各AACを併用してケアへの要望を聞き取ることが可能となったが,レッツチャットの操作は30文字入力に20分以上の時間を要したため会話としての利用は少なかった.NRS:安静時5-7,最大時9,CA機器使用時0-4,CA機器使用後7.QUEST:使いやすさ(症例/家族)4/4,調節しやすさ(家族)3.
<PhaseⅡ:導入後期(6ヶ月)>
ALSFRS-R:17/48点.レッツチャットの連続使用により疼痛や頚部の過緊張による頭痛・嘔吐が出現し,圧電素子式・空気圧式入力装置など他のスイッチを検討したが誤操作が多く使用に至らなかった.視線入力装置(OriHime)に変更したことで文字入力は1/3程度に時間短縮し,頭痛・嘔吐などの症状は見られなくなった.また,日中の使用が可能となり家族との会話が増えた.OriHimeは購入申請を経て支給となった.
【結果】COPMは①4/4,②8/8,③8/8,④8/8に大幅に改善し,NRSは安静時4,CA機器使用時0-2,CA機器使用後0-2に減少した.最大の疼痛を感じる前に対処することができ,「身の置き所のない」倦怠感や疼痛は聞かれなくなった.OriHimeは家族との会話を可能とし,QUESTは使いやすさ(症例/家族)4/5に改善した. 娘も部屋に入るようになり共に過ごす時間が増えた. 症例は「娘/母/妻としての役割を取り戻せている,病気のことがだんだんわかって落ち着いてきた」と話し,母は「娘の言いたいことがわかる,相談にも乗ってくれるのでありがたい」と話した.
【考察】ALSは症状進行とその受容,生活の変化など多くの課題に直面するなかで反応性の不安やうつを生じやすいと報告されている.症例は痛みや想いが伝わらない不安を強い訴えとして反応していたが,AACを用いた会話は自律性や尊厳を回復させ,結果として障害受容や疼痛緩和に繋がった.また状態に応じたAACの選定はコミュニケーションをケアに対する要望から会話へと変化させ, 家族関係に良好な変化を与え症例の作業的役割にも繋がった.