[PE-2-3] 日中の排泄が自立した手指拘縮のある長期入院ギラン・バレー症候群の一例
【はじめに】ギラン・バレー症候群(以下GBS)は一般的に予後良好な疾患だが上肢麻痺で手指拘縮症例は,自助具の活用が困難であり,ADL全般に介助が必要だったとの報告もある(江藤ら2013).今回四肢麻痺や手指拘縮のある長期入院GBS患者の日中の排泄が自立したため経過を報告する.報告は症例に説明し同意を得た.
【症例紹介】57歳の男性はGBSを発症し気管切開となった.重度四肢麻痺,手指拘縮があり,誤嚥性肺炎を繰り返し入院1年半が経過した.咳嗽を生じやすくADL練習は消極的だった.
【初期評価】両手指は示指−環指PIP関節屈曲80°,MP関節伸展10°の拘縮があった.母指は橈側内外転がわずかに可能だったが,片手での物品把持は困難だった.肩・肘・手関節のROM制限はなく,MMTは両上下肢4,体幹3だった.立位保持は上肢支持なしでは困難だった.ADLはFIM運動項目29点で,両側短下肢装具とサークル歩行器を使用して歩行FIM5,排泄管理FIM7だが,その他のADLは介助を要した.日中の排泄はトイレ移乗FIM4,トイレ動作FIM1だった.下衣操作時の立位保持や温水洗浄便座操作は可能だった.夜間は尿器を使用した.FIM認知項目は35点だった.発症1年半後の気管切開孔閉鎖を契機に興味関心チェックシートを実施し「一人でトイレに行く」を目標とし合意した.実行度・満足度はともに1点で標準意欲評価法の質問紙法による意欲評価スケール(点数が高い程意欲が低い,以下意欲スケール)は65/99点だった.
【経過】週5日40分で作業療法を実施した.排泄の課題を細分化し①下衣操作②陰部清潔③便座からの立ち上がりとした.①の立位保持は正面のサークル歩行器を手で支えた.手すりを使用するより安定した.ズボンは伸縮性のある素材で,片手ずつポケットに手を入れずり下げた.下着を下げる操作は,前腕回内,手関節掌屈させ,ウエスト正面から手関節まで手を入れて,前腕回外,手関節掌屈位で,手背に下着を引っかけて肘の屈伸で片手ずつ下げた.上げる操作は,ズボンも下着も手関節背屈位で,ポケットやゴムを手背に引っかけて片手ずつ引き上げた.下着はゆとりがあり引っ掛かりやすい物を妻に依頼した.②はトイレットペーパーで清拭できないが,排泄管理良好だったため温水洗浄便座の洗浄・乾燥機能で下着が汚れることなく清潔が保てた.③は壁側の縦手すりを左手関節掌屈で引き込み,右手は便座右側の横手すりを押しながら立ち上がる方法とした.介入1週で②を,3週で③を,5週で①を獲得し,生活場面での練習に移行した.介入から8週で日中の排泄が自立した.
【最終評価】身体・認知機能は変化がなかった.夜間は尿器を使用したが,日中の歩行,トイレ移乗・動作は自立し目標が達成できた.実行度は「まだ始めたばかりだから」と4点,満足度は8点,意欲スケールは53点だった.排泄自立後は自主トレに取り組む時間が増えた.
【考察】気管切開孔閉鎖時に排泄自立の希望を聞き取ることでADL練習に取り組むきっかけとなった.目標を症例と共有することで課題が明確になり,手指拘縮があっても手関節に引っかける方法を繰り返し練習したことで課題を解決することができ目標達成に至ったと考えた.長期入院で重度四肢麻痺だったため,受け身の生活に慣れ,障害のある身体で生活のイメージがつかない状況だったが,排泄自立に向けた経過の中で,自分でできることが増え自発的に動く生活に変化したと考えられた.満足度や意欲スケールの改善は意欲の向上と考えられ,排泄自立後は自主トレに取り組む姿が増えたと考えた.
【症例紹介】57歳の男性はGBSを発症し気管切開となった.重度四肢麻痺,手指拘縮があり,誤嚥性肺炎を繰り返し入院1年半が経過した.咳嗽を生じやすくADL練習は消極的だった.
【初期評価】両手指は示指−環指PIP関節屈曲80°,MP関節伸展10°の拘縮があった.母指は橈側内外転がわずかに可能だったが,片手での物品把持は困難だった.肩・肘・手関節のROM制限はなく,MMTは両上下肢4,体幹3だった.立位保持は上肢支持なしでは困難だった.ADLはFIM運動項目29点で,両側短下肢装具とサークル歩行器を使用して歩行FIM5,排泄管理FIM7だが,その他のADLは介助を要した.日中の排泄はトイレ移乗FIM4,トイレ動作FIM1だった.下衣操作時の立位保持や温水洗浄便座操作は可能だった.夜間は尿器を使用した.FIM認知項目は35点だった.発症1年半後の気管切開孔閉鎖を契機に興味関心チェックシートを実施し「一人でトイレに行く」を目標とし合意した.実行度・満足度はともに1点で標準意欲評価法の質問紙法による意欲評価スケール(点数が高い程意欲が低い,以下意欲スケール)は65/99点だった.
【経過】週5日40分で作業療法を実施した.排泄の課題を細分化し①下衣操作②陰部清潔③便座からの立ち上がりとした.①の立位保持は正面のサークル歩行器を手で支えた.手すりを使用するより安定した.ズボンは伸縮性のある素材で,片手ずつポケットに手を入れずり下げた.下着を下げる操作は,前腕回内,手関節掌屈させ,ウエスト正面から手関節まで手を入れて,前腕回外,手関節掌屈位で,手背に下着を引っかけて肘の屈伸で片手ずつ下げた.上げる操作は,ズボンも下着も手関節背屈位で,ポケットやゴムを手背に引っかけて片手ずつ引き上げた.下着はゆとりがあり引っ掛かりやすい物を妻に依頼した.②はトイレットペーパーで清拭できないが,排泄管理良好だったため温水洗浄便座の洗浄・乾燥機能で下着が汚れることなく清潔が保てた.③は壁側の縦手すりを左手関節掌屈で引き込み,右手は便座右側の横手すりを押しながら立ち上がる方法とした.介入1週で②を,3週で③を,5週で①を獲得し,生活場面での練習に移行した.介入から8週で日中の排泄が自立した.
【最終評価】身体・認知機能は変化がなかった.夜間は尿器を使用したが,日中の歩行,トイレ移乗・動作は自立し目標が達成できた.実行度は「まだ始めたばかりだから」と4点,満足度は8点,意欲スケールは53点だった.排泄自立後は自主トレに取り組む時間が増えた.
【考察】気管切開孔閉鎖時に排泄自立の希望を聞き取ることでADL練習に取り組むきっかけとなった.目標を症例と共有することで課題が明確になり,手指拘縮があっても手関節に引っかける方法を繰り返し練習したことで課題を解決することができ目標達成に至ったと考えた.長期入院で重度四肢麻痺だったため,受け身の生活に慣れ,障害のある身体で生活のイメージがつかない状況だったが,排泄自立に向けた経過の中で,自分でできることが増え自発的に動く生活に変化したと考えられた.満足度や意欲スケールの改善は意欲の向上と考えられ,排泄自立後は自主トレに取り組む姿が増えたと考えた.