第58回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-3] ポスター:神経難病 3 

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PE-3-2] パーキンソン病患者に対してアクセサリー型自助具を作成したことでペットボトルキャップの開栓動作が改善した一症例

戸田 光芽, 佐藤 飛友悟 (札樽すがた医院 リハビリテーション部)

はじめに
パーキンソン病(以下:PD)患者では,振戦,固縮,無動,姿勢反射障害の四大症状に加え,上肢・手指の協調性の低下を認め,物品の操作等に悪影響を及ぼすことを経験する.
今回,上肢・手指の協調性の低下により,物品操作の中でも「ペットボトルのキャップを開ける動作」に困難さを認めるPD患者を担当した.この症例に対して,アクセサリー型の自助具を作成した結果,実行度や満足度が向上したため以下に報告する.
症例紹介 
在宅で生活し外来リハビリテーション(以下:外来リハ)を1回/週利用している右利きの70代女性でYahr分類StageⅢであった.右優位にPD症状が強く固縮を中心に,指タップや手の開閉運動,前腕回内外などの協調性の低下を認めた.関節可動域に大きな制限はなく,握力(右/左)は13.1㎏/15.0㎏,ピンチ力(右)は示指4.3㎏,中指3.6㎏,STEF(右/左)は89点/92点であった.ADLはFIMで126点と自立していた.参加状況は,御主人と二人暮らしで家事全般を実施しており,夫の通院の付き添いや買い物などのために外出する機会が1回/週程度であった.
カナダ作業遂行機能評価(COPM)を用いて作業遂行上の問題を確認し作業の重要度を確認した結果,水の入ったペットボトルキャップを開けることの重要度が高く満足度は10点法で0点であった.ペットボトルの開栓は,主に歯磨き後の口のゆすぎや外出時の水分補給の際に行うことが多く,非常に不便との発言も聞かれた.なお,本発表に際し本人より同意を得ている.
経過/結果
 外来リハの開始後2ヶ月程度は,握力訓練や協調動作などの機能訓練を中心に実施した.その結果,機能的な改善は認められたものの,キャップを開けることが出来なかったペットボトルの本数は27本(27/49,55%)であった.動作方法を確認したところ,左手でペットボトルを把持し右手でキャップを3指つまみでひねる動作で行っており,開栓最初の瞬間的な筋発揮の困難さを認めキャップを把持する手指がズレてしまっていた.そこで参加状況等を考慮し外出時でも使用しやすいよう手首に装着できるゴム製のアクセサリー型の自助具を作成した.普段はブレスレットのように手首に装着して,使用する際だけ母指-示指間と環指-小指間にかけてペットボトルの開栓時に手指がずれないように使用した.1カ月程度試用してもらった後,再度ペットボトルのキャップの開けることが出来なかった本数を評価したところ27本(27/49,55%)→0本(0/11,0%)となり,満足度は0→8点と向上した.さらに聞き取りより,外出時の困難感はなくなり,旅行にも行くことが出来たと話された.
考察
本症例は,自助具を使用することでペットボトルキャップの開栓を失敗なく実施することが可能となった.ペットボトルのキャップの開栓には,10.5㎏程度の握力,2.5㎏のピンチ力が必要と報告されており(斎藤ら,2010),本症例は上記を満たしていた.しかし,キャップの開栓が困難であった要因として,手指でキャップを把持した状態で前腕を瞬間的に回外させキャップを回転させる必要があるが,本症例は疾患特有の協調性の低下を認め,適切なタイミングでの筋発揮が困難であったと考えられる.そのため,十分な筋出力が出せなかったと推察されるが,ゴム製の自助具を使用し筋出力の低下の補償,手指のズレの予防を図ることで改善に至ったと考える.
 PD患者に対するリハビリテーションでは歩行などのダイナミックな問題に注視しがちであるが,上肢による物品操作が生活動作の障害になりうるため,適切な介入を行うことが重要であると考える.