[PE-3-4] パーキンソン病患者のpacingの障害と行動特性
【はじめに】pacingの障害とは,動作が性急で,緩徐に行うよう指示してもそのようにできない状態を言う.一般的には右半球症状とされ,極めて不注意で危険な事態を誘発する点において注意障害と捉えられることもある.
パーキンソン病(以下PD)患者の日常生活動作を観察すると,小刻み歩行,すくみ足により移動や移乗動作に時間を要する一方で,立ち上がりや歩き出し時の動作が極めて性急で,pacingの障害と考えられるような症状を目にすることが多い.このような患者は,足の位置を確認し姿勢を整えて下肢を振り出すといったことができずに,転倒してしまうことがある.
PD患者の認知機能障害として,注意障害・遂行機能障害・軽度認知症の報告は多いが,pacingに関する報告はみられない.
今回,PD患者に対してpacingの検査と注意力検査を行った.検査の結果と,転倒が多い患者のpacingの障害と注意障害の傾向について報告する.
【方法】調査期間は2023年2月~2024年2月.対象は当院へ通院してきたPD患者14名.男性7名,女性7名.「転倒をしたことがない者」5名,「転倒歴がある者(転倒をしたことがあるが1週間に1回未満である者)」6名,「転倒を繰り返している者(1週間に1回以上転倒する者)」3名.
検査項目としてpacingの評価(図形のトレース検査),TMT-A,TMT-Bを実施した.
また,転倒が増加した3名(症例A,B,C)に再検査を実施した.その後,症例Cに立ち上がり時に姿勢確認を行った回数と,転倒した回数を1週間カウントしてもらった.実施に際し目的と方法を説明し同意を得た.
【結果】対象者14名のトレース検査(369mm以上をpacing陽性とする)とTMTの結果,pacing陽性5名のうち,TMT-A,Bともに正常3名,ともに異常1名,TMT-A正常B異常 0名,TMT-A異常B正常1名だった.pacing陰性9名のうち,TMT-A,Bともに正常3名,ともに異常2名.TMT-A正常B異常2名,TMT-A異常B正常2名だった.
転倒が増加した3名は,症例Aは「転倒歴がある」から「転倒を繰り返している」へ,症例B,Cは調査開始当初から「転倒を繰り返している」だったが,"週に数回"から"ほぼ毎日"へ増えていた.3名に対してTMTとトレース検査を再検査した結果,TMTの所要時間は3名とも延長していたが,症例Aは正常のままだった.トレース検査は,症例Aは131mmから201mmへ,症例Bは243mmから1644mmへ,症例Cは148mmから382mmへと皆増悪していた.後日立ち上がり時に姿勢確認を行った回数と転倒回数をカウントしてもらった症例Cについては,姿勢確認を行う前は2~4回/日だった転倒回数が,0~3回/日へと減った.
【考察】脳血管障害を対象とした先行研究では,TMTが正常な患者で,pacingが陽性の者はいなかったとの報告がある.今回PD患者に同様の検査を行った結果, TMTが正常な患者で,pacingが陽性の者が3名いたことは興味深い.これは,脳血管疾患患者のpacing障害とは異なり,注意障害との関連性が低いと考えることができる.
また,転倒が増えている者は,いずれもpacing障害が進行していた.「普段動作が遅いため,早く行わなければと焦る」との発言もあり,二次的な症状である可能性も考えられる.
いずれにしても,pacing障害が陽性であった患者の動作は性急で,十分に指示を聞かずに作業や運動を開始することが多い.特に転倒が多い症例は,歩行開始時や起立時に下肢の位置を確認せずに立ち上がり,歩行を開始し,そのまま転倒することがある.バランス障害を有するPD患者にとって,pacingを評価し調整することは転倒を防ぐために重要だと考えられる.今後はPD患者のpacing障害へアプローチをしていきたい.
パーキンソン病(以下PD)患者の日常生活動作を観察すると,小刻み歩行,すくみ足により移動や移乗動作に時間を要する一方で,立ち上がりや歩き出し時の動作が極めて性急で,pacingの障害と考えられるような症状を目にすることが多い.このような患者は,足の位置を確認し姿勢を整えて下肢を振り出すといったことができずに,転倒してしまうことがある.
PD患者の認知機能障害として,注意障害・遂行機能障害・軽度認知症の報告は多いが,pacingに関する報告はみられない.
今回,PD患者に対してpacingの検査と注意力検査を行った.検査の結果と,転倒が多い患者のpacingの障害と注意障害の傾向について報告する.
【方法】調査期間は2023年2月~2024年2月.対象は当院へ通院してきたPD患者14名.男性7名,女性7名.「転倒をしたことがない者」5名,「転倒歴がある者(転倒をしたことがあるが1週間に1回未満である者)」6名,「転倒を繰り返している者(1週間に1回以上転倒する者)」3名.
検査項目としてpacingの評価(図形のトレース検査),TMT-A,TMT-Bを実施した.
また,転倒が増加した3名(症例A,B,C)に再検査を実施した.その後,症例Cに立ち上がり時に姿勢確認を行った回数と,転倒した回数を1週間カウントしてもらった.実施に際し目的と方法を説明し同意を得た.
【結果】対象者14名のトレース検査(369mm以上をpacing陽性とする)とTMTの結果,pacing陽性5名のうち,TMT-A,Bともに正常3名,ともに異常1名,TMT-A正常B異常 0名,TMT-A異常B正常1名だった.pacing陰性9名のうち,TMT-A,Bともに正常3名,ともに異常2名.TMT-A正常B異常2名,TMT-A異常B正常2名だった.
転倒が増加した3名は,症例Aは「転倒歴がある」から「転倒を繰り返している」へ,症例B,Cは調査開始当初から「転倒を繰り返している」だったが,"週に数回"から"ほぼ毎日"へ増えていた.3名に対してTMTとトレース検査を再検査した結果,TMTの所要時間は3名とも延長していたが,症例Aは正常のままだった.トレース検査は,症例Aは131mmから201mmへ,症例Bは243mmから1644mmへ,症例Cは148mmから382mmへと皆増悪していた.後日立ち上がり時に姿勢確認を行った回数と転倒回数をカウントしてもらった症例Cについては,姿勢確認を行う前は2~4回/日だった転倒回数が,0~3回/日へと減った.
【考察】脳血管障害を対象とした先行研究では,TMTが正常な患者で,pacingが陽性の者はいなかったとの報告がある.今回PD患者に同様の検査を行った結果, TMTが正常な患者で,pacingが陽性の者が3名いたことは興味深い.これは,脳血管疾患患者のpacing障害とは異なり,注意障害との関連性が低いと考えることができる.
また,転倒が増えている者は,いずれもpacing障害が進行していた.「普段動作が遅いため,早く行わなければと焦る」との発言もあり,二次的な症状である可能性も考えられる.
いずれにしても,pacing障害が陽性であった患者の動作は性急で,十分に指示を聞かずに作業や運動を開始することが多い.特に転倒が多い症例は,歩行開始時や起立時に下肢の位置を確認せずに立ち上がり,歩行を開始し,そのまま転倒することがある.バランス障害を有するPD患者にとって,pacingを評価し調整することは転倒を防ぐために重要だと考えられる.今後はPD患者のpacing障害へアプローチをしていきたい.