第58回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-4] ポスター:神経難病 4 

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PE-4-1] パーキンソン病患者に対する認知行動療法の適応への考察

高次脳機能に着目して

吉田 純平, 松下 太一, 亀久保 江士, 小出 弘寿 (北斗わかば病院 リハビリテーション部)

【はじめに】認知行動療法(以下CBT)は様々な精神障害に対してエビデンスのある治療法であり,パーキンソン病(以下PD)に対するCBTの効果も徐々に報告がされてきている.しかし,高次脳機能が低下しやすいPD患者への適応を考えるうえで,高次脳機能の影響については検証されていない.今回CBTの1つである行動活性化療法をうつ症状と高次脳機能の低下を認めるPD患者に対して時期をずらして2度行った.2度の介入経過からPD患者に対するCBTの適応を考察していく.
【倫理的配慮】本人に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】70代.PD経過11年の女性.夫と死別後約3ヶ月後に睡眠薬を多量に飲み,自殺を図り救急病院に搬送.その後当院に療養目的で入院. Hoehn&Yahr:stage4
【A期作業療法評価】入院から約2年後.高次脳機能:MMSE26/30(遅延再生,計算,見当識),FAB11/18(知的柔軟性,行動プログラム,GO/NO-GO), TMT測定中止.行動観察面から衝動性の亢進,記憶や注意の低下が見られる.精神機能:GDS15/15,GSES1/16.
【経過と結果】1ヶ月間実施.目的としては,ベッド上で何もしていない時間が気分を落ち込ませることを理解し行動の変容を図るとした.週間活動記録表を用いて一日に行なっている作業と気分を具体化した.ベッド上にいる時間が長く,その時に色々と考えてしまい気分が落ち込んでいることが分かった.そこで,ベッドにいる時間を減らし好きな作業をする時間を増やした.作業は訓練内で行なうカラオケの曲探し,編み物,書字の練習,物語作り等であった.いくつかの作業を行う中でベッド上での時間を減らし,好きな作業に取り組む事で気持ちが楽になる事を自覚した.結果として高次脳機能は著変がないものの精神機能ではGDS10/15,GSES4/16と改善が見られ,自己効力感,自己肯定感共に改善した.日中の活動性も向上した.
【B期作業療法評価】A期終了後から約2年後,再び気分の落ち込みが強くなり再度実施した.高次脳機能:MMSE20/30(遅延再生,計算,見当識, 文章書字,図形模写),FAB7/18(自主性以外の全てで減点,GO/NO-GOは0点), TMT測定中止.行動観察面から衝動性の亢進,記憶や注意の低下が見られる.精神機能:GDS15/15, GSES1/16.
【経過と結果】2週間実施.目的としては,人に頼み事ができず無理をして片付けを行う事で,失敗し落ち込んでいるという事を理解し,代替行動に変えていくとした.衝動の抑制が効かなくなっており,やめるように決めていた作業を行ってしまう事が目立ち,衝動が抑制できない場面が増えた.その結果正の強化の促進や正の強化を妨げている要因を減らすという行動活性化療法の原則が成り立たなくなり途中で終了した.介入前後で高次脳機能,精神機能に検査上の変化は見られなかったが,追加評価として改訂日本語版BIS-11を実施.148/180点と衝動の抑制機能に低下が見られた.
【考察】今回期間を分けて2度CBTを実施した.A期は抑うつや希死念慮の軽減,自己効力感の向上が認められたが,B期では行動活性化療法自体が最期まで実施することが出来なかった.行動活性化療法は行動から思考を変える方法であり,A期のように高次脳機能が低下している状態に対しても効果を示すことはできたと考えられる.しかし,B期のように衝動の抑制機能の低下が顕在化すると介入が困難になる.そのため高次脳機能が低下しているPD患者に対して衝動性の評価や前頭葉機能のスクリーニングはCBTの適応を判断するための一つの指標になる可能性があると考える.