[PE-4-2] 抑うつを呈するパーキンソン病患者に対する認知行動療法の効果と課題
【はじめに】認知行動療法(以下CBT)はさまざまな精神疾患や身体的問題に対し,認知や行動への働きかけを通して,気分や身体の改善を図ることができる効果が実証されている.今回失敗体験の増加や過去との比較によって抑うつ傾向であるパーキンソン病(以下PD)患者に対しCBTの一つである行動活性化療法を行なった.その介入と結果から抑うつ傾向のPDに対するCBTの効果と課題について報告する.
【倫理的配慮】本人に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】 80代PD経過10年の女性.自宅で転倒後,在宅生活困難となり当院へ長期療養目的で入院.元々友人が多く,外泊時,自宅で友人と世間話することが日課であった.
【作業療法評価】
PD症状:非運動症状(抑うつ,幻視,妄想)運動症状(すくみ足あり移動は車椅子)
高次脳機能:MMSE25/30点(見当識,遅延再生,三段階命令),FAB11/18点(概念化,知的柔軟性,行動プログラム,GO/No-GO)
精神機能:GSES:1/16点,GDS13/15点,新しく作業を提示しても「私はできない」と悲観的な発言が多い.
活動性:自室にて車椅子上でぼんやりしていることが多く,他者との交流が見られない.(活動記録表による気分評価:0~30%)
【介入経過】期間:1ヶ月 作業内容:箱折り
活動記録表を用い作業前後と一日の気分の振り返りを行なった.自身の気分の状態を理解することを目標に作業を提供した.最初は消極的だったが一緒に行うことで「完成した時嬉しいね」と達成感による気分の向上が感じられた.介入2週目には「もっと上手に折りたい」との発言が聞かれ,作業意欲の向上も見られた.活動記録表の振り返りを繰り返すことで徐々に自身の気分への理解に繋がり,「何もしてないとダメだね」と不動により気分が落ち込むこと,「何かしてた方が良いね」と行動することで気分が良くなると理解した.
また介入当初は一人で作業をすることはなかったが,食堂の同席者が折り紙を折る様子を見て自ら作業に加わり,作業を行うことや話しかける様子が見られた.一方で身辺整理の範囲拡大,伝い歩きや独歩で移動する場面が増えた.そのため転倒転落への対策としてベッド周辺の環境調整を行なったが,転倒転落のリスクは残った.
【最終評価】変化点のみ記載
精神機能GSES4/16点,GDS13/15点.「やってみようかね」と前向きな発言が増えた.
活動性: 車椅子の自走や自室,食堂で作業に取り組み同席者に話しかける様子が見られ活動性が向上した(活動記録表による気分評価:50~100%).一方で転倒転落リスクは高まった.
【考察】PDに対するCBTの効果は徐々に確立され始めている.今回の事例においても,行動活性化療法を実施したことで自信がなく「私にはできない」と作業へ取り組むことを諦めていたが,「何かしてた方がいいね」と本人の認知の変容を図ることができた.その結果気分や自己効力感が高まることで,日中の活動性向上や他者との交流増加に繋がった.本事例は昔から友人が多く,人との繋がりや関りを大事にしており,入院生活おいて喪失していた他者との交流機会が増加したことは本事例にとって重要な転機になったと考える.一方で,衝動の制御が難しい状態でもあり,活動性が向上したことで転倒転落リスクが高まったことが課題として残った.今回の介入を通して,抑うつを呈するPD患者に対し,CBTの正と負の効果が得られることを経験した.治療に際し,正と負の効果を踏まえCBTの導入時期,導入方法を考慮して実施することで,より患者にとって望ましい効果が得られると考える.
【倫理的配慮】本人に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】 80代PD経過10年の女性.自宅で転倒後,在宅生活困難となり当院へ長期療養目的で入院.元々友人が多く,外泊時,自宅で友人と世間話することが日課であった.
【作業療法評価】
PD症状:非運動症状(抑うつ,幻視,妄想)運動症状(すくみ足あり移動は車椅子)
高次脳機能:MMSE25/30点(見当識,遅延再生,三段階命令),FAB11/18点(概念化,知的柔軟性,行動プログラム,GO/No-GO)
精神機能:GSES:1/16点,GDS13/15点,新しく作業を提示しても「私はできない」と悲観的な発言が多い.
活動性:自室にて車椅子上でぼんやりしていることが多く,他者との交流が見られない.(活動記録表による気分評価:0~30%)
【介入経過】期間:1ヶ月 作業内容:箱折り
活動記録表を用い作業前後と一日の気分の振り返りを行なった.自身の気分の状態を理解することを目標に作業を提供した.最初は消極的だったが一緒に行うことで「完成した時嬉しいね」と達成感による気分の向上が感じられた.介入2週目には「もっと上手に折りたい」との発言が聞かれ,作業意欲の向上も見られた.活動記録表の振り返りを繰り返すことで徐々に自身の気分への理解に繋がり,「何もしてないとダメだね」と不動により気分が落ち込むこと,「何かしてた方が良いね」と行動することで気分が良くなると理解した.
また介入当初は一人で作業をすることはなかったが,食堂の同席者が折り紙を折る様子を見て自ら作業に加わり,作業を行うことや話しかける様子が見られた.一方で身辺整理の範囲拡大,伝い歩きや独歩で移動する場面が増えた.そのため転倒転落への対策としてベッド周辺の環境調整を行なったが,転倒転落のリスクは残った.
【最終評価】変化点のみ記載
精神機能GSES4/16点,GDS13/15点.「やってみようかね」と前向きな発言が増えた.
活動性: 車椅子の自走や自室,食堂で作業に取り組み同席者に話しかける様子が見られ活動性が向上した(活動記録表による気分評価:50~100%).一方で転倒転落リスクは高まった.
【考察】PDに対するCBTの効果は徐々に確立され始めている.今回の事例においても,行動活性化療法を実施したことで自信がなく「私にはできない」と作業へ取り組むことを諦めていたが,「何かしてた方がいいね」と本人の認知の変容を図ることができた.その結果気分や自己効力感が高まることで,日中の活動性向上や他者との交流増加に繋がった.本事例は昔から友人が多く,人との繋がりや関りを大事にしており,入院生活おいて喪失していた他者との交流機会が増加したことは本事例にとって重要な転機になったと考える.一方で,衝動の制御が難しい状態でもあり,活動性が向上したことで転倒転落リスクが高まったことが課題として残った.今回の介入を通して,抑うつを呈するPD患者に対し,CBTの正と負の効果が得られることを経験した.治療に際し,正と負の効果を踏まえCBTの導入時期,導入方法を考慮して実施することで,より患者にとって望ましい効果が得られると考える.