[PE-4-3] 生活行為分析表(PADA-D)の評価に基づく環境調整及び作業療法実践により在宅生活を継続できたパーキンソン病の一例
【はじめに】
パーキンソン病(以下PD)は,運動症状と多彩な非運動症状を呈する神経変性疾患である.症状特性が日常生活活動に直接的に影響するため,進行に応じて,適切な評価と環境調整・介入が必要となる.今回,自宅内で転倒を繰り返し,在宅生活継続の危機に瀕したパーキンソン病のクライアントに対して,生活行為分析表(以下PADA-D)に基づく評価及び症状特性に合わせた環境調整・作業療法実践により,在宅生活を継続できた例を経験したので報告する.
【症例】
60代後半の男性.X年,左手指の振戦,左下肢を引きずる歩行出現,X+8年,PDと診断.既往に腰部脊柱管狭窄症があり,その治療やPDの服薬調整,リハビリ目的の為,数回当院に入院歴がある.また,うつ病の既往もあり,自己肯定感が低い側面がある.X+11年当院を退院し,介護サービス・訪問リハを使用しながら在宅生活を送っていたが,転倒が徐々に増え,在宅生活の継続に不安が出てきた.これまでは機能訓練に加え動作指導や環境調整の提案を行っていたが,本人のこだわりの強い性格もあり,動作方法の定着や環境調整への本格的な着手が困難であった.そこで今回,工程的な動作評価に基づく環境調整・介入を試みた.訪問リハビリは週2回(1回40分,PM)実施.介入開始時,MMSE:30/30点,UPDRS:PartⅠ(精神機能・気分)28点,PartⅡ(日常生活活動)29点,PartⅢ(運動機能検査)68点,PartⅣ(治療の合併症)16点.特に左側への姿勢反射障害とすくみ足強く,観察評価では注意障害,視空間認知障害が疑われた.介入開始時,転倒は平均週4~5回あったが,骨折等はなかった.なお,本報告を行うにあたり,クライアントに口頭及び書面にて同意を得ている.
【評価】
移動に関して,田平ら(2019)が開発したPADA-Dを用いて工程的に観察及び聞き取り評価を行った.観察評価では,①起き方,上体の支え方の拙劣さ,②進行に対する障害物に対する不注意,③目的地までの道のりに対する調整の拙劣さが観察された.聞き取り評価からは,④目的の位置に移動する際に足がすくみ,⑤居室間移動の際杖の使用を忘れることが,移動の阻害要因及び転倒の原因であると考えられた.また,介入開始時の面接において「転倒を減らし,安全に自宅での生活を送れるようにする」を合意目標として設定し,主観的な遂行度と満足度を10段階で質的評価を実施した.開始時は遂行度2/10,満足度2/10であった.
【介入・再評価】
評価の結果を踏まえ,①~④に対して起居動作や移動方法の動作指導,反復練習を行った.②に対しては,手すりや支持物にテープで目印をつけ,視覚的な気づきを促した.③,④に対しては,動線床上に一定間隔で視覚的キュー(テープライン)を設置し,目的地まですくみなく安全に移動できるよう図った.⑤に対しては見えやすい位置に杖使用を促すポスターを設置した.この介入により,大きな転倒はなくなり,転倒回数も週1回未満に減少した.合意目標の遂行度は5/10,満足度は5/10となり,若干であるが改善みられた.
【考察】
PDを有するクライエントに対し,問題となっていた生活行為をPADA-Dを用いて工程的に評価・分析したことで,要因を明確にし,さらに環境調整や介入に対する本人の同意を得られやすかった.また,問題場面や症状特性に応じた視覚的な環境調整は転倒予防に有効であった.しかし,今後はPDの症状特性の基づいた生活行為の工程的な評価法や環境評価法の開発が必要である.
パーキンソン病(以下PD)は,運動症状と多彩な非運動症状を呈する神経変性疾患である.症状特性が日常生活活動に直接的に影響するため,進行に応じて,適切な評価と環境調整・介入が必要となる.今回,自宅内で転倒を繰り返し,在宅生活継続の危機に瀕したパーキンソン病のクライアントに対して,生活行為分析表(以下PADA-D)に基づく評価及び症状特性に合わせた環境調整・作業療法実践により,在宅生活を継続できた例を経験したので報告する.
【症例】
60代後半の男性.X年,左手指の振戦,左下肢を引きずる歩行出現,X+8年,PDと診断.既往に腰部脊柱管狭窄症があり,その治療やPDの服薬調整,リハビリ目的の為,数回当院に入院歴がある.また,うつ病の既往もあり,自己肯定感が低い側面がある.X+11年当院を退院し,介護サービス・訪問リハを使用しながら在宅生活を送っていたが,転倒が徐々に増え,在宅生活の継続に不安が出てきた.これまでは機能訓練に加え動作指導や環境調整の提案を行っていたが,本人のこだわりの強い性格もあり,動作方法の定着や環境調整への本格的な着手が困難であった.そこで今回,工程的な動作評価に基づく環境調整・介入を試みた.訪問リハビリは週2回(1回40分,PM)実施.介入開始時,MMSE:30/30点,UPDRS:PartⅠ(精神機能・気分)28点,PartⅡ(日常生活活動)29点,PartⅢ(運動機能検査)68点,PartⅣ(治療の合併症)16点.特に左側への姿勢反射障害とすくみ足強く,観察評価では注意障害,視空間認知障害が疑われた.介入開始時,転倒は平均週4~5回あったが,骨折等はなかった.なお,本報告を行うにあたり,クライアントに口頭及び書面にて同意を得ている.
【評価】
移動に関して,田平ら(2019)が開発したPADA-Dを用いて工程的に観察及び聞き取り評価を行った.観察評価では,①起き方,上体の支え方の拙劣さ,②進行に対する障害物に対する不注意,③目的地までの道のりに対する調整の拙劣さが観察された.聞き取り評価からは,④目的の位置に移動する際に足がすくみ,⑤居室間移動の際杖の使用を忘れることが,移動の阻害要因及び転倒の原因であると考えられた.また,介入開始時の面接において「転倒を減らし,安全に自宅での生活を送れるようにする」を合意目標として設定し,主観的な遂行度と満足度を10段階で質的評価を実施した.開始時は遂行度2/10,満足度2/10であった.
【介入・再評価】
評価の結果を踏まえ,①~④に対して起居動作や移動方法の動作指導,反復練習を行った.②に対しては,手すりや支持物にテープで目印をつけ,視覚的な気づきを促した.③,④に対しては,動線床上に一定間隔で視覚的キュー(テープライン)を設置し,目的地まですくみなく安全に移動できるよう図った.⑤に対しては見えやすい位置に杖使用を促すポスターを設置した.この介入により,大きな転倒はなくなり,転倒回数も週1回未満に減少した.合意目標の遂行度は5/10,満足度は5/10となり,若干であるが改善みられた.
【考察】
PDを有するクライエントに対し,問題となっていた生活行為をPADA-Dを用いて工程的に評価・分析したことで,要因を明確にし,さらに環境調整や介入に対する本人の同意を得られやすかった.また,問題場面や症状特性に応じた視覚的な環境調整は転倒予防に有効であった.しかし,今後はPDの症状特性の基づいた生活行為の工程的な評価法や環境評価法の開発が必要である.