[PE-6-1] 神経難病者に対する排泄支援についての振り返り調査
【序論】神経難病者の排泄ケアは,本人がどこでどのような排泄を望むか共に考えていくことが大切で,尊厳を守るケアとされる(山口昌子,2015).特に,筋委縮性側索硬化症(ALS)では膀胱直腸障害を呈しにくいとされ,最後まで適切な排泄支援を望む患者も多い.当院は神経難病者が多く在院し,個々に応じた排泄支援を行っているが,進行に伴うオムツ着用への移行も少なくない.今回,当院における神経難病者への尊厳を守るケアの拡充を目的に,現状の排泄支援について振り返り調査を行った.
【方法】直近5年間に定期的に排泄支援を行った患者13名(ALS84.6%,脊髄性筋萎縮症15.4%,男性61.5%,平均年齢59.0歳,人工呼吸器装着53.8%,調査時存命者69.2%,存命者の調査までの期間3.8年)を対象とし,電子カルテより情報収集した.排泄行為を,尿便意/起居/移乗/移動/起立・着座/下衣の上げ下げ/排泄機能/拭く/流すの9手順に分け,各手順の支援開始時期を調べた.排泄状況を,自立支援期(FIM6,5)と介助支援期(FIM4以下)に分け,各期の支援内容,使用した福祉用具,患者家族の排泄ニーズを調べた.また,担当セラピスト(TH)に排泄支援における課題について聴取した.本研究は対象の同意および当院の倫理委員会にて承認を得た(承認番号24-003).
【結果】排泄行為の拭く/流すの手順は情報不足のため分析より除外した.初回入院からの平均支援時期では,最も早かったのは移動0.6年で,起居0.8年,起立・着座・排泄機能0.9年,下衣の上げ下げ・移乗1.2年の順であった.尿便意は84.6%が保たれていた(カテーテル留置15.4%).自立支援期では69.2%(9名)に関わり,歩行補助具/車椅子77.8%,電動ベッド66.7%,補高便座44.4%,下衣の改造22.2%を支援していた.排泄ニーズは,下衣を上げ下げできるようになりたい,便器から立ちやすくしたいなどであった.介助支援期では84.6%(11名)に関わり,電動ベッド100%,車椅子81.8%,ポータブルトイレ72.7%,尿器54.5%,移乗ボード18.2%,差し込み便器18.2%と排泄用具の割合が増加した.リフトは体験率100%,導入率54.5%であり,27.3%が進行に伴い用具を変更していた.45.5%はリフト体験が排泄支援まで結び付かず,オムツ着用となっていた.排泄ニーズは,座って排泄したい,家族の介助量を減らしたいなどであった.THから,排泄支援は患者のニーズ,進行状況による呼吸管理や意思伝達支援等との重要度/緊急度との優先順位が関係し,リフト導入には介護者の理解,設置環境の問題も加わることが課題としてあがった.
【考察】今回の結果から,自立支援期では福祉用具や自助具の導入を基軸として,動作の負担を減らし補助する用具の選定および適合が求められることが伺えた.介助支援期では,患者家族のニーズに沿って,リフトを含む移乗支援用具や排泄用具の選定・導入,介助方法の指導を支援していた.対象の半数はオムツに移行せず,安全性を担保した上で患者が望む排泄ケアを行えていると考えられた.山田規央ら(2019)は,神経難病者はトイレでの排泄を継続したくても進行に伴い排泄環境を段階的に移行せざる得なくなると述べている.自立支援の時期から,介助を要する時期への移行を想定した上で,用具の情報提供や環境調整など,スムーズかつ安全な排泄環境の移行に向けて準備することで適切な排泄ケアの提供につながると考えられた.
【結語】尊厳を守るケアの拡充に向けて,初回入院時から排泄支援に必要な情報の集約や進行を見据えた段階的な用具の提供,TH側の排泄ケアに対する知識の更新,症例検討会の実施など経験を重ねていける支援体系の構築が求められる.
【方法】直近5年間に定期的に排泄支援を行った患者13名(ALS84.6%,脊髄性筋萎縮症15.4%,男性61.5%,平均年齢59.0歳,人工呼吸器装着53.8%,調査時存命者69.2%,存命者の調査までの期間3.8年)を対象とし,電子カルテより情報収集した.排泄行為を,尿便意/起居/移乗/移動/起立・着座/下衣の上げ下げ/排泄機能/拭く/流すの9手順に分け,各手順の支援開始時期を調べた.排泄状況を,自立支援期(FIM6,5)と介助支援期(FIM4以下)に分け,各期の支援内容,使用した福祉用具,患者家族の排泄ニーズを調べた.また,担当セラピスト(TH)に排泄支援における課題について聴取した.本研究は対象の同意および当院の倫理委員会にて承認を得た(承認番号24-003).
【結果】排泄行為の拭く/流すの手順は情報不足のため分析より除外した.初回入院からの平均支援時期では,最も早かったのは移動0.6年で,起居0.8年,起立・着座・排泄機能0.9年,下衣の上げ下げ・移乗1.2年の順であった.尿便意は84.6%が保たれていた(カテーテル留置15.4%).自立支援期では69.2%(9名)に関わり,歩行補助具/車椅子77.8%,電動ベッド66.7%,補高便座44.4%,下衣の改造22.2%を支援していた.排泄ニーズは,下衣を上げ下げできるようになりたい,便器から立ちやすくしたいなどであった.介助支援期では84.6%(11名)に関わり,電動ベッド100%,車椅子81.8%,ポータブルトイレ72.7%,尿器54.5%,移乗ボード18.2%,差し込み便器18.2%と排泄用具の割合が増加した.リフトは体験率100%,導入率54.5%であり,27.3%が進行に伴い用具を変更していた.45.5%はリフト体験が排泄支援まで結び付かず,オムツ着用となっていた.排泄ニーズは,座って排泄したい,家族の介助量を減らしたいなどであった.THから,排泄支援は患者のニーズ,進行状況による呼吸管理や意思伝達支援等との重要度/緊急度との優先順位が関係し,リフト導入には介護者の理解,設置環境の問題も加わることが課題としてあがった.
【考察】今回の結果から,自立支援期では福祉用具や自助具の導入を基軸として,動作の負担を減らし補助する用具の選定および適合が求められることが伺えた.介助支援期では,患者家族のニーズに沿って,リフトを含む移乗支援用具や排泄用具の選定・導入,介助方法の指導を支援していた.対象の半数はオムツに移行せず,安全性を担保した上で患者が望む排泄ケアを行えていると考えられた.山田規央ら(2019)は,神経難病者はトイレでの排泄を継続したくても進行に伴い排泄環境を段階的に移行せざる得なくなると述べている.自立支援の時期から,介助を要する時期への移行を想定した上で,用具の情報提供や環境調整など,スムーズかつ安全な排泄環境の移行に向けて準備することで適切な排泄ケアの提供につながると考えられた.
【結語】尊厳を守るケアの拡充に向けて,初回入院時から排泄支援に必要な情報の集約や進行を見据えた段階的な用具の提供,TH側の排泄ケアに対する知識の更新,症例検討会の実施など経験を重ねていける支援体系の構築が求められる.