第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-1] ポスター:がん 1

Sat. Nov 9, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PF-1-4] がんの終末期にあるクライエントが自分らしく生き抜くことを実現した作業療法

ケアの意味を見つめる事例研究による分析

國武 亜由美1, 松尾 圭介1, 永松 美穂子2, 竹原 敦3, 雨宮 有子4 (1.公立八女総合病院 リハビリテーション科, 2.みどりの杜病院 看護部, 3.群馬パース大学 リハビリテーション学部作業療法学科, 4.千葉県立保健医療大学 健康科学部看護学科)

【はじめに】終末期に関わる作業療法士(以下OTR)は,人が良い死を迎え,人生の終わりまで適切に作業に関わることができるように,作業のあらゆる恩恵を重要視する(Hsin-Hsiu et al,2019).終末期の作業療法は,クライエントの役割(太田ら,2005)や,意味のある作業の有効性(建石ら,2018)等に焦点を当てると言われている.しかし,OTRがどのような実践により成果を上げているかは明らかにされていない.実践が明らかになれば共有・伝播が可能になる.本研究の目的は,OTRが終末期のクライエントの多様な背景や,刻一刻と変わりゆく状態に対峙しながらも,折り紙を用いた作業療法によって,自己を取り戻し最期まで自分らしく生き抜くことを果たした事例を対象に,省察し実践を明らかにすることである.
【方法】①研究デザイン:ケアの意味を見つめる事例研究(山本ら,2022).➁クライエント:ホスピスに入院するA氏,80歳代後半,女性.肺がん,パーキンソン病.A氏は長男夫婦と同居していたが,折り合いが悪くなり入院時には別居.OT介入41日目に左大腿骨に骨転移,介入後190日後に永眠した.③OTR:8年の終末期作業療法の経験があり,週1回作業療法を実施.➃データ収集:カルテをもとに支援経過を振り返り,クライエントや家族の状況,アセスメント,実践の意図と内容,その結果と反応を記録した.共同研究者4名(同僚のOTR1名と看護師1名および研究者2名)が状況を具体的・共有的に思い描くことができるまでOTRに問いかけ,それにより想起された実践状況を追記し,カルテでその真実性を確認した.⑤分析方法:自己を取り戻し自分らしく生き抜くことを支えた作業療法実践とはどのようなものかという観点で吟味した.実践の意味・意図のまとまりを『大見出し』,それに向かう実践のコツのまとまりを[小見出し]で表し,またクライエント等の変化に合わせ時期を区分し,その特徴を表す言葉を付け実践を構造化した.なお,研究について本人に説明し同意を得た.
【結果】実践は4つの大見出しと10の小見出しで表された.OTRは[作業しながら湧いてくるAさんの思いを遮ることなく呼吸を合わせ心の動きに静かに伴走する]等により,『A氏が自身の人生と向き合い整理する時間を作業で作(る)』った.そして[A氏が大事にしている折り紙でのチャレンジを間違いのない道筋にそっとのせる]こと等で,『A氏の生きる力の根源を見つけて磨き輝かせる』ことにより,作業を通した人とのつながりや自己の存在価値を高めることに繋げた.さらに[折り紙を通して人とのつながりを深めた今,自分自身と息子への信頼を取り戻すことを後押しする]ように,母親のために折り紙を買い続けた息子の話を投げかけることで『母と息子の想いのシンクロを紡ぐ』ことを促した.また同時に[Aさんが,折り紙が好きなことを知っている人に,何気に折り紙を話題にして日々を支える応援者を増やす]等で意図的に周囲の人を巻き込み,『A氏の希望を皆でつなぐ』ようにした.
【考察】OTRは対象者の日々の作業の中にある,生きる力の根源を見つけ,それを受け入れ磨き,院内の他者の支援という環境を用いた.その作業によって,A氏は息子との関係をも前向きに捉え,最期まで自分らしさを持ち続け生き抜くことを実現した.この実践は,人—環境—作業が相互に影響し合うことで良好な作業が遂行されるという概念(Law et al, 1996)を支持するものとなった.また,今回OTRの実践の意図やコツに焦点をあて,言語化したことは,作業療法におけるクリニカル・リーズニング(Schell,2008)を明確に示し,終末期に関わる作業療法実践の質を高めることに貢献し得ることが示唆された.