第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3 

Sat. Nov 9, 2024 12:30 PM - 1:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PF-3-3] 根治的頚部郭清変法と肩甲舌骨筋上郭清,側頚部郭清の術後における肩関節可動域の比較

大道 克己, 大島 良太, 土屋 栞, 藤本 智久, 皮居 達彦 (姫路赤十字病院 リハビリテーション科)

【はじめに】頚部リンパ節郭清術は頭頚部がんの転移を防ぐための最も重要な外科的治療である.頚部のリンパ節と非リンパ組織を一塊に摘出する根治的頚部郭清から始まり,機能温存を図るため,level1~5の広範囲の郭清を行うが副神経等の非リンパ組織を一部温存する根治的頚部郭清変法(以下,MRND),部分的に郭清を省略する肩甲舌骨筋上頚部郭清(以下,SOHND),側頚部郭清(以下,LND)などの選択的頚部郭清等,様々な術式が開発されている.しかし,SOHND後やLND後の肩関節機能についての報告は少なく,また関節可動域を数値で示して比較したものが調査した範囲ではみられなかった.今回,その調査を行ったため報告する.
【方法】2013年7月から2023年12月にて,当院で頚部郭清術を行われ,作業療法を行ったものを対象とした.作業療法は術前に評価,指導を行い,術後ドレーン抜去後(術後平均7.0±2.6日)から肩関節の可動域訓練及び,僧帽筋等の肩甲帯筋力訓練を開始し,退院時に評価(術後平均14.5±8.5日)と自主トレーニング指導を行っている.対象をMRND群(level 1~5の郭清を行った32例32肩),SOHND群(level 1~3の郭清を行った8例9肩),LND群(level 2~4の郭清を行った9例9肩)の3群に分け.術前,退院時の肩関節ROM(肩屈曲,外転の自動,他動運動)から各運動のROM低下量をもとめて比較した.全例副神経は温存している.肩関節に既往歴があるものは除外した.統計学的な比較は,統計ソフトstat mate3を使用して,分散分析および多重比較(Tukey test)を行い,危険率5%未満を統計学的有意とした.倫理的配慮として,本研究の実施について当院の倫理委員会の承認を受け,対象の患者から同意を得て実施している.
【結果】MRND群,SOHND群,LND群のROM低下量(括弧内は術前→退院時ROM)(単位は度)の平均は,屈曲自動にて3群順に-21.2(153.6→132.4),-18.9(150.6→131.7),-16.7(148.9→132.2),外転自動にて順に-47.9(153.5→105.6),-32.2(160.6→128.3),-34.4(153.3→118.9),屈曲他動にて-9.1(161.1→152.0),-7.2(155.0→147.8),-7.2(155.6→148.3),外転他動にて-24.5(158.3→133.9),-18.9(164.4→145.6),-19.4(151.7→132.2)であった.3群の各ROMの低下量には全て統計学的有意差を認めなかった.
【考察】郭清範囲を限定するSOHNDやLNDなどの選択的頚部郭清では,広い範囲を郭清するMRND等と比較して副神経への負担が少ないことが予想されたが,今回の調査では有意差を認めなかった.副神経への負担は郭清範囲のみならず,筋鈎の副神経への牽引や圧迫等,複数の要因によって影響を受けるとされ(鬼塚哲郎,2008年),またLND後であっても術後3週間の時点では筋電図評価にて全例で僧帽筋麻痺を認めたとする報告(A Koybasioglu,2000年)もある.以上から,SOHNDやLNDにおいても術後早期では僧帽筋麻痺を生じていると考えられるため,術後は早期の作業療法介入を行い,僧帽筋麻痺の程度を評価し,機能回復のためのトレーニングを開始することが重要である.また,選択的頚部郭清の機能温存効果を確認するには長期的なフォローを行い,検証する必要性があると考えられた.