第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3 

Sat. Nov 9, 2024 12:30 PM - 1:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PF-3-4] 当院における高齢消化器癌手術後患者の排尿動作自立遅延に関する検討

石井 陽史, 鈴木 美智, 井部 絵理, 岩渕 哲史 (市立札幌病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 当院における消化器癌周術期クリティカルパスでは,術翌日に尿道留置カテーテルの抜去,術後3日目には排尿動作自立がアウトカムとして設定されているが,手術を受ける患者の高齢化により術後のADL再獲得が遅延し,在院日数の長期化も懸念されている.しかし,術後排尿動作自立の状況と関連因子は不明であった.本研究は,高齢消化器癌術後患者の術後排尿動作自立遅延に関する因子を検討することを目的とした.
【対象】
 2023年1月から2023年12月までに当院外科に入院し,待機手術で術前からOTが介入して自宅退院に至った65歳以上の高齢消化器癌患者52例のうち,術前より排尿動作自立が不可能であった5例,データ欠損15例を除外した32例(男性18名,女性14名,平均年齢79.0±6.1歳)を対象とした.また,32例の術式内訳は,開腹手術16例,腹腔鏡手術16例であった.
【方法】
 本研究における排尿動作自立の定義は,介助や監視が必要なく患者が自室から病棟トイレまでの移動と排尿動作が可能となることとした.対象32例の排尿動作自立日の中央値を算出し,中央値未満を順調群,中央値以上を遅延群の2群に分けて,属性(年齢,性別,BMI),術前握力,術前Mini-Cog,術前栄養指標(PNI),手術情報(術式,手術時間,出血量),術後合併症,術前と術翌日の血液検査(CRP,Hb),リハビリ経過(術後歩行開始までの日数,術後在院日数),入院時・退院時の運動・認知FIM得点を比較検討した.また,遅延となった理由について診療記録から調査した.統計学的解析には,Mann-Whitney U test,及びχ2検定を用い,危険率5%未満を有意水準とした.
 本研究は市立札幌病院の倫理委員会によって承認された.(承認番号R05-063-1091)
【結果】
 対象32例の術後排尿動作自立までの日数の中央値は4日であり,順調群14例,遅延群18例であった.属性,術前握力,術前Mini-Cog,術前PNIは2群間に有意差は認めなかった.手術情報において,術式に有意差を認めなかったが,手術時間は順調群251(225-362)分,遅延群362(284-512)分,出血量は順調群0(0-38)ml,遅延群250(15-765)mlであり有意差を認めた.術後合併症は,せん妄が順調群の7.1%,遅延群の50.0%にみられ有意差を認めた.血液検査は,術翌日のHbが順調群11.0(10.0-11.3)g/dL,遅延群10.0(9.5-10.7)g/dLであり有意差を認めた.リハビリ経過において,術後歩行開始までの日数は2群共に1(1-1)日で,術後在院日数は順調群13(11-25)日,遅延群21(13-32)日であり有意差を認めなかった.入院時・退院時の運動・認知FIM得点は2群間で有意差を認めなかった.遅延群の排尿動作自立が遅延した理由は,創部痛が55.6%と最多で,血圧低下が22.3%,バランス不良による転倒リスクが10.5%であった.
【考察】
 本研究において,遅延群では手術時間が長い傾向にあり,術後合併症としてせん妄の併発を認めた.せん妄は高齢者の術後合併症の中で最も多く,長時間の全身麻酔や手術侵襲に伴う全身炎症,疼痛などが要因になると報告されている.また,2群共に術翌日から歩行が開始されていたが,遅延群においては術中出血量が多く,術後Hbが低値の傾向を認めていたことから,血圧低下による離床促進の妨げも排尿動作自立遅延に関連していると推察された.よって,当院における高齢消化器癌手術後患者では,手術時間や出血量などの手術による影響や術後せん妄,疼痛や血圧低下などの全身状態の不良が排尿動作自立遅延に関する因子であることが示唆された.