[PF-4-3] 脊髄髄内転移による両下肢対麻痺患者に対する自宅退院に向けた作業療法の経験
【はじめに】
一般的にがん化学療法実施における予後因子として全身状態があげられ,身体活動量により治療適応の有無が決まってくるため,身体機能やADLを維持することがリハビリテーション(以下リハビリ)に求められる.今回,肺腺癌からの脊髄髄内転移にて両下肢対麻痺を呈したが,化学療法入院中のリハビリで階段昇降までのADLを獲得し自宅退院に至った経験を報告する.今回の報告は,個人情報保護に十分留意し,事前に説明し口頭で同意を得た.
【症例紹介】
50歳代男性,会社員,妻と2人暮らし.自宅は半2階が居室.X-4年肺腺癌ステージⅣの診断を受け抗がん剤治療開始し,その間も毎日散歩を行い活動的な生活をしていた.X年歩行困難で入院し,ステロイドパルス治療が開始となった.6病日にTh8.9脊髄髄内転移の診断となり,同日より作業療法(以下,OT)介入開始となった.
【OT経過】
入院時の身体機能は,右下肢MMT4左下肢MMT2にて歩行困難.上肢左右MMT5,握力は左右平均38.0kg.感覚は両下肢表在・深部感覚とも中等度鈍麻,両手指抹消にしびれがあった.Functional Independence Measure(FIM)は104点(運動69点認知35点)であり,見守り下で車椅子移乗し,移動は介助を要しトイレ動作は自立していた.Vitality Index(VI)は10/10点でありリハビリへの意欲は高く,自主トレーニングにも積極的に取り組んでいた.しかし,7病日より麻痺の進行があり,両下肢ともMMT1-2,腹直筋MMT3,両下肢表在・深部感覚とも重度鈍麻.膀胱直腸障害を認め,FIM94点(運動59点認知35点)まで低下した.移乗動作排泄動作に介助が必要となった.7病日より放射線治療と化学療法が並行して開始された.妻は日中仕事のため,自宅退院にはセルフケア自立,介助下での階段昇降の獲得が求められた.当初主治医は,自宅退院は難しいと考えていたが,本人は自宅退院希望が強く車椅子でのADL自立を目標にプログラムを立案した.OTでは移乗動作や,基本動作訓練,排泄動作訓練を中心としたADL練習を負荷量に注意しながら実施した.化学療法による著明な副作用や運動時の息切れなど呼吸器症状の出現は認めなかった.歩行困難な中で階段昇降が阻害因子となったが,本人から住環境に合わせて臀部からプッシュアップで昇降する動作方法の提案があり,意欲を尊重しながら介入した.30病日で病院内ADLは車椅子自立した.50病日で,感覚障害は変化ないが下肢MMT2へ向上,膀胱直腸障害は軽快しFIM116点(運動81点認知35点)まで改善した.階段昇降や車の乗り降りを見守り下で獲得,更衣や排泄などのセルフケア自立,床からの車椅子移乗動作を獲得し,在宅生活に移行することができた.退院後は,化学療法のため入退院を繰り返しながら訪問リハビリ介入となった.
【考察】
本症例は肺腺癌脊髄髄内転移による両下肢対麻痺を呈したが,放射線治療と化学療法加療中にリハビリ介入にて階段昇降動作を獲得し自宅退院に至った.化学療法予後の制限因子として,副作用や入院中の筋力低下はあげられるが,放射線や化学療法による副作用が少なかったことや,入院中のVIが低下することなくリハビリが意欲的に継続できたことが麻痺進行後の筋力やADL向上につながった.OTでは,治療経過における副作用や負荷量に留意するだけでなく,本人の意欲を尊重した訓練内容の検討やゴールの設定も重要であることが示唆された.
一般的にがん化学療法実施における予後因子として全身状態があげられ,身体活動量により治療適応の有無が決まってくるため,身体機能やADLを維持することがリハビリテーション(以下リハビリ)に求められる.今回,肺腺癌からの脊髄髄内転移にて両下肢対麻痺を呈したが,化学療法入院中のリハビリで階段昇降までのADLを獲得し自宅退院に至った経験を報告する.今回の報告は,個人情報保護に十分留意し,事前に説明し口頭で同意を得た.
【症例紹介】
50歳代男性,会社員,妻と2人暮らし.自宅は半2階が居室.X-4年肺腺癌ステージⅣの診断を受け抗がん剤治療開始し,その間も毎日散歩を行い活動的な生活をしていた.X年歩行困難で入院し,ステロイドパルス治療が開始となった.6病日にTh8.9脊髄髄内転移の診断となり,同日より作業療法(以下,OT)介入開始となった.
【OT経過】
入院時の身体機能は,右下肢MMT4左下肢MMT2にて歩行困難.上肢左右MMT5,握力は左右平均38.0kg.感覚は両下肢表在・深部感覚とも中等度鈍麻,両手指抹消にしびれがあった.Functional Independence Measure(FIM)は104点(運動69点認知35点)であり,見守り下で車椅子移乗し,移動は介助を要しトイレ動作は自立していた.Vitality Index(VI)は10/10点でありリハビリへの意欲は高く,自主トレーニングにも積極的に取り組んでいた.しかし,7病日より麻痺の進行があり,両下肢ともMMT1-2,腹直筋MMT3,両下肢表在・深部感覚とも重度鈍麻.膀胱直腸障害を認め,FIM94点(運動59点認知35点)まで低下した.移乗動作排泄動作に介助が必要となった.7病日より放射線治療と化学療法が並行して開始された.妻は日中仕事のため,自宅退院にはセルフケア自立,介助下での階段昇降の獲得が求められた.当初主治医は,自宅退院は難しいと考えていたが,本人は自宅退院希望が強く車椅子でのADL自立を目標にプログラムを立案した.OTでは移乗動作や,基本動作訓練,排泄動作訓練を中心としたADL練習を負荷量に注意しながら実施した.化学療法による著明な副作用や運動時の息切れなど呼吸器症状の出現は認めなかった.歩行困難な中で階段昇降が阻害因子となったが,本人から住環境に合わせて臀部からプッシュアップで昇降する動作方法の提案があり,意欲を尊重しながら介入した.30病日で病院内ADLは車椅子自立した.50病日で,感覚障害は変化ないが下肢MMT2へ向上,膀胱直腸障害は軽快しFIM116点(運動81点認知35点)まで改善した.階段昇降や車の乗り降りを見守り下で獲得,更衣や排泄などのセルフケア自立,床からの車椅子移乗動作を獲得し,在宅生活に移行することができた.退院後は,化学療法のため入退院を繰り返しながら訪問リハビリ介入となった.
【考察】
本症例は肺腺癌脊髄髄内転移による両下肢対麻痺を呈したが,放射線治療と化学療法加療中にリハビリ介入にて階段昇降動作を獲得し自宅退院に至った.化学療法予後の制限因子として,副作用や入院中の筋力低下はあげられるが,放射線や化学療法による副作用が少なかったことや,入院中のVIが低下することなくリハビリが意欲的に継続できたことが麻痺進行後の筋力やADL向上につながった.OTでは,治療経過における副作用や負荷量に留意するだけでなく,本人の意欲を尊重した訓練内容の検討やゴールの設定も重要であることが示唆された.