[PF-4-4] 作業療法士にできる遺族ケアとは
【はじめに】
専門作業療法士(がん)の定義では,がん作業療法とは,がんに罹患した経験のある方とその家族を含めた地域社会に対して,予防期から終末期,死別後まで様々な全人的苦痛に対して,その改善・緩和を行う.とされている.今回,患者の心と遺族ケアを考慮した家族へのアプローチの重要性を感じる症例を経験したので報告する.
【症例】
60代女性.診断名,卵巣癌術後再発・腹膜播種・多発リンパ節転移.夫・娘の3人暮らし.夫は学校長で4ヶ月後定年退職予定.娘は在宅ワークで精神科通院歴あり.趣味は読書,娘とアニメや相撲を見ること.約4ヶ月間,3回の入院中に作業療法(以下OT)介入.なお発表について症例の没後,家族に口頭及び文章で説明し同意を得た.倫理的指針に従い個人の特定されない様,最大限配慮した.
【経過】
1回目入院(14日間)腹満感と下肢浮腫緩和目的に入院.同日,夫へ病状と予後についてIC.仕事で忙しく今まで何もしてあげられていないという思いが強く流涙.入院翌日よりOT,翌々日より理学療法開始.入院前生活は家事全般と週末に両親のサポートを行っており,ADLは概ね自立.関係作り,自動運動やリラクゼーション,生活行為への助言中心に介入.思いを伝えるのが苦手で無理をしがちな性格や家族について徐々に語られた.
2回目入院(6日間)腹満感や胸水貯留悪化のため入院.酸素吸入し移動は車椅子.経過中,独歩・歩行器歩行や排泄動作自立や介助量増減が見られ,5ヶ月後の相撲の巡業に娘と行く目標を語られた.前回退院後,家族へ自分の思いを伝えられるようになり,家事分担や通院同伴など夫の行動変容が見られた.患者を通して夫へ家屋環境の依頼し,OT経過やADL変化が夫へ伝わるよう図った.夫の面会時には顔の見える関係を築けるよう努めた.腎機能悪化あり転院.
3回目入院(36日間)腎瘻造設後,入院.居室内移動は歩行器歩行.身体の変化や日常生活の制限や不自由さが増えたことも喪失感に繋がり,精神的苦痛や娘への思いの表出が増えた.関連職種と情報共有し,家族3人で話し合う時間を設け,自宅外出を実施.外出後,夫と娘から外出中の様子や問題となりそうな箇所について積極的に相談があった.患者からは家族の変化や感謝の気持ちに涙を流され,前向きな発言や穏やかな表情が見られた.患者に確認した上で,退院に向けた練習や準備は,患者から家族へ伝える方法で共有した.病状変化に伴い夫の疲労感が増していると看護師より情報があり,家族指導内容を簡素化し書面で渡すこととした.退院前カンファレンス前日,状態悪化あり起居動作全介助となった.カンファレンス後,OTも同伴し退院.相撲を見たい希望や家族への感謝の気持ち,安楽な姿勢や夫以外の人に排泄介助を依頼したいことを共有し,自宅では家族と一緒にポジショニングを行った.退院2日後,逝去.後日,夫の訪問があり,巡業は行けなかったが一緒に相撲をテレビで見ることが出来たと非常に穏やかに話された.
【考察】
OTの対象は患者だけではなく家族も含まれる.今回,がんの病勢に家族の気持ちが追いつかない状況であったが,家族の疲労も考慮しつつ,リハビリテーションに参加してもらうことや,リハビリテーション中に語られた家族への思いを伝えることで,家族が一緒に頑張れたという思いを得ることが出来,死への受け入れが出来たように感じられた.
【結語】
終末期患者とその家族に対してリハビリテーション介入を行うことは,遺族ケアにも繋がると考えられる.
専門作業療法士(がん)の定義では,がん作業療法とは,がんに罹患した経験のある方とその家族を含めた地域社会に対して,予防期から終末期,死別後まで様々な全人的苦痛に対して,その改善・緩和を行う.とされている.今回,患者の心と遺族ケアを考慮した家族へのアプローチの重要性を感じる症例を経験したので報告する.
【症例】
60代女性.診断名,卵巣癌術後再発・腹膜播種・多発リンパ節転移.夫・娘の3人暮らし.夫は学校長で4ヶ月後定年退職予定.娘は在宅ワークで精神科通院歴あり.趣味は読書,娘とアニメや相撲を見ること.約4ヶ月間,3回の入院中に作業療法(以下OT)介入.なお発表について症例の没後,家族に口頭及び文章で説明し同意を得た.倫理的指針に従い個人の特定されない様,最大限配慮した.
【経過】
1回目入院(14日間)腹満感と下肢浮腫緩和目的に入院.同日,夫へ病状と予後についてIC.仕事で忙しく今まで何もしてあげられていないという思いが強く流涙.入院翌日よりOT,翌々日より理学療法開始.入院前生活は家事全般と週末に両親のサポートを行っており,ADLは概ね自立.関係作り,自動運動やリラクゼーション,生活行為への助言中心に介入.思いを伝えるのが苦手で無理をしがちな性格や家族について徐々に語られた.
2回目入院(6日間)腹満感や胸水貯留悪化のため入院.酸素吸入し移動は車椅子.経過中,独歩・歩行器歩行や排泄動作自立や介助量増減が見られ,5ヶ月後の相撲の巡業に娘と行く目標を語られた.前回退院後,家族へ自分の思いを伝えられるようになり,家事分担や通院同伴など夫の行動変容が見られた.患者を通して夫へ家屋環境の依頼し,OT経過やADL変化が夫へ伝わるよう図った.夫の面会時には顔の見える関係を築けるよう努めた.腎機能悪化あり転院.
3回目入院(36日間)腎瘻造設後,入院.居室内移動は歩行器歩行.身体の変化や日常生活の制限や不自由さが増えたことも喪失感に繋がり,精神的苦痛や娘への思いの表出が増えた.関連職種と情報共有し,家族3人で話し合う時間を設け,自宅外出を実施.外出後,夫と娘から外出中の様子や問題となりそうな箇所について積極的に相談があった.患者からは家族の変化や感謝の気持ちに涙を流され,前向きな発言や穏やかな表情が見られた.患者に確認した上で,退院に向けた練習や準備は,患者から家族へ伝える方法で共有した.病状変化に伴い夫の疲労感が増していると看護師より情報があり,家族指導内容を簡素化し書面で渡すこととした.退院前カンファレンス前日,状態悪化あり起居動作全介助となった.カンファレンス後,OTも同伴し退院.相撲を見たい希望や家族への感謝の気持ち,安楽な姿勢や夫以外の人に排泄介助を依頼したいことを共有し,自宅では家族と一緒にポジショニングを行った.退院2日後,逝去.後日,夫の訪問があり,巡業は行けなかったが一緒に相撲をテレビで見ることが出来たと非常に穏やかに話された.
【考察】
OTの対象は患者だけではなく家族も含まれる.今回,がんの病勢に家族の気持ちが追いつかない状況であったが,家族の疲労も考慮しつつ,リハビリテーションに参加してもらうことや,リハビリテーション中に語られた家族への思いを伝えることで,家族が一緒に頑張れたという思いを得ることが出来,死への受け入れが出来たように感じられた.
【結語】
終末期患者とその家族に対してリハビリテーション介入を行うことは,遺族ケアにも繋がると考えられる.