[PF-5-3] 乳がん手術における腋窩リンパ節郭清施行患者の浮腫発症関連因子の検討
1年間の介入プロトコールの結果を用いて
【背景と目的】
当院作業療法(以下OT)部門では2015年11月より,乳がん腋窩リンパ節郭清後の患者に対し,入院中から術後1年まで定期的に介入するプロトコールを作成し運用を開始した.1年間の介入が可能であった症例をもとにリンパ浮腫の発症に関わる因子を明らかにすることを目的とした.
倫理的配慮として,対象患者には本介入の趣旨を説明し,同意を得た.
【対象】
2015年11月から2023年11月までに,当院の乳がん腋窩リンパ節郭清後リハビリプロトコールに1年間定期的に介入した173症例を対象とした.
【方法】
OTの介入目的として,入院中から院内で作成したリンパ浮腫のしおりを用いて,浮腫及び肩関節可動域低下予防のための指導を行なった.対象患者が,リンパ浮腫に関する正しい知識を持つことにより早期発見や対処方法を患者自身が習得し,重症化を防ぐことを目指し,術後1年まで外来リハビリで指導を継続した.研究デザインは後ろ向きのコホート研究とし,入院中の初回・退院後初回・術後半年後・術後1年後に浮腫の有無,可動域制限の有無,体組成計を用いての体重・体組成計測を行い,客観的評価を実施.また,退院後初回・術後半年後・術後1年後にはHand20(上肢機能評価表)・Quick DASH(上肢障害評価表)を用い,主観的評価を実施.術後1年の時点で浮腫を認めた群と認めなかった群の2群に分け単変量解析を行なった.その後,単変量解析から優位であった項目から,術後1年時点での浮腫発症に最も影響する因子を確認するため多変量解析を行なった.また本検討における浮腫の定義は,上肢周囲計測(手背・手関節・肘下10cm・肘上10cm・腋窩)において非術測との差が1カ所でも15mm以上あり,なおかつ圧痕テストで陽性を示すものとした.また可動域制限の定義は,肩関節(屈曲・外転・外旋)可動域が,術前より1運動方向でも5度以上低下もしくは左右で15度以上差が生じたものとした.
【結果】
浮腫を認めたのは29/173例(16.7%)であった.浮腫の有無の比較で,統計学的に優位差を認めたのは,術前化学療法の有無(p=0.01)・術後半年Hand20スコア(p=0.01)・術後1年Hand20スコア(p <0.01)・術後1年Quick DASH-wrokスコア(p=0.01)となった.ロジスティック回帰分析を行なった結果,選択された因子は術後1年Hand 20スコア(P<0.01)と術前化学療法の有無(P=0.04)で統計学的優位差を確認した.
【考察】
今回の検討で,当院の乳がん腋窩リンパ郭清術後の浮腫発症に関わる因子は先行文献やガイドラインと同様に化学療法の施行で影響があることが確認できた.また術後1年時点でのHand20のスコアも統計学的に影響があることも判明し,今後は詳細なスコアの確認やカットオフ値の検討も進めたい.まずは今回の結果を踏まえて,浮腫発症予防のために術前化学療法施行患者の術後半年のHand 20スコアに留意し,浮腫発症予防のための指導に活かしていきたい.
当院作業療法(以下OT)部門では2015年11月より,乳がん腋窩リンパ節郭清後の患者に対し,入院中から術後1年まで定期的に介入するプロトコールを作成し運用を開始した.1年間の介入が可能であった症例をもとにリンパ浮腫の発症に関わる因子を明らかにすることを目的とした.
倫理的配慮として,対象患者には本介入の趣旨を説明し,同意を得た.
【対象】
2015年11月から2023年11月までに,当院の乳がん腋窩リンパ節郭清後リハビリプロトコールに1年間定期的に介入した173症例を対象とした.
【方法】
OTの介入目的として,入院中から院内で作成したリンパ浮腫のしおりを用いて,浮腫及び肩関節可動域低下予防のための指導を行なった.対象患者が,リンパ浮腫に関する正しい知識を持つことにより早期発見や対処方法を患者自身が習得し,重症化を防ぐことを目指し,術後1年まで外来リハビリで指導を継続した.研究デザインは後ろ向きのコホート研究とし,入院中の初回・退院後初回・術後半年後・術後1年後に浮腫の有無,可動域制限の有無,体組成計を用いての体重・体組成計測を行い,客観的評価を実施.また,退院後初回・術後半年後・術後1年後にはHand20(上肢機能評価表)・Quick DASH(上肢障害評価表)を用い,主観的評価を実施.術後1年の時点で浮腫を認めた群と認めなかった群の2群に分け単変量解析を行なった.その後,単変量解析から優位であった項目から,術後1年時点での浮腫発症に最も影響する因子を確認するため多変量解析を行なった.また本検討における浮腫の定義は,上肢周囲計測(手背・手関節・肘下10cm・肘上10cm・腋窩)において非術測との差が1カ所でも15mm以上あり,なおかつ圧痕テストで陽性を示すものとした.また可動域制限の定義は,肩関節(屈曲・外転・外旋)可動域が,術前より1運動方向でも5度以上低下もしくは左右で15度以上差が生じたものとした.
【結果】
浮腫を認めたのは29/173例(16.7%)であった.浮腫の有無の比較で,統計学的に優位差を認めたのは,術前化学療法の有無(p=0.01)・術後半年Hand20スコア(p=0.01)・術後1年Hand20スコア(p <0.01)・術後1年Quick DASH-wrokスコア(p=0.01)となった.ロジスティック回帰分析を行なった結果,選択された因子は術後1年Hand 20スコア(P<0.01)と術前化学療法の有無(P=0.04)で統計学的優位差を確認した.
【考察】
今回の検討で,当院の乳がん腋窩リンパ郭清術後の浮腫発症に関わる因子は先行文献やガイドラインと同様に化学療法の施行で影響があることが確認できた.また術後1年時点でのHand20のスコアも統計学的に影響があることも判明し,今後は詳細なスコアの確認やカットオフ値の検討も進めたい.まずは今回の結果を踏まえて,浮腫発症予防のために術前化学療法施行患者の術後半年のHand 20スコアに留意し,浮腫発症予防のための指導に活かしていきたい.