第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-5] ポスター:がん 5 

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-5-4] 急性骨髄性白血病に対する抗がん剤治療中にがん関連認知機能障害を呈した1症例

富樫 将平, 中川 麻由, 長谷 宏明 (独立行政法人国立病院機構広島西医療センター リハビリテーション科)

【緒言】がん患者における認知機能障害(CRCI)は,意思決定能力の低下やQOLの低下など様々な問題を引き起こす.一方で,CRCIに関する報告は若年患者を対象としたものが多く,高齢がん患者におけるCRCIの報告は少ない.今回,急性骨髄性白血病(AML)に対する抗がん剤治療中に,遂行機能障害や記憶障害などのCRCIを生じた高齢がん患者を担当する機会を得たため,その経過に考察を加えて報告する.なお,倫理的配慮としてヘルシンキ宣言に基づき口頭で本人及び家族に十分な説明を行い,同意を得た.
【症例紹介】80歳代女性,独居.長男,長女が県外に在住.X年Y月にAMLと診断され,化学療法目的に当院へ入院.同日より理学療法,作業療法(OT)を開始した.治療開始前のOT評価では,Japanese Version of MONTREAL COGNITIVE ASSESSMENT(MOCA-J):26,Geriatric8(G8):13,Barthel Index(BI):100,Lowton IADL scale(IADL):8,Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)A;6,D:2,Functional assessment of cancer therapy-cognitive function(FACT-Cog)自覚された認知障害:69であった.
【経過】抗がん剤治療として,ベネトクラクス/アザチジン併用療法が行われた.並行してOTでは,有酸素運動に加えて編み物を導入した.初回抗がん剤投与からDay5に発熱を認め,発熱性好中球減少症(FN)として抗生剤が投与されたが,37.5℃超えの発熱は9日間持続した.発熱時,OTはベッド上ROMもしくは中止とした.その後解熱したがDay28より再度発熱し,再びFNとして加療が行われた.37.5°超えの発熱は5日持続したが,解熱後は同様にOT介入を継続した.この頃より,OT場面での会話時に反応の遅延がみられていたが,その後の一時退院では問題なく過ごされていた.再入院後に2クール目が実施されたが,同様にFNによる発熱を認めた.37.5℃超えの発熱は20日を超え,OT介入ができない日が続いた.その後解熱したがスマートフォンの操作が出来ない,何度も同じ発言をするといった様子がみられるようになった.初期評価から約3ヶ月後にOT再評価を行うと,MOCA-J:13,G8:5,BI:85,IADL:3,HADS-A:15,B:14,FACT-Cog自覚された認知障害:17と評価項目全般で低下を認めた.OTでは記憶の代償手段としてメモリーノートを導入し,その運用について多職種カンファレンスで共有した.また,運動療法を継続しながら作業活動を難易度調整が行いやすいアイロンビーズに変更した.
【考察】高齢がん患者はCRCIに影響を及ぼす因子が多く,原因を特定することが難しい(Kah P L,et al .2016)と報告されている.今回の症例では,FNによる長期的な炎症や臥床時間の延長,リハビリ機会の減少,不安や抑うつの増大など様々な要素が関連していると推測される.解熱時にピンポイントで訪室し,認知面を考慮したOTを行うなど多職種で連携することによって実施可能な介入があったかもしれない.高齢者のCRCIの予防的介入については報告が少ない状況であり,今後も継続的な評価を行いながら関連因子の調査や予防的介入の検討を行っていきたい.