第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-6] ポスター:がん 6 

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-6-1] 当院のがん関連脳卒中の現状と課題

鈴木 有統1, 熊野 宏治1, 飯田 秀人1, 進藤 篤史1, 木戸 健介2 (1.パナソニック健康保険組合 松下記念病院 診療技術部 リハビリテーション療法室, 2.パナソニック健康保険組合 松下記念病院 リハビリテーション科)

【はじめに】がんサバイバーの増加によりがん関連脳卒中の増加が予測されている.がん関連脳卒中は領域横断的な介入が重要となるが現状では様々な課題がある.当院のがん関連脳卒中の現状と課題を事例を通して報告する.
【倫理的配慮】当院の医療倫理委員会を通じて報告している.
【方法】3事例の臨床所見とリハビリテーション(リハ)経過を提示し当院のがん関連脳卒中の問題点を明らかにし対応策を立案する.
【結果】(事例1)70歳代男性.X-2年に前立腺癌,多発骨転移と診断され抗癌剤治療を施行していた.X年に敗血症にて入院加療中,左被殻出血を発症し定位的血腫吸引術を施行した.リハ開始当初はPerformance Status(PS)4,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)48点,Functional Independence Measure(FIM)84点,Burunnstrom Stage(BRST)右上肢Ⅳ,手指Ⅲ,下肢Ⅳで右上下肢運動麻痺,重度感覚障害により主に食事,更衣,歩行に制限が生じていた.5週間の介入でサービス調整を行い自宅内生活可能なレベルまで達した.退院前にはPS2,SIAS56点,FIM103点,BRST上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴと改善を認めた.本人は外来通院で抗癌剤治療の再開を希望しリハ転院はせず自宅退院した.しかし,主科では抗癌剤治療が実施できるADLではないと判断された.(事例2)90歳代男性.X-14年,前立腺癌,多発骨転移の診断で他院にてホルモン療法を実施していた.X-2年に抗癌剤治療の中止を希望しその後BSCとなっていた.X年に右上下肢不全麻痺を呈し当院にてトルソー症候群と診断されリハを開始した.初期評価はPS4,SIAS51点,FIM34点であった.介入2週目から多発骨転移による疼痛増強により離床が困難となった.簡易コルセットを装着するも疼痛は改善せず離床困難となりPS4,SIAS25点,FIM18点とADLは低下した.本人は以前から延命希望はなかったが家族が脳梗塞への回復に期待され胃瘻増設を希望していた.このとき,家族には胃瘻造設をしても以前のようなADLの改善は乏しいということ,がんの予後が不良という説明がされていなかった.その後緩和ケア病棟へ転棟となり永眠した. (事例3)70代男性.X年Y月に膵癌の手術目的で入院予定であったが,手術予定日の数日前に脳梗塞を発症,ADLが著しく低下し手術は延期となった.開始当初PS4,SIAS33点,FIM43点BRST右上肢Ⅰ,手指Ⅰ,下肢Ⅰであった.非麻痺側の運動機能が高く起居動作,端座位は安定して行えていたが移乗動作や歩行が著しく制限されて回復期病院へ転院となった.X年Y月+6か月後に回復期病院から自宅へ退院し PS3,SIAS56点,FIM88点,BRST上肢Ⅳ,手指Ⅳ,下肢Ⅲと改善を認めた.しかし現在のところ膵癌手術には至っていない.
【考察】事例1ではがん治療継続の指標となるADLの改善がどの程度必要なのかを主科,脳神経内科医,リハスタッフとの間でコミュニケーションがとれていなかった.ADLの改善があったにも関わらず抗癌剤治療が中止となった.事例2ではがんの予後,ADL改善の見込みや胃瘻造設希望する家族の思いを医療チーム.本人,家族で情報共有する場がなく本人,家族の苦痛症状が長引いてしまった.事例3では回復期病院へ転院し脳梗塞のリハが長期化しており手術実施までに時間がかかってしまっている.脳卒中発症後のがん治療継続にはADLの改善が必要でありリハの役割が大きい.一方で,脳卒中治療とがん治療どちらを優先すべきか多職種で情報を共有し本人・家族の意思を含めた方針決定を行っていくといった領域横断的関わりが不明確である.今後はガイドラインをもとにキャンサーボードなどのカンファレンスを通じた多職種での方向性の確認が必要と考える.