第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-7] ポスター:がん 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-7-2] 意識障害を呈した症例に対して,ICU退室後におけるシームレスな作業療法の実践

眞鍋 綱介, 篠森 丞, 高岡 宏 (松山赤十字病院 リハビリテーション科)

【はじめに】近年,ICU在室中から退室後に生じる身体,認知,精神機能障害が,集中治療後症候群(以下,PICS)として注目されており作業療法(以下,OT)の有用性が期待されている.全国的に集中治療領域でのOT実施率も上がっている一方で,ICU退室後に活動レベルが低下していたという報告もある.今回,心肺停止から蘇生後に意識障害が遷延する中でICU在室中から早期離床を図り,退室後も多職種と協働し意識レベル,ADLの改善に努めた症例を経験した.経過を以下に報告する.尚,本報告に際し症例より同意を得ている.
【症例紹介】80代女性.145.8cm,64kg,BMI30.入院前:夫と長男家族と同居.屋内T字杖,屋外は押し車.ADLは入浴のみ一部介助.趣味:園芸.現病歴:胸部CTで肝臓に腫瘍を認め,当院肝胆膵内科を受診し,肝内胆管癌と診断.X年Y月Z日,肝前区域切除術,胆嚢摘出術施行.翌日ICU退室,OT開始.Z+2日:呼吸状態悪化,嘔吐による窒息で心肺停止となりCPRにて心拍再開.ICUにて人工呼吸器管理となる.頭部CTにて出血梗塞巣,低酸素脳症所見なし.
【介入と経過】Z+3日:ICUでOT再開.安静度ベッド上.人工呼吸器管理中,BP:138/81,HR:85,SpO2:97%,RASS:-4,ICDSC:6点.BI:0点.鎮静中のため従命困難.Z+7日:抜管,HFNC:40L,FiO2:100%.GCS:E2V1M4.抜管後も発語なく意思疎通困難.Z+8日: 安静度が離床可能となり端座位開始.SpO2:90%前半,やや努力性呼吸.PaO2:66.4,PaCO2:32.7.Z+9日: CTにて両側胸水,無気肺を認め,医師・看護師と協働し腹臥位療法開始.Z+11日:頭部・体幹の支持性低下あり,ティルト・リクライニング車椅子座位から開始.Z+16日:HFNC離脱,スタンディング車椅子にて立位開始.開眼はあるが従命困難.CAM-ICU陽性.Z+17日:ICU退室.多職種カンファレンス(以下,Cf)にて腹臥位療法を中止し,離床時間拡大を図る方針となり看護師見守りの下で車椅子座位時間を確保した.GMT: 四肢2,従命困難のため車椅子座位で自動回転式の簡易エルゴを上下肢共に実施し,症例の状態に合わせて段階的に負荷量を調整した.Z+21日: ムラはあるが覚醒度と下肢支持性向上に伴い歩行器での立位関連活動に切り替え,ADL拡大に努めた.会話の中で「花が好きで家で育てていた」と情報を得る.Z+23日:花の塗り絵を提供すると自発的に作業に取り組めたので,日中の覚醒を促す手段として看護師に作業依頼した.加えて,OTでは計算や迷路,注意課題などを行い脳の賦活化を図った.Z+24日:HDS-R:14点,FAB:6点,TMT-A:実施不可.意識レベルは改善傾向にあり,更衣動作訓練を開始.Z+29日:「外に出てみたい」と能動的な訴えがあり,バルコニーで気分転換を図る.Z+36日:押し車歩行開始.Z+50日:転院.
【結果】GCS:E4V4M6,酸素化良好.日常会話可能だが,夜間せん妄は残存した.HDS-R:20点,MMSE:15点,FAB:7点,TMT-A:297秒,線分末梢試験:36/36.GMT:四肢3+,握力8.2kg/11.6kg.起立は軽介助,立位保持は物的支持下で可能,近位監視で押し車歩行30m可能だが易疲労性あり,耐久性低下を認めた.BI:55点で食事・整容以外は介助が必要.
【考察】PICSは身体,認知,精神心理機能,ADL,IADL,QOLの低下に大きく影響する.OTは身体的な評価・実践のみでなく,より早期から認知機能や精神心理面に着目し,多職種と協働してADL,QOLの向上を図ることが重要と言われている.今回,ICUから多職種協働で体位ドレナージや座位・立位といった抗重力活動に加えて,退室時にCfを実施しシームレスにOTを展開できたことで,意識障害が遷延する中でも活動レベルの向上に繋げられ,意識レベル・ADL改善の一因になったと考える.