第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-7] ポスター:がん 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-7-4] 繰り返す入退院の中でも大切な作業を継続し重要な役割や人とのつながりを支援した一症例

村岡 紗季, 福榮 竜也, 釋迦堂 さおり, 愛下 由香里 (霧島市立医師会医療センター リハビリテーション室)

【はじめに】
作業とは,個人的,文化的に意味のある活動である.さらに,作業との結びつきは,自己の役割や存在意義,人とのつながりを再確認できることが報告されている.しかし,疾患によっては入院を繰り返す患者も多く,交流や役割を喪失してしまうことも散見される.今回,繰り返す入退院により社会的交流や役割活動が減少した症例を担当した.作業療法士と共に大切な作業を継続することで,人とのつながりや役割を持ち続けることができたことを報告する.本報告に関して本症例の了承は得ている.
【症例紹介】
60歳代女性 主病名:膵神経内分泌腫瘍
多発脊椎転移に対し他院にて放射線治療後に当院に転院となる.本症例は化学療法や症状コントロール等のため入退院を繰り返していた.趣味はアメリカンキルト,折り紙,手芸など.以前はスポーツジムに通い,同年代の方との交流もあった.
【作業療法評価・介入経過】
初回入院後より作業療法介入.生活歴や今後の生活の希望等を聴取した.Performance Status(以下PS)2,FIM78点.趣味活動再開目的にブロック折り紙を実施した.手順の理解は良好で,動作は問題なく可能だった.リハ時間以外にも端座位やヘッドアップ座位にて作業に取り組まれ,徐々に耐久性が向上した.自宅退院に際し,次回入院までにブロック折り紙のパーツを完成させることを目標とした.自宅で製作したパーツを再入院の際に持参され,作業療法時に完成させた.「次は花を作りたい」と作業への意欲も向上し,入院中も活動時間が増加した.疾患により今まで行っていた活動や社会的交流が減少し,繰り返す入院におけるストレスが大きかった.一方で「折り紙の作業に取り組む楽しみや,作業を通じて人との関わりが増えたことが嬉しい」と語られた.しかし,この時点では受動的な作業にとどまっていた.ある日,症例が持参されていた自作のアメリカンキルト作品を見て他患者や病院職員からも称賛の声が上がった.本症例はアメリカンキルトの講師歴があり,担当作業療法士が作品に興味を示すと,本症例より手ほどきを受けることとなった.普段使用していた道具を持参され,作品にまつわる家族や友人との思い出を穏やかに語りながら手ほどきを行う姿は最も主体的かつ積極的な様子であった.PS3,FIM61点と低下したが,作業療法時は疼痛や倦怠感の緩和を図りながら,身体状態に合わせて作業を継続した.自身での作品製作が困難となる中でも,作業療法士へのアメリカンキルト製作の指導は継続された.
【考察】
本症例は繰り返す入退院において,大切な作業を通じて他者とのつながりを得られ,社会的交流や役割活動を持ち続けることができた.先行研究より,人は作業的存在であり,作業への参加と結びつきにより,健康と幸福を促進できるとされる.身体機能が低下し,身体的な喪失体験を経験するなかでも,再び大切な作業に取り組むことで,作業を介して人とのつながりが広がった.それは,症例にとっての喜びや幸福感に繋がった可能性がある.また,患者が作業を行えるように介入することが,作業療法の本質であると報告される.症例が自身の人生を振り返りながらアメリカンキルトに携わり続けたことは,人とのつながりを思い出す機会や,症例の人生の役割の再獲得のきっかけになったかもしれない.疾患への罹患や入院という予期せぬ出来事があっても,作業や人との関わりを途絶えさせず,つながりを継続すること,本人にとってのその作業の意味を大切にすることが重要だと思われる.