[PF-8-1] 終末期がん患者の緩和的リハビリテーションにおける作業療法の役割
経験豊富な作業療法士へのインタビュー調査から
【研究の背景と目的】
終末期がん患者の緩和的リハビリテーション(リハ)は本人の要望を尊重しながら,身体的,精神的,社会的にもクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高く保つことを目的としている.一方診療報酬における「がん患者リハビリテーション料」の算定対象は,手術,化学療法,放射線療法などの治療前後と症状増悪のための一時的入院で在宅復帰を目的としたリハが必要な末期がん患者とされており,診療報酬においてQOL向上を目的としたリハは明記されていない.本研究の目的はがんリハのうち終末期がん患者の緩和的リハにおける作業療法士の役割を経験豊富な作業療法士の語りから明らかにすることである.
【方法】
経験豊富な作業療法士にインタビューを行い,「最も作業療法らしいかかわりのできた」事例を紹介いただきながら終末期がん患者における作業療法についての考えを聞き取った.Web会議システムによるインタビュー録画を文字データに変換し,逐語録を作成した.データ分析にはSteps for Coding and Theorization (SCAT)を使用した.
【倫理上の配慮】
本研究は,国際医療福祉大学大学院倫理審査の承認(承認番号 23-Ig-42)を得た.
【結果】
同意の返信ハガキを受領した順にA氏,B氏,C氏の3名を対象とした.インタビューは各協力者とも1回で,時間は平均110分であった.作業療法の介入内容にかかわる構成概念として,「積極的に作業療法を提供する基盤としての疼痛・体調管理」「生活のマネジメント」「機能訓練・ADL練習の提供」「情報収集した上での作業提供や提案・検討」「家族とのつながり」の5項目,また作業療法士の共通する資質として「コミュニケーション技能」が発見され,計6項目の構成概念が抽出された.
【考察】
本研究の協力者3名の語りから終末期作業療法の役割は以下のように考えられた:他職種と連携して疼痛・体調管理に直接的・間接的にかかわりながら,作業療法士として求められている機能訓練・ADL訓練による機能低下予防や廃用症候群の回復を図る.これらの訓練を実施しながら会話を深めて患者の生活歴等から人生観・価値観を探り,患者に合わせた作業を考案して提案し,患者の意思に基づいて作業を提供する.このプロセスの中で患者が機能改善など何らかの効果を実感した場合,自己効力感が実感され能動的に意欲が表出されて作業への参加がさらに促進される.ADLの実施や作業療法自体の時間,また余暇時間における患者の自主的な作業活動は一日の生活の枠組みとなり終末期の孤独感を軽減する.病状が進行すると患者の能動的な作業参加は難しくなるが,たとえ寝たきりになっても作業療法士はこれまで得た情報を基に最期まで作業療法士として本人の価値観に即してコミュニケーションを取り続け,孤独感を軽減するとともに身体的・精神的に「楽」な状態を作るよう介入を続ける.終末期がん患者の作業療法支援は,身体的側面としての機能障害のみならず主観的体験としてのスピリチュアルペインに対応していると考えられる.
【結語】
終末期がん患者の作業療法支援は,機能障害や痛みのみならず主観的体験としてのスピリチュアルペインに対応していると考えられる.看取り期では身体的側面への介入も可能だが,患者の症状が重篤となる前に依頼があれば本人の個別性を理解した上で作業を提供する機会が作れ,看取り期のコミュニケーションもより充実するなど作業療法の専門性を発揮できるようになると考えられる.
終末期がん患者の緩和的リハビリテーション(リハ)は本人の要望を尊重しながら,身体的,精神的,社会的にもクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高く保つことを目的としている.一方診療報酬における「がん患者リハビリテーション料」の算定対象は,手術,化学療法,放射線療法などの治療前後と症状増悪のための一時的入院で在宅復帰を目的としたリハが必要な末期がん患者とされており,診療報酬においてQOL向上を目的としたリハは明記されていない.本研究の目的はがんリハのうち終末期がん患者の緩和的リハにおける作業療法士の役割を経験豊富な作業療法士の語りから明らかにすることである.
【方法】
経験豊富な作業療法士にインタビューを行い,「最も作業療法らしいかかわりのできた」事例を紹介いただきながら終末期がん患者における作業療法についての考えを聞き取った.Web会議システムによるインタビュー録画を文字データに変換し,逐語録を作成した.データ分析にはSteps for Coding and Theorization (SCAT)を使用した.
【倫理上の配慮】
本研究は,国際医療福祉大学大学院倫理審査の承認(承認番号 23-Ig-42)を得た.
【結果】
同意の返信ハガキを受領した順にA氏,B氏,C氏の3名を対象とした.インタビューは各協力者とも1回で,時間は平均110分であった.作業療法の介入内容にかかわる構成概念として,「積極的に作業療法を提供する基盤としての疼痛・体調管理」「生活のマネジメント」「機能訓練・ADL練習の提供」「情報収集した上での作業提供や提案・検討」「家族とのつながり」の5項目,また作業療法士の共通する資質として「コミュニケーション技能」が発見され,計6項目の構成概念が抽出された.
【考察】
本研究の協力者3名の語りから終末期作業療法の役割は以下のように考えられた:他職種と連携して疼痛・体調管理に直接的・間接的にかかわりながら,作業療法士として求められている機能訓練・ADL訓練による機能低下予防や廃用症候群の回復を図る.これらの訓練を実施しながら会話を深めて患者の生活歴等から人生観・価値観を探り,患者に合わせた作業を考案して提案し,患者の意思に基づいて作業を提供する.このプロセスの中で患者が機能改善など何らかの効果を実感した場合,自己効力感が実感され能動的に意欲が表出されて作業への参加がさらに促進される.ADLの実施や作業療法自体の時間,また余暇時間における患者の自主的な作業活動は一日の生活の枠組みとなり終末期の孤独感を軽減する.病状が進行すると患者の能動的な作業参加は難しくなるが,たとえ寝たきりになっても作業療法士はこれまで得た情報を基に最期まで作業療法士として本人の価値観に即してコミュニケーションを取り続け,孤独感を軽減するとともに身体的・精神的に「楽」な状態を作るよう介入を続ける.終末期がん患者の作業療法支援は,身体的側面としての機能障害のみならず主観的体験としてのスピリチュアルペインに対応していると考えられる.
【結語】
終末期がん患者の作業療法支援は,機能障害や痛みのみならず主観的体験としてのスピリチュアルペインに対応していると考えられる.看取り期では身体的側面への介入も可能だが,患者の症状が重篤となる前に依頼があれば本人の個別性を理解した上で作業を提供する機会が作れ,看取り期のコミュニケーションもより充実するなど作業療法の専門性を発揮できるようになると考えられる.