第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-8] ポスター:がん 8

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PF-8-3] 術後認知機能低下のある消化器がん患者へのIADL介入で,役割活動が維持でき,QOL低下を予防できた事例

望月 優太1, 松森 圭司1, 関 みなみ1, 古橋 啓介1, 山鹿 隆義2 (1.信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部, 2.名古屋女子大学 医療科学部 作業療法学科)

【はじめに】
  がん患者は診断および治療の中で約75%に認知機能障害を呈し,認知機能障害は身体活動(Physical Activity;以下,PA)とQOLに関連すると報告されている.また,一般的な高齢者においてPAとIADL,IADLと認知機能は関連することが示されている.しかし,認知機能障害のあるがん患者のIADLとPAの関連については明らかになっていない.今回,術後に認知機能低下を認めた消化器がん患者に対する作業療法介入によりIADLが維持でき,PAの総量は減少したが,QOLは維持できた事例を報告する.今回の報告についてヘルシンキ宣言に基づき事例に説明し書面で同意を得た.
【事例紹介・初回評価】
 事例は60歳代女性であった.入院の半年前に表在型食道がんに対して内視鏡的粘膜下層剥離術を施行したが,術後病理検査で浸潤を認めたため追加切除目的で入院となった.入院翌日から作業療法を開始した.術前評価では基本動作,ADLは自立,認知機能はJapanese version of Depression MoCA(以下,MoCA-J)で26点だった.入院前の生活評価では,家事全般を実施しており,IADLはFrenchay Activities Index(以下,FAI)は38点だった.国際標準化身体活動質問票の総PAは234 MET-minutes/weekであった.QOLはEORTC QLQ-C30で評価をおこない全般的健康感は66.7であった.対象者からは「退院後に家事が手術前と同じようにできるか不安である」との訴えが聞かれた.
【介入・経過】
 術後5日目から作業療法再開し,プログラムとして,運動療法,認知機能へのアプローチおよびADL・IADL練習を実施した.IADLの模擬動作は疲労が強かったため,休息の取り方や負担の少ない動作指導を重点的に実施した.また,退院後の生活の身体活動を担保するために筋力トレーニングや有酸素運動の自主練習の指導を行った.術後14日に自宅退院となった.
【退院時および退院後評価】
  術後はMOCA-Jは22点であり,軽度の認知機能低下を認めた.退院時の基本動作,ADLは自立していた.退院1ヵ月後の評価ではQOLの全般的健康感は66.7で変化は見られなかった.IADLはFAIが36点で家事動作も維持できていた.国際標準化身体活動質問票の総PAは148 MET-minutes/weekであり,入院前と比較し低下していた.
【考察】
 術後に認知機能低下した消化器がん患者に対して,生活上の役割に合わせたIADLへの介入を中心に行った結果,PAの総量は低下したが,退院後のIADLとQOLを維持することができた.がん患者の認知機能はIADLを予測する因子と報告されている.本事例は認知機能低下からIADL障害が疑われたが,実践を想定した模擬的介入を繰り返すことで,退院後も能力が保持できたと考えられる.また,がん患者のPAの総量はQOLに関連することが示されているが,PAの内容や質とQOLの関係性は不明である.本事例から,PAの量だけでなく,PAの内容や質もQOLに影響があることが考えられた.今後はPAの内容や質も含め評価し,生活に即したリハビリ介入する必要があると考える.