第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-9] ポスター:がん 9

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PF-9-1] 脳腫瘍患者に対し,目標共有をしたことでゴルフ活動を再開できた事例

清水 海斗1, 廣瀬 里穂2 (1.高島平中央総合病院 リハビリテーション科, 2.目白大学 作業療法学科)

【はじめに】
 今回,悪性脳腫瘍を発症し,前頭葉症状を呈した事例に対して,放射線治療,余命宣告による身体的精神的な苦痛を伴っていたが,術後からADOCを用いて目標設定を行ったことで本人の意味ある作業を再獲得することができたため,報告する.なお,本報告に際し本人に同意を得ている.
【事例紹介】
 60代男性,独居.5年前に建築業を退職,町会の自治会長を担っており,趣味としてゴルフへ月2回程度行っていた.4人兄弟で,キーパーソンは長男であった.悪性脳腫瘍の発症によって,前頭葉症状が強く,脱抑制,動作緩慢,想起困難,注意機能の低下を認めた.術後,FIM運動項目63点,認知項目27点,ADLは見守りを要した.運動麻痺・感覚障害は認めず,MMSE23/30,HDS-R18/30,TMT-A53秒,TMT-B153秒,FAB14/18であった.
【経過】
 入院2日後,腫瘍摘出術を施行.術後3日目より覚醒向上し,初回面接では「一人でトイレに行きたい」との希望が聞かれたが,歩行時のふらつきと注意機能の低下等により見守りとなっていた.ADOCを使用し,目標の共有を図った.優先順位順に①トイレ②入浴③買い物④一人で生活する⑤ゴルフであった.2週目から放射線治療を開始.
 4週目からは認知機能等も改善がみられ,病棟のADLは自立,屋外歩行練習を開始する.しかし,主治医より余命2年半と告知され,告知後2週間は「今日は疲れてるからベッドにして」「もう何もできないかも」等,放射線治療の影響もあり疲労感や無気力な発言が聞かれるようになった.リハ意欲の低下に対し,多職種とも連携しながら関り,リハではベッド上での介入が中心となった.OTとの会話で「ゴルフはもうできないな」との発言が聞かれた.元々町会の自治会長を担っており,コミュニティの中で人と関わることを大切にしていた.特にゴルフでは,友人や兄弟と一緒にコースにでることを生きがいに感じていた.兄弟が面会に訪れた際,本人の気持ちを伝達すると,兄弟の協力によりメールや電話で友人から退院後のゴルフの誘いがあった.当初は否定的であったが,徐々に「体力が落ちてるから少し起きないとな」「空気を吸いに外へ歩きに行きたい」と前向きな発言が聞かれた.
 6週目には放射線治療が終了し,2週間後に退院が決定した.この時期から障害を受容し始め,「迷惑をかけず一人で生活できるように準備したい」と話し,買い物・調理訓練を実施した.また退院後,「余生を楽しむためにもゴルフをしたい」との希望が強くあり,段ボール等でパターゴルフのコースを作成した.作成時は建築業を活かし,自身で段取りから設定し,リハ以外の時間も作成するなど自主的に進め,完成には本人も満足していた.
【結果】
 FIM運動項目111点,認知項目35点,ADL自立,自宅退院となった.その他項目はMMSE30/30,HDS-R30/30,TMT-A30秒,TMT-B62秒,FAB18/18と変化した.ADOCの再評価では①トイレ:満足度2⇒5②入浴1⇒4③買い物1⇒4④一人で生活する1⇒3⑤ゴルフ1⇒4となり,外来診療に通いながら,兄弟や友人とコースでゴルフの再開へと至った.
【考察】
 介入初期からADOCを使用し目標を共有したことで告知後でも,今後の生活を見据えた関りができたことで介入が継続でき,退院後の生活・趣味活動へとつながった.また,セラピストだけではなく自身で考え,パターゴルフを完成させることで本人の満足度も向上し,意味のある作業の提供に繋がったと考える.