第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-9] ポスター:がん 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-9-3] 原発性脳腫瘍術後患者の退院後の低いQOLは身体活動量と関連しているのか?

古橋 啓介1, 伊藤 駿1, 塚越 大智1, 山鹿 隆義2, 佐賀里 昭3 (1.信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部, 2.名古屋女子大学 医療科学部, 3.信州大学医学部附属病院 保健学科)

【序論・目的】
 脳腫瘍は進行性疾患であり,治療に伴う様々な有害事象が存在する.そのため,作業療法では,生活の質 (QOL) を向上させることが重要である.原発性脳腫瘍患者のQOLと身体活動量の関連はまだ明らかになっていない.加えて,一般的に身体活動は文化的背景を受けるとされているため,身体活動量を増やすことを目標とするには,日本におけるエビデンスが必要となるが,日本での原発性脳腫瘍患者,QOLと身体活動量の関連の報告はほとんどない.そこで本研究は,今後の作業療法介入指針作成のために,探索的に原発性脳腫瘍の手術後にQOLが低い傾向にある患者の地域生活での身体活動量を調査した.
【方法】
 研究デザインは単施設でのケースコントロールスタディーで,対象者は2020年1月から2024年1月までに原発性脳腫瘍で手術した入院患者とした.適格基準は,18歳以上かつMini Mental State Examination-Japanese (MMSE-J) が24点以上の者とした.群分けは本研究の母集団をもとにThe European Organization for Research and Treatment of Cancer QLQ-C30の包括的QOLスコアの中央値である66.6>を低QOL群,66.6≦を高QOL群を基準とした.活動量の評価として,International Physical Activity Questionnaire日本語版Short Version (IPAQ-SV) を調査した.統計解析は,年齢や性別,Functional Independence Measureの合計点,Hospital Anxiety and Depression Scale,初発か再発か,仕事の有無を投入したロジスティック回帰分析にてPropensity score (PS) を算出した.1:1のPS matching法 (caliper=0.2) にてMann-whitneyのU検定,χ2検定による二群間比較を行った.有意水準はp<0.05とした.なお,本研究は当院の倫理委員会の承認を得て実施した. (承認番号:5715)
【結果】
 本研究における解析対象は50例であり,PS matching法により低QOL群8例,高QOL群8例が抽出された.基本属性では両群間で有意な差はなく,Met-h/w (8.9[2.4-13.4]VS53.2[17.7-128.1],p=0.02) ,移動に関する身体活動量 (198.0[99.0-321.7]VS1782.0[1064.2-4306.0],p<0.01) ,総身体活動量 (537.0[148.5-805.5]VS3193.0[1064.2-7686.0],p=0.02) の項目で有意差を認めた.
【考察】
 原発性脳腫瘍の術後に,地域生活で退院後QOLが低い患者は,身体活動量が低いままであった.また身体活動ガイドラインの推奨量に達している患者はいなかった.脳腫瘍術後患者は脳損傷や治療の影響により.他のがん患者より身体活動が減少しやすいといわれている.本研究の結果,原発性脳腫瘍の術後リハビリテーションの目標の一つとして,身体活動量の向上が挙げられることが示唆された.本研究は,日本において,原発性脳腫瘍術後患者のQOLに身体活動が重要である可能性を示した最初の研究である.今後は,QOLが低い対象者に対して,身体活動量を増やすことで,QOLが改善するかの介入研究が必要であると考える.