[PF-9-4] 化学療法後の上肢使用困難感と破局的思考を認めた中枢神経系原発悪性リンパ腫患者への介入経験
【はじめに】化学療法中に伴う副作用である化学療法誘発性末梢神経障害 (CIPN) は, 疼痛や痺れなどの感覚障害が長期間残存し, ADLに支障をきたすことが報告されている (関口縁, 2021). また, 二次的に破局的思考などの疼痛に対する悲観的・否定的な感情がADLに影響を及ぼすため, リハビリテーションでは認知的側面を考慮した介入も重要である (壱岐尾優太ら, 2020). 今回, CIPNによる手指の痺れを呈し, 上肢の使用困難感や破局的思考を認めた中枢神経系原発悪性リンパ腫 (PCNSL) 患者を担当した. 認知的側面に着目し介入した結果, 破局的思考とADLや趣味活動での上肢の使用困難感が改善したため報告する. 尚, 発表にあたり口頭にて本人の同意を得ている.
【症例紹介】 60歳代女性. 診断名: PCNSL (左脳梁膨大). 病前生活: 自立. 趣味: 裁縫, ボーリング. 入院21日前に眩暈と気分不良出現. 翌日,歩行困難. 近医受診し, 脳腫瘍疑いのため, 当院転院 (第1病日). 第2病日リハビリ開始. 介入時, GCS 4-4-6. 頭蓋内圧亢進症状 (+). BRS両上肢/手指 VI/VI, 両下肢 V. 感覚は上肢正常, 両下肢に感覚鈍麻を認めた. FIM69点. 第10病日にステロイド治療が開始され, 第20病日〜第81病日間に抗がん剤治療 (R-MPV) が施行された. 第20病日のR-MPV 1クール開始後, CIPNと考えられる手指の痺れが出現した. 5クール終了時には, 身体機能面は改善し, ADLは概ね自立となった. しかし, 一部のセルフケアや趣味活動での上肢の使用困難感を認めた. また,「今まで,できていたことができないなんてだめね. 毎日, 痺れのことを考えてしまう」などの悲観的な発言や破局的思考を認めた.
【R-MPV5クール終了後 (第89〜90病日) 】 (R/L) 意識晴明. 運動麻痺なし. MMT上肢4/4, 握力18.5/15.4kg, pinch力横つまみ3.2/2.9kg, 指腹つまみ母指-示指2.8/2.8kg. Semmes-Weinstein Monofilaments Test (SWT) 両母指と中指-小指は触覚低下, 示指は防御知覚低下. 痺れは両母指IP関節とDIP関節以遠に認め, NRS3で不快感あり. 深部覚上肢正常. Purdue Pegboard Test (PPT) 右11本, 左12本, 両手8組, アセンブリー15点. Pain Catastrophizing Scale (PCS) 合計30点. Hand 20合計20点.
【介入 (第90病日〜第118病日) 】 Hand20で認めた上肢の困難感をもとに目標を設定し, 患者と共有した. 具体的には, 不安を訴えていた「包丁操作, 裁縫, 爪切り, 重い荷物を置く」を目標とした. 裁縫や包丁操作は, 痺れによる失敗体験の恐れと不安を抱えていた. そのため, 段階的に難易度設定を行い, 実場面での成功体験を重ねることで破局的思考に伴う不安の軽減を図った. 重い荷物の移送動作では, 段階的に姿勢を変更し, 困難な動作方法を変更した. 爪切りは, pinchペグで機能訓練を反復して行い, 実場面へ繋げた. 段階付けた課題訓練により, 第98病日には, 実場面での上肢使用において「自信がつきました」と前向きな発言を認めた.
【最終評価 (第119病日) 】 SWTは右示指と環指正常, 母指, 中指, 小指触覚低下. 左中指-小指は正常, 母指と示指触覚低下. 痺れの範囲に著変なし. NRS2〜3と不快感軽減. PPTは数本の改善を認めた. PCS合計8点. Hand 20合計3.5点.
【考察】破局的思考を呈した患者は, 疼痛に対する恐怖や不安が増えると行動を過剰に回避する (松原貴子, 2013) ため, リハビリテーションでは, 明確な目標設定や疼痛以外に意識を向けることが重要視されている (水野泰行2010, 平賀勇貴ら2016). 今回, 明確な目標動作を患者と共に設定し, 課題の難易度を段階付けて実施したことで成功体験を重ねたことにより, 破局的思考と上肢の使用困難感の改善に繋がった可能性がある.
【症例紹介】 60歳代女性. 診断名: PCNSL (左脳梁膨大). 病前生活: 自立. 趣味: 裁縫, ボーリング. 入院21日前に眩暈と気分不良出現. 翌日,歩行困難. 近医受診し, 脳腫瘍疑いのため, 当院転院 (第1病日). 第2病日リハビリ開始. 介入時, GCS 4-4-6. 頭蓋内圧亢進症状 (+). BRS両上肢/手指 VI/VI, 両下肢 V. 感覚は上肢正常, 両下肢に感覚鈍麻を認めた. FIM69点. 第10病日にステロイド治療が開始され, 第20病日〜第81病日間に抗がん剤治療 (R-MPV) が施行された. 第20病日のR-MPV 1クール開始後, CIPNと考えられる手指の痺れが出現した. 5クール終了時には, 身体機能面は改善し, ADLは概ね自立となった. しかし, 一部のセルフケアや趣味活動での上肢の使用困難感を認めた. また,「今まで,できていたことができないなんてだめね. 毎日, 痺れのことを考えてしまう」などの悲観的な発言や破局的思考を認めた.
【R-MPV5クール終了後 (第89〜90病日) 】 (R/L) 意識晴明. 運動麻痺なし. MMT上肢4/4, 握力18.5/15.4kg, pinch力横つまみ3.2/2.9kg, 指腹つまみ母指-示指2.8/2.8kg. Semmes-Weinstein Monofilaments Test (SWT) 両母指と中指-小指は触覚低下, 示指は防御知覚低下. 痺れは両母指IP関節とDIP関節以遠に認め, NRS3で不快感あり. 深部覚上肢正常. Purdue Pegboard Test (PPT) 右11本, 左12本, 両手8組, アセンブリー15点. Pain Catastrophizing Scale (PCS) 合計30点. Hand 20合計20点.
【介入 (第90病日〜第118病日) 】 Hand20で認めた上肢の困難感をもとに目標を設定し, 患者と共有した. 具体的には, 不安を訴えていた「包丁操作, 裁縫, 爪切り, 重い荷物を置く」を目標とした. 裁縫や包丁操作は, 痺れによる失敗体験の恐れと不安を抱えていた. そのため, 段階的に難易度設定を行い, 実場面での成功体験を重ねることで破局的思考に伴う不安の軽減を図った. 重い荷物の移送動作では, 段階的に姿勢を変更し, 困難な動作方法を変更した. 爪切りは, pinchペグで機能訓練を反復して行い, 実場面へ繋げた. 段階付けた課題訓練により, 第98病日には, 実場面での上肢使用において「自信がつきました」と前向きな発言を認めた.
【最終評価 (第119病日) 】 SWTは右示指と環指正常, 母指, 中指, 小指触覚低下. 左中指-小指は正常, 母指と示指触覚低下. 痺れの範囲に著変なし. NRS2〜3と不快感軽減. PPTは数本の改善を認めた. PCS合計8点. Hand 20合計3.5点.
【考察】破局的思考を呈した患者は, 疼痛に対する恐怖や不安が増えると行動を過剰に回避する (松原貴子, 2013) ため, リハビリテーションでは, 明確な目標設定や疼痛以外に意識を向けることが重要視されている (水野泰行2010, 平賀勇貴ら2016). 今回, 明確な目標動作を患者と共に設定し, 課題の難易度を段階付けて実施したことで成功体験を重ねたことにより, 破局的思考と上肢の使用困難感の改善に繋がった可能性がある.